魔皇戦第一回戦〜覚醒〜
お待たせしました!最新話です!
時間は少し巻き戻り。
クリス対ミュートンの激戦が繰り広げられていた頃、魔導学園の控え室では、魔導学園の代表メンバー達が部屋の上部に設置された球体によって映し出される試合の状況を把握していた。
「あのミュートンって人、クリスと互角にやりあってるね。ビアー先生と相当頑張ってたから一位は余裕だと思ってたけど。あの掌から出てくる火の玉も厄介そうだ」
「そうですわね……。クリスさんの破壊の籠手を食らってもピンピンしてますし」
「おい、お前らの相手じゃねぇんだから。今は自分の準備をしとけよ」
クリスと互角にやりあうミュートンを二人は分析していたが、バルトラの一言で我に帰る。
「おっと、ごめんごめん」
「あら、それは失礼しましたわ」
その時、2人の魔力同士の激しいぶつかり合いが起こり、その余波が控え室にも飛んでくる。
「……勝負、ついた……かも……?」
「すごい音だったねぇ〜」
「最弱の魔術使い……ねぇ。それはどーだか」
代表の面々が結果を見守る中、バルトラはぽつんとそう呟いた。
〜円形広場〜
「第二ラウンドと行こぉぜ!最弱の魔術使い!!」
高々と宣戦布告される中、マルコの背筋には冷や汗が流れ、手足はブルブルと震えていた。
(や、やばい……怖すぎる。なんて圧なんだ)
「どうしたどうした?震えちゃってんぞお前。そんなんじゃお前の懐、ガラ空きだぜっ!!」
一歩も足が動かない中、クリスはそれを見逃さずに凄まじいスピードで近づき、連続で拳を叩き込む。
「おらおらおらっ!!」
「がふっ……!」
その攻撃を避ける暇もなく、マルコはその攻撃をもろに受けてしまう。
「これでっ……!終わりだぁぁ!!」
反撃する気力もないと判断したクリスは、とどめに強大な一撃を叩き込んだ。
ゴシュッッッッ!!!
「ゴフッッッ……」
その勢いを殺しきれず、マルコは壁に激突してその場で動かなくなる。
「おいおい。ほんとに最弱の魔術使いだったとは驚いたぜ。実力の差がありすぎて攻撃も忘れちまったのかぁ?」
自らの勝利を確信し、クリスは煽りながらゆっくりと近づいていく。
「いけー!」「やっちまえー!!」
観客達もクリスの勝利を疑うことなく、会場はさらに一色に染まっていく。
その様子を、マルコは崩れゆく意識の中で微かに聞いていた。
(全身が、痛い……。も、もう力が……。
あぁ、やっぱり僕はダメなやつだ……。クラスのやつらは僕を応援なんてしてないしな……。ハハ……)
クリスとの圧倒的な差、それと同時に自分自身の不甲斐無さを感じてしまったマルコは、心が折れかかっていた。
(あの時……、僕は一歩も動かなかった……。
いや、動けなかったんだ……。
怖かった。あれだけの力を使いこなせる人達と戦うことが。もうずっと、このまま何もしない方が良いのかもなあ……)
マルコの身体と心は、既に限界に近い。
元より体を動かすことが好きではないし、嫌なことからはすぐに逃げてきた人生なのだ。
(だからもう……ここらで____
全てを諦めようとした瞬間、観客席から暖かな声が耳に届く。
「___コ!__ルコ!!頑張れ!マルコ!!!あなたはまだ出来るはずよ!!」
「あぁん?なんだなんだぁ?」
忘れることなどできない、自分をここまで奮い立たせてくれた人の声に違いなかった。
「ア、アル、マ……?な、なんで観客席に……」
「あなたがやってきたことは無意味じゃない!絶対にあなたの力になってる!だから自分を信じて!マルコ!」
圧倒的アウェーな状況の中、彼女は自分がまだできることを信じて疑っていない。
(そうだ……僕は決めたんだ……!!アルマの隣に並び立てるように変わるんだって!!!)
その瞬間、マルコの身体にとめどない力が溢れ出す。
「おいおい。あの女。この状況分かってねぇのかアホが。
んなこと言ったって、こいつ自体がこんなんじゃ_____!!!」
目の前の景色を、クリスは本当なのか疑った。
自身の目の前に、先ほどまで倒れていたマルコが立っていたのだ。
「な、なんでお前……」
「お前……、僕を悪く言うのは一切構わない。けど!アルマの悪口だけは許さないぞ!!」
「はぁ?なに言って___ブッッッ!!」
そう言い終わる前に、マルコは杖でぶっ叩かれていた。
(な、なんだこいつ!急にスピードが上がりやがった!)
『おぉぉぉ!!マルコ選手がぶち込んだぞぉぉ!!!』
先ほどまで盛り上がっていたはずのクリスの声援が、少し止む。
「ど、どうしたんだマルコのやつ……」
「なんか雰囲気が……」
なおも顔面を狙ってくる杖を危険に感じたクリスは、慌てて距離を取るとともに、興奮を隠し切れない。
「ハン!やっぱり本当の実力を隠してやがったか!!良いね良いねぇ!!楽しくなって来たじゃねぇか!」
戦意を高揚させ、マルコに襲い掛かる。
だが、先ほどとは違い、マルコは何も構えていない。
(なんだ……?さっきのは火事場の馬鹿力だったのか……?)
そんなことを考えていたが、瞬時にその考えが甘かったことを思い知らされる。
「裂球、二重。」
マルコは冷静に、詠唱を唱えずに次々と魔術を発動する。
すると、空中に複数の球体が浮かんだ。
「なにをしてやがるっ!」
懐がガラ空きなマルコに一発入れようとするが、その拳は球体により阻まれてしまう。
「なっ!」
『おっと!!クリス選手の攻撃が小さな球体に受け止められたぞぉぉぉ!!』
「まじかよ!クリスの攻撃を防いでるぞ!」
「あ、あれは……!第六階層魔術の裂球!!しかも無詠唱ってことは……!」
いつしかクリスの応援は減り、急激な成長を遂げたマルコへのざわめきが増えていく。
観客のざわめきが強くなる中、マルコは悠々と話し始めた。
「君の攻撃はすごく痛いし重い。けど触れられなければ問題は無いんだ」
「知ったような口を聞きやがって……!おらぁぁ!!」
クリスは尚も接近しもう一度攻撃を仕掛けるが、周りに浮かぶ球体に難なく防がれてしまう。
「ちっ!!!」
「無駄だよ。裂球は触れた物と一瞬隙間を開けて攻撃を防げるんだ。1回使うと消えちゃうけどね」
「んだよそれ……!だがお前の球は消えてねぇぞ……」
ふわふわとマルコの周りに浮かぶ球体は、全部で6個。
クリスが球体に入れた攻撃は2回。
マルコの説明の通りであれば残りの球体は4個になっているはずだが、球体の数は変わっていなかった。
「それは二重を使ったからさ。2回分の攻撃を受けれるようにしてるんだ」
その疑問に答えるように、マルコは自身の魔術をペラペラと喋っている。
「なるほどなぁ……。だが!残り10回攻撃をぶち当てれば良いだけだろ!!!」
魔術の種を理解したクリスは、球体を破壊すべく急接近する。
それを見届けたマルコは、目を閉じて詠唱を始めた。
''此処に集うは蒼き炎。その激烈なる力を持って眼下の敵を灰燼に帰さん"
蒼焔
球体を壊すために動き出していたクリスに、巨大な蒼き焔が直撃する。
「くっそがぁぁぁ_____
光が、フォンセ大聖堂を包みこんだ。
光が収まって来た頃、観客達は次々に目を開けていく。
『くあぁぁ!!これは強烈な光でしたねえ……!さてさて!結果はどうなっているのか……なっ?!』
そこには、二人が倒れていた。
『こ、これは相打ちかぁー!?こ、この場合は30秒間の間に立ち上がることが出来た方が勝者となりますがはたしてー!?』
観客達は固唾を飲んでその行方を見守る。
『残り20秒!』
『残り10秒!』
『9!』『8!』『7!』『6!』『5!』
「お、俺が勝者……だ……」
5を数えたところでクリスが立ちあがろうとしたが、立つ気力だけで精一杯だったのか、すぐ倒れ込んでその場に這いつくばって立つことが出来ない。
「く、そ、がぁぁぁ……!」
『3!』『2!』『1!』
イグナチアが0を言いかけた時、立ち上がった影があった。
「はぁ……はぁ……はぁ、僕の……勝ちだ……!」
その場に立ち上がったのは、最弱の魔術使いであったはずのマルコだった。
『0ー!こ、この勝負に勝ち3ポイントを得たのは、な、なんと!最弱の魔術使いと言われた男!マルコ・アイファズだぁぁぁ!』
うわぁぁぁぁ!!
観客の生徒たちは、この戦いで真の強さを見せつけたマルコに拍手と歓声を送っていたが、魔術学院で彼を蔑んでいた生徒たちは、手放しで拍手することはできなかった。
「これでやっと……アルマに追いつけ……」
拍手と歓声が止まらない中、気力だけで立ち上がったマルコは再びその場に倒れ込んでしまう。
『はい!回復魔術を持つ方々は急いで救護をお願いしますね!!後広場の壁が壊れてしまったんですこーしお時間を頂きますよー!30分後に第2試合を始めますねー!』
イグナチアの合図とともに、制服の上に緑の布をつけた集団が2人を担架で運んでいく。
こうして魔皇戦第一回戦は様々な熱狂を生み、生徒の覚醒をも促して終了した。
そして、混沌の二回戦へと時は近づいていく…
「よーやく目を覚ましたか。マルコ・アイファズ……」
いかがでしたか?
すこーし補足しておくと、魔術学校の皆さんが使っている杖はハ○ー・○ッターのような小さな奴じゃ無くて、人並みに大きな奴です。
後控え室の球体は例の生徒会長がやってます。
これからまだまだ魔皇戦は続いていくので、応援よろしくお願いします!




