魔導学園入学Ⅲ
お待たせしました。バルトラ篇第3話です。
追記
9月12日 文章作法を直してます。
~バルトラ家~
試験が終わった次の日。
バルトラはライラから質問責めの刑にあっていた。
「それで、どうだったんですか?!ちゃんと説明できましたか?!全力を出せましたか!?」
「ちょ。ちょっと落ち着いてライラ。大丈夫。
ハイクラスには確定だろうから」
そう自信満々に言ったバルトラに、彼女は不審感を覚える。
「本当ですか!!良かったー!
あれっ?でもどうしてハイクラスが確定、なんですか?」
試験というものは公正公平でなければならず、結果は分からないようにしているはず。
だが、目の前の主人は少しばかり破天荒である。
「そんなの簡単だよ。ちょっとばかし脅したんだ。
ハイクラスになれなければこの技術を教えない、ってね」
「へぇー!脅しを……。
って、えぇぇぇ!!脅しぃぃぃぃ?!
なにしてるんですかほんとに!?」
そんな行動、いくら公爵家と言えども大層な問題行動なのである。
しかし、やはりバルトラは罪悪感のかけらも感じさせない。
「そんなことのなにがいけないのさ?」
「そ、そんなこと……」
(やっぱりこの人おかしい……。なんでそんな賭けに出てんのよ!)
やはりこの主人は、どこか頭のネジが取れていると感じた。
試験官は何人いたか分からないが、相当な地位にいる人物がやったのであろうというのは容易に考えられたからだ。
(まぁ、普通の人ならこんなことやろうとしない。相当図太い神経してないとできないことよ……。さすがは公爵家の嫡男ってとこかしら)
そんな彼女の思いも露知らず。
バルトラはあっけなく話題を変えた。
「ま、そんなことは置いといて。
父さんはどこにいるの?試験のこととか話したいんだけど」
置いておけるはずがないと心の中で突っ込みながらも、ライラは答える。
「あぁ、エラン様なら、アリスト様が先ほど帰ってきたので、お二人の部屋にいると思いますが」
その言葉を聞いた瞬間、バルトラの目の輝きが変わった。
「母さん帰ってきてるの!!会いに行かなきゃ!!」
「あっ、ちょっと!バルトラ様!」
居間のドアを開け、ダッシュで2人の部屋へと走り出す。
ライラはとても焦った。
(まずい!アリスト様が帰ってきたってことは、2人のゴールデンタイムが始まっちゃう!まだ10歳のバルトラ様にあれは見させられないわ!)
~エラン&アリストの寝室~
ライラが到着すると、寝室のドアは閉まっていた。
しかし、そこから漏れ出す艶めかしい声が、彼女を戦慄させる。
「いやっ//そ、そこは……」
「どうして?アリストのここ、すごく硬くなってるよ?」
「う、うんっ//」
(まずい!!ここは思いっきり……!)
ライラはバルトラが来る前に止めなくてはと思い、勢いよくドアを開けた。
「ストーーーップ!バルトラ様が来るのでこれ以上は……!」
が、そこにはアリストの肩を揉んでいるエランと、それをベットに寝転がりながら退屈そうに待っているバルトラがいた。
「ちょっとー、早く終わってよ父さん。早く母さんにいろんな事聞きたいんだから」
「待て待て。母さんだって長い活動で疲れてるんだから、俺が癒してやらないと」
(はぁ。良かった。まだフィーバーは始まってないのね)
安心したのも束の間。
アリストからバルトラの近況を尋ねられる。
「ライラちゃんも大きくなったわね。
バルトラの様子はどう?ちゃんということ聞いてる?」
金色の艶々とした髪。整った顔立ちに圧倒的な母性の象徴。
それらを兼ね備えたアリストの溢れ出るオーラに、思わずライラはたじろいでしまう。
(うぅ……!なんてオーラなの!やっぱり綺麗すぎる。それにあの大きさ……!どうすればあんなに大きくなるの?)
そんなことを考えているなど知らず。
質問しても返答が返ってこないライラのことを、アリストは心配していた。
(あの子まさか……!そこまでライラちゃんに迷惑を……?)
バルトラに直接聞いた方が良いのかと思い声をかけようとしたところ、彼女のオーラから立ち直ったライラが話し始めた。
「バ、バルトラ様はとても頭の良い子に育ってますよ。たまに私の言うことは聞かないときはありますが」
「へぇ……。バルトラ?なんで顔そらしてるのかなー?」
顔を逸らして知らないふりをしていたバルトラだったが、目の前の野獣に睨まれてその場から動けない。
「う。ご、ごめんなさい。たまにライラが口うるさくいってくるから……」
厳しいお叱りが来るかと覚悟していたが、意外に彼女は優しく諭すように言った。
「それもあなたのためよ。言ってくれないってことはもう呆れられてるってことなんだから、言われてるうちに直しなさい」
「は、はーい」
(あぶねー。なんでか分かんないけど怒られなくて良かった……)
そんなことを思っていると、アリストは再び穏やかな顔に戻っていた。
「それで、バルトラは私になんの話を聞きたいの?」
バルトラは母に聞きたいことが山ほどある、といってこの部屋に来たが、ライラの事ですっかり忘れていた。
「そうだった。母さんに聞きたかったのは未開拓地域のこと。言えない情報もあるかもだけど、言えることだけでいいから知りたいんだ」
未開拓地域はその名の通り、皇国がいまだ把握しきれていない場所のことであり、戦闘士たちによって得られた情報はまず皇国に伝えられ、その後魔導都市に伝わっている。
「そうね……。ほとんど機密事項だから言えないんだけど……。1つだけ。
この大陸には人間以外の人族がいる、っていうことだけね」
その言葉を聞くだけで、胸が熱くなってワクワクが止まらない。
「人間以外の人族が……。
おもしろい!おもしろいなぁ!わくわくするよ!ありがとう!母さん!」
そういうと、バルトラはうきうきした足取りで自身の部屋に戻っていった。
「あ、ちょっとバルトラ様。まったく、すーぐどっかに行っちゃうんですから」
ため息をつきながらバルトラのもとへ行こうとすると、不意に両親に呼び止められる。
「ライラ。ちょっと」
「?」
2人はライラに向かって感謝の意を述べた。
「礼を言うよ。ライラ。
10歳になるまでとても世話が焼けたと思うけど、よく頑張ってくれた」
「私からも礼を言うわ。本当にありがとう。ライラちゃん。私がいない間母親のように叱ってくれて」
なんだか別れの挨拶をされているようで、ライラは照れ臭くなってしまう。
「エラン様……、アリスト様……。まだまだ私は働きますから、それ以上の礼はもっと先までためておいてください」
「そうか……。そうだな。辛気臭いのは終わりにしよう。バルトラの入学までは専属侍女として頼むぞ」
「はい!喜んで!」
ライラは改めて、この仕事がとても有意義なものであることを再認識した。
そんな和やかな雰囲気の中で、急にエランがライラの耳元にぼそぼそと呟いた。
「それで、ちょっと相談なんだが……」
「?どうされました?」
普段は冷静な当主の声は、何かをせがむような、一生懸命な声に変わっている。
「今日の夜から俺はこの部屋を離れられない。絶対に。アリストに搾られちゃうからバルトラの入学式は頼む。
やばい、見てくれ、アリストの眼が獣になっちゃってる!」
「え?」
ちらっと母の方を見ると、獣のような視線を向けていた。
ライラがこの寝室から出ていけば、エランは瞬く間に襲われてしまうだろうというのは容易に想像できた。
(こういうところはちょっとやばいわ公爵家……。
あっ。アリスト様の美貌の秘訣はこれかも……)
「は、はい。分かりました。死なないでくださいね」
すでに冷静になっていたライラは、エランの無事を少しだけ祈って部屋を出た。
「俺……死ぬのかなぁ……」
エランの夜はとてつもなく長かったようである。
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