特別指導Ⅰ
お待たせしました!エピソード4に突入です!
魔導都市と魔術都市の境目を形成するゴリアテ山脈。
そこでは、魔導機を作る材料となる鉱石が多く採掘され、魔導都市の人々の生活基盤となっている。
そのゴリアテ山脈の中で、比較的なだらかな山であるリマエ山の中腹あたりに、少年と老人の二人がせっせと歩いていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……。最初っからリマエ山を登るなんて聞いてないぞ。
さみぃ……」
「ふぉっふぉっ。リマエ山はいい場所じゃぞ?急な斜面も無いしの」
「そうかよっ……!」
魔導学園の理事長と、魔導学園のハイクラスの一人、バルトラ・フォウ・グリストである。
二人は今、リマエ山の山頂付近を目指していた。
(ふぅ……流石に魔力が薄いな……)
高度が上がるにつれ、生きていくために必要な大気の魔力が薄くなるため、バルトラの呼吸は荒くなっていた。
ゴリアテ山脈は、数多くの山が標高3000ジレ(3000m)を超える山々であるため、中腹であっても平地とは様相がかなり異なってくるのである。
「ほれほれ。呼吸が浅くなっておるぞ。ゆっくりと吸い込むんじゃ。ゆっくり」
アドバイスが出来るほどに全く息が上がっていない学園長に、バルトラはその凄さをひしひしと感じていた、
(やっぱすげえな。息一つ変わらねぇ……)
「すぅー……ふぅ」
「いいぞい。さて、少しいって休憩でもするかのぉ」
「了解。てか、山頂まで行って何をするんだよ」
「それはのぉ……はて、なんじゃったっけ?」
「おいおい……」
(やっぱすげえけどすごくねぇ!)
時は少し戻り。
魔皇戦が終わった後、無事に魔導学園へと戻った一年生たちだったが、最後に現れたテューポーンの不気味さを忘れられずに、自身の寮部屋に引きこもる生徒が現れるようになっていた。
その事態を鑑みた学園の教師達は、生徒達に協力してもらうことで解決を図ろうと試みる。
そんな中でも、バルトラがいるハイクラスの生徒達は、帰ってきてからすぐに各々が好きな事をやっており、バルトラもその一人だった。
そして一月後。
多くの引きこもっていた生徒達が戻ってくるようになった頃、バルトラは学園長に呼び出された。
要件は、三回戦に起こったあの事象について。
「……私も話は聞いてるよ。ついてくるといい」
ビアーに言われ、バルトラは彼女の後をついていく。
第3講義堂を抜けイシュタルホールのそばにある階段を上がって行くと、理事長室に着いた。
理事長室に着くとビアーは二回扉をノックして
「学園長。入るよ」
と言いおわる途中で扉をあけて中に入った。
「もうちょっと礼節を学んだほうが良いかもしれんのぉ。ビアー」
「うるさいジジイ。どーせあの事なんだろ?」
(それは俺もそう思う)
そこには、一月前に会った白髪のしわこけた老人。
この学園のトップである学園長の言い分に心の中で頷きながら、バルトラはしっかりとした姿勢で学園長が話すのを待つ。
「おぉ。すまんな。此奴は小さい時から少し野蛮でのぉ。
どれ。まずは座ると良い」
「ありがとうございます」
「おいおい……。そんな態度少しは私にも取れよ」
学園長に座る事を許可されたバルトラは理事長室に備わっているソファに腰掛け、ビアーはその隣に足を組んで座った。
「さて。まずはワシの名前から教えるとしよう。
ワシの名はサイラス。この魔導学園の理事長を務めておる」
「バルトラ・フォウ・グリストです」
「分かっておるぞ。何分口うるさいエランの息子だからのぉ」
「あ、そうでした。じゃあ早速なんですが……、俺はいつから貴方に教わることが出来るんですか?」
その本題を、バルトラは早く聞きたかった。
無論、魔導をもっと深く学べる機会が得られると考えているためである。
「少し待つのじゃ。まずは、皇傑会議で取り決められた事をお主に伝えねばならん」
「俺に、ですか……?」
(俺は魔神教団のことなんて口外するつもりは……)
皇傑会議で決まったこと。
それは、バルトラにとっては関係がない事だと思っていた。皇傑会議では魔神教団という存在を今後公表していくのか否か、ということを話し合ったと思っていたのだ。
「うむ。今回の皇傑会議で取り決められたのは、魔神教団という存在を一般市民には知られないように箝口令を敷くこと、そして魔神教団の調査、並びに討伐を戦闘士に依頼することにしたのじゃ」
「ほ、本当ですか?!……てことはビアー先生も?!」
「今回はいかない。生徒達の身の安全を確保するためにな」
「そうか……。じゃあ俺って要らないんじゃ」
戦闘士は皇国の目が行き届いていない地域、未開拓地域の開拓や、そこに住まう新たな生命の発見など、常に命と隣り合わせの生活を送るエリート。
そんな彼らが依頼をこなすということは、四年という月日を待たずに解決できてしまうはずだ。
しかし、学園長の顔はあまり芳しくない。
「いや、戦闘士に依頼したのはいいが、戦闘士は皇国直属の者達じゃ。魔神教団の封印場所はまだ聞かされておらぬが、それがもし皇国の領土外だった場合は問題になってしまうんじゃよ」
「皇国の、領土外……?それって全部未開拓地域じゃないんですか?」
皇国の領土外。それは全て未開拓地域だと思っていたバルトラは不思議に思ってしまう。
「おいおい。ジジイがそんなこと喋って良いのか?結構秘密なことだろ?」
一方、その話を聞いていたビアーも学園長のまさかの話題に思わず突っ込んでしまうが、当の学園長は何食わぬ顔で話を続ける。
「良いんじゃよ。いずれは知ることじゃ。
バルトラ。ワシらが今住んでいる大陸、ゲニオン大陸は広大じゃ。その中の一国であるファリストン皇国にワシらは住んでいる。
じゃがのう、我々だけが国を作っておるわけではない。
他の場所にもワシらと同じような人間はおるし、その者達が作った国も存在しておるのじゃよ。そのような国に、ワシらのような知らない者が入ってくると、嫌に思わんか?」
「えっと……、そうですね。嫌な気持ちにはなります」
口ではそう言いながらも、バルトラの顔は思い詰めたような表情をしており、その顔を見たビアーはサイラスへの文句を心の中でこぼしていた。
(まだ10歳や11歳の頃にそんな情報与えても何も考えれないだろうに……)
だが、バルトラの心の内は、全くと言っていいほど違っていた。
ファリストン皇国以外にも国が存在する。
その事実を知ることだけで、バルトラは心が踊り、つい顔がにやけそうになってしまうのを防いでいたのだ。
(てことは、他の場所にも魔導みたいなものがあるってことか……!何かうちの魔導と違いがあるんだろうか……?全然わかんねぇけど面白ぇ!)
「だから戦闘士じゃない俺の出番、というわけですね!」
「お、おぉそうじゃ。最も、調査をしているのは戦闘士の面々ということにはしておるがの」
先ほどの思い詰めた表情からは想像できない、明るい声で話し始めたバルトラに、サイラスは少し驚いたが、気を取り直して最終確認を取る。
「バルトラ。お主は本当に受けるのか?これからいろんな事を考えて、時には苦しい決断をする時も出てくる。
それでも「大丈夫ですよ学園長。そういう時のために学園長がいるんでしょ?分かんなかったら教えてもらいますよ」
そう言い切ったバルトラの眼は、迷いなど微塵もない眼差しだった。
その様子に、先ほどまで心配していたサイラスとビアーも覚悟を決める。
「……分かったぞい。なれば、しかとワシについてくるが良い!四年でワシ以上の強さ、聡明さを身につけさせてやるわい」
「オッケー。じゃあ私はハイクラスの他の奴らに色々と言っておくよ。あいつらの方が四年後強くなってる、なんてこと無いように頑張れよ?」
「もちろん」
「ではこの話は終わりじゃ。明後日から始めていくようにしておくぞい。クラスメイトに挨拶でもしておくといいかのぉ」
とりあえずの話が終わり、ビアーとバルトラの二人は理事長室を後にした。
一人になった理事長室で、コンコンと扉をノックする音がする。
「良いぞい」
「失礼します」
「挨拶の一つでもかければよかったじゃろうに。のぉ。
エラン」
エランの表情は、なんとも言えないものだった。
「いえ……。バルトラはやる奴です。私の息子ですから。
ですが……絶対に死なせるようなことはしないで下さい。もしそんなことがあれば私は……!」
「分かっておる。最初からそんな真似はせんと約束しておく」
そして、挨拶を済ませたバルトラは、サイラスと共に学園の外へと向かい、今の状況となっている。
いかがでしたか?
ここからの四年間はいろんなことがまだまだ起こっていきます!ぜひお楽しみに!
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