魔皇戦準備Ⅱ〜SIDE魔術学院〜
少し遅くなりました。
アルマ篇第2話です!
追記 8/3
先生の名前が途中からリカルドになってたので訂正してます!
正しくはクロイスです。
「皆さーん。杖は使いこなせるようになりましたかー?」
ふわふわとした雰囲気を纏わせながら、クロイスは生徒たちに確認する。
アルマたち魔術学院の生徒たちに杖が配られて早半月。
あと半月に迫った魔皇戦の代表に受かるため、多くの生徒たちが杖を使った魔術を扱えるようになろうと練習していた。
大半の生徒は基礎的な第二階層魔術まで発動できるようになり、より高位の魔術を発動できるよう励んでいる。
その一方で、第一階層魔術もろくに発動出来ない生徒たちもいた。
マルコ・アイファズもその1人。
「火柱!」
マルコは杖に向かって火柱を発動すると唱えるが、杖はしんとした状態で何も発動しない。
「うぅ、全然発動しない。なんでなんだろう……。やっぱり僕なんて……」
マルコはすっかり自信を無くしていた。
アルマが代表になる!と意気込んでいたあの日、自分の部屋で一人考えた。
自分の好きな人が努力しようと決意しているのに、それを見ているだけで終わって良いのかと。
普段の自分だったら、そこで直ぐにあきらめてこんな考えを思いつくことさえ無かったが、今回ばかりは違った。
(今までの僕はこういう時なにもしたくなかった。でも今回は!今回だけはやらないといけないんだ!アルマと肩を並べられるように!)
アルマに追いつくため。
今までに持ったことがなかったその感情に突き動かされ、マルコは固く決意した。
そう決意したのだが……
「やっぱり無理だよ……。あんなに上手く出来ない」
決意というのは大変もろいもので、早々に塵となって消えてしまう。
それを体現するかのように、マルコは弱音を吐くようになってしまっていた。
つい1、2週間ほど前までは弱音なんぞ吐かず、一生懸命に杖を使った魔術を扱えるよう励んでいたはずなのである。
こんな状況になってしまったのは2つの理由があった。
1つは周りとの差。
第一階層魔術の発動すらままならない状態の自分を他所目に、他の生徒たちは続々と高位の魔術を発動できるようになっていく。
その状況に対して見て見ぬふりをしてはいたが、いやでも目に入ってきてしまう。
さらに、マルコたち杖の扱いがうまくいかない生徒たちを馬鹿にするような発言をする者も出てくるようになり、彼の心はどんどん折れていった。
極めつけは目標とするアルマの圧倒的な才能。
彼女は皆が第三階層魔術をようやく扱えるようになったところで、すでに第四階層魔術を完璧に発動できるようになっていたのである。
(くそっ!なんで……!なんで僕はこんなにも出来ないんだ!)
目の前で才能を開花させていく憧れの少女を目の当たりにしてしまい、ますます自身を卑下するようになってしまう。
(自分はこれっぽっちしかできない人間なんだ……。こんな僕なんて……)
だが、そんな自己に否定的な自分を救ってくれていたのもまた彼女だった。
自身の杖の練習が終わると気さくに話しかけに来てくれるし、魔術の練習中は真剣な顔をしているけれど、自分と話すときにはかわいい笑顔を見せてくれる。
そんな一面を見るだけで救われた気分になり、憂鬱な気持ちにもめげることなく頑張ってこれていた。
しかし、それも長くは続かなかった。
ある時を境に、アルマが話しかけに来なくなったのだ。
今までのモチベーションの殆どを占めていた彼女との交流が途絶えてしまい、急激な不安が襲ってくる。
(アハハ……。もう見捨てられてちゃった。何もできない僕だからな。そりゃそうか……)
そうして現在に至り、一応練習をしてはいるものの半ば自暴自棄になっているのである。
だが女神というのは唐突にやって来る。
「ねぇマルコ〜。火柱出来るようになったー?」
実に7日振りに女神が話しかけてきたのだ。
「ど、どどどうしたのアルマ!?」
緊張して声が上ずってつい大きな声を出してしまい、周囲の生徒たちの視線がこちらに集中する。
「えぇ……?火柱を杖で発動出来るようになったかなーって聞きに来ただけだけど?」
その慌て様を不思議に感じながらも、アルマは話に来た目的を伝える。
「あ、そ、そうなんだ……。いやぁ、まあまあ、かな……。ア、アルマはどうなの?」
今の自分にドストライクな痛い話題を出され、マルコは曖昧に返してしまう。
「あ、私?最近は第五階層魔術はもう使えるかな〜。もっと強くならないと行けないけどね」
「な、なんだと……!」
「たった半月でそこまで……!」
アルマの成長速度を知ろうと、周囲の聞き耳を立てていた生徒たちはざわめき始めた。
それもそのはず。
第五階層魔術を使えると彼女はさも当然の様に話しているが、半月で第五階層魔術を扱えるようになるというのは今の新入生の中には居ないのである。
「さすがですね〜アルマさん」
そのざわめきを聞きつけたクロイスが、彼女にゆるりと近づいてきた。
「ここまで成長が早いのはマキア君以来ですかね〜」
「えっ!マキアもですか??」
「そうなんですよ〜。その時の話聞きたいですか?」
「ぜひぜひ!」
話が盛り上がり始めた2人は、次第にマルコの元を離れていく。
その2人の背中を見ながら、マルコは悶々とした気持ちを抱えていた。
(マキア……。この学校の生徒会長だよな。こいつの話をする時のアルマ、いつもと全然違うんだよな……。上級生だからって彼女に近づいてるんじゃないぞ!)
「って、こんな事言っててもなんの解決にもならないんだよなぁ……。はぁ、やるか……」
心の中で恨みつらみを吐いていても、面と向かって伝えることなんて出来るはずがないマルコは、気を取り直して魔術の練習を再開する。
一方、クロイスと話が盛り上がっていたアルマは、特別な魔術を教えてもらうことになった。
「この魔術は本当は2.3年生あたりで教えるものなんですけど〜。アルマさんは成長が早いので教えちゃいますね〜」
「ありがとうございます!!どんな魔術なんですか?」
彼女のテンションがぶち上がる。
「じゃあ実際にやってみますねー。"清らかなる神たちよ 荒ぶる力を纏めよ" 水球」
クロイスが唱えたのは第四階層魔術の水球。
自身の近くに水で出来た球体を浮かばせ、魔力を使って任意の方向に飛ばす魔術である。
「???これのなにが新しい魔術なんですか?ただの水球ですよね?」
新しい魔術がなんなのか把握できずに頭を抱えていたが、クロイスはクスクスと笑いながら答えを言った。
「あらあら。アルマさんは視野が狭い様ですね〜。
よーく見てください。普通の水球とは違う所があるはずですよ〜」
「は、はあ……。ん……?」
彼女の言う通りに、周りに浮かぶ水球を見ていると、自信がいつも使うものとある違いがあることに気づいた。
「小さいけど、もう一つの水球がある……?」
通常の水球は球体の水を一つ生成するものだが、クロイスの周りには小さなもう一つの水球が浮かんでいる。
「なんで?!詠唱は一回しか言って無いはず」
「その正体が今から教える魔術の正体ですよ〜。
この魔術の名は二重。
詠唱は"叙述されし神の御業を今一度我が手に"です〜。
これを使うと〜、一つ前に使った魔術がもう一度発動するんですよ〜。第五階層魔術なので難しいんですけどね〜」
二重の圧倒的な汎用性に、彼女は感動を抑えきれない。
「す、すご!!これと杖を一緒に使えば戦い方がめちゃくちゃ広がる!ありがとうございますクロイス先生!」
「いいえ〜。頑張って上手く使えるようになってくださいね〜」
そうしてクロイスの元を離れ、アルマは早速二重を使った魔術を練習し始めた。
「絶対に代表になってやる……!」
こうして半月が過ぎていき_____
ついに魔皇戦の代表決めが始まった。
いかがでしたか?
この二重<デュアル>は杖を使うことで真価を発揮するというのも理由の一つなんですよね。
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