力の変容Ⅲ
最新話更新です。
元来、魔法とは誰もが扱うことのできる基礎魔法、魔法都市に産まれ落ちた魂に刻まれる心魂魔法の大きく二つに大別される。
とりわけ心魂魔法は謎が多く、未知の領域となっている。
たしか、一年生の授業でこんなことを言われた気がする。当時の俺は多分、「へぇーー」くらいにしか思っていなかったはずだ。
でも今ならよく分かる。こういう例外的な存在が、心魂魔法が何なのかという問いを難しくしているんだと。
「……その、家とか大丈夫なんですか?」
「もちろん、大丈夫じゃなかったわよ。私の手が触れた瞬間に壁は崩れ落ちるし、侍女の人たちの服もバラバラにしちゃったし、たくさん傷もつけちゃった」
今までチートだ!とか騒いでいた自分を殴りたい。そう思うほど、ネリエルさんの心魂魔法はピーキーな性能すぎる。
「でも、おかしくないですか?心魂魔法は基礎から応用っていう風に拡大していくものじゃ……」
「授業でそんなことは教えてないでしょ?グラハムにみっちり説教したから」
「あっ……」
確かに、今俺が言ったことは授業では習ってない。あくまで俺の経験と色んな人から聞いた個人的な予想であって、確定された事実じゃない。
「私の家は元々身分が高かったらしくて、皇帝の懐刀としての役割を担っていたらしいの。別に皇帝一家との繋がりも全く無いんだけどね。その理由は、圧倒的な破壊力。
どれだけの力を持ってしても破壊できない物を、いとも簡単に斬ってしまうこの魔法だけが家の存在意義であり、皇帝一家が欲していたものなの」
「……」
酷な話だ。能力だけが優先されて特別に位を与えられるなんて、要は使い捨ての駒ってことかよ。
「私の家は、その地位を逃したくなかった。詳しい理由は分からないけどね。だから心魂魔法と契約を交わしたの。
一家にずっと発現することと引き換えに、発現者に能力を制限されないってね」
「……そんなこと、出来るんですか?」
心魂魔法は対話ができる存在である以上、契約を交わすことだって可能なはずだ。けど心魂魔法は人間個人の魂に刻まれた魔法。いわば人間が親のような存在なのに、親と対等になろうとさせたとは。
「普通は考えないよ。最初に私がこの話を聞いた時も同じ感想だったもん。でも、提案したのは私たちの方。心魂魔法はただ約束を守り続けてるだけなの」
「なるほど。……なんとも言えないなぁ」
力を求めた事を咎める権利なんて持ち合わせていない。けど、あまりにも身勝手な契約だと思った。
「結局、皇帝は行方をくらまして皇国という名だけが残り、地位の保証元がいなくなった私の家は平民に戻った。だけど契約は破棄されない。ずっと残り続けている」
「じゃあネリエルさんは、すぐ心魂魔法を扱えるように?」
無造作に何もかもを斬るとなると、かなりの対話が必要になる。というか、抑えこめるのかどうかも分からない。でも抑えなきゃ生活もままならないはずだぞ?
「無理だよ。私一人で抑え込めるほど、心魂魔法は弱くない」
「じゃあどうやって?」
「グラハムが居てくれたから。彼がいたから、私は多くの時間を抑え込むことだけに注力できたのよ」
言葉に迷いの色は一切見られなかった。
それほどまでに、グラハムの存在はネリエルさんにとって大きかったのだ。
「グラハムの心魂魔法って……」
「頭の回転が速いレージくんなら、二法の片割れって名前である程度推測できるんじゃない?」
投げかけられた質問に、俺は頭を巡らせた。
(二法の片割れ……。つまりは二つで一つだったってことか?となるとネリエルさんと似た能力?でもあいつがいたから時間が作れたってことは、勝手に抑え込めたってことか。となると同じ能力というよりは……)
「"斬る"ことの反対、"繋ぐ"こと……」
「正解〜」
サムズアップしてにんまりとするネリエルさんを横目に、俺は驚きを隠せなかった。
「てことはあいつの心魂魔法は」
「手で触れたものを全て繋げるの。どれだけバラバラになっていようと、元の形をグラハム自身が知覚していたらね。そして私とグラハムの心魂魔法は互いを潰しあう存在。
側にいるだけで勝手に力は弱くなる」
互いを潰し合う存在……ってことは?!
「あいつもネリエルさんと同じような道を?」
「えぇ。まぁグラハムの性格と心魂魔法だったから、あまり落ち込むことは無かったけどね」
「あはは……。そうとしか思えない」
目を離すとすぐにフラフラ色んなところにいく奴だ。他人の目は気になるようなタイプじゃないんだろうな。
「話がそれたけど、心魂魔法は私たち人間と深く結びついているけれど、深く知ることは出来ていない。
だから結論としては分からない、が答えだね」
「そうですか……。ありがとうございます!色々知りたい事が聞けました!」
(結局、俺の現状は誰にも分からないってことか……)
この場にグラハムが居たら、まだまだ新しい手がかりが掴めるかもしれなかったけど。
「これからどうするつもりなの?」
「うーん。心魂魔法が無い理由が分からない以上、今は基礎魔法とか魔力を底上げする事しかできないんで、ひたすらそれをやっていくって感じですね」
(童心に戻ってやっていくかぁ)
そんな事を考えていると、ネリエルさんは思い出したように言った。
「もしかしてレージ君、私が心魂魔法に一番詳しいと思って聞きにきたの?」
「え?そうじゃないんですか?」
魔法学校の学校長ってことは、かなりの知識が無いとできない職だと思ってたんだけど、この口ぶりはもしかして……。
「あはは。違う違う。普通の人よりは知ってるけど、私の知識は全部あの人の受け売りだから」
「だ、誰なんですかその人!?」
「一度お世話になってる人よ。人魔逃げで」
「……まさか!?」
『あなたはなんで、レージにイタズラするの?』
『あんたには関係ないでしょ!』
『もー。じゃあ早く僕を出してよ。レージが困ってる』
『だめ。私に気づいてくれるまで出してあげないわ!』
はぁ……と大きな溜め息をつき、彼は彼女に根負けして何も言わなくなった。
『なんで私に気づかないのよ……!玲二!』
レージの中にいる彼女の声は、未だ響かない。
いかがでしたか?
次は久しぶりにあの方が登場します。




