新たな任務Ⅳ
最新話更新です。
「おっきい〜!!」
「校舎以外でこんな大きな建物、初めて見たよ……」
「そこまで驚いて貰えるとは。嬉しい限りです」
笑顔を絶やさないドライアスの後ろに聳える、一帯の景色とは隔絶した威容を誇る建物。
魔導都市でもあまり見かける事のない大きさに、ニコルやヴァイスは感嘆の目を向けていた。
「首長の家だろ?これぐらいデカくて普通じゃイテッ」
当たり前のことを言ったはずだったのに、ビアーはバルトラを軽くこづいた。
「こら。私らの常識を当てはめるな」
「えぇ?普通はそうなんじゃ」
「この景色を見れば分かるだろ。魔導都市とは文化も技術も違う。考え方が違うことだってあり得ることだ。そうだろう、ドライアス殿?」
ビアーがドライアスへと視線を向けると、先ほどとは違った、貼り付けたような笑顔を浮かべたドライアスは答えた。
「バルトラ殿の言うことは正しいですよ。国の代表である大公は、威厳を持たなければいけない」
「……なにか訳ありのようだな、ドライアス殿」
「よくお分かりだ。さ、中へご案内しますよ」
人間にふりかかる悪意の視線に気づくことなく、一行は屋敷の中へと入っていった。
(……)
「ちっ、気づいてやがるな。撤収だ」
「ほんとですかい姉御?」
「分かるんだよ。一人こっちを見てやがった。それに、ガキ達の中で一人やべぇのがいる。準備し直しだお前ら」
「「「あいあいさー!!」」」
「うるさいっ!」
「……広い……」
「わたくしのお部屋と変わらないくらい大きいですわね……」
「いやお前の家も大概広いな」
階段を登って連れてこられた応接間のような場所。
外観に負けず劣らずの豪華な内装と、魔導機のような機械が飾られたこの部屋で、ビアーはアレンに不穏な空気を感じ取っていたことを話していた。
「アレン、ここは……」
「うん。分かってる。だから僕たちをここまで連れてきたんですよね。ドライアス殿」
「……よくお分かりだ。周りにドワーフは居なかったように見受けられたんですが」
「ん〜??何の話〜?」
三人の間でどんどんと進んでいく会話に、バルトラを含むハイクラスの生徒達はその内容についていけない。
「お前達、外に居た時なにか感じなかったか?」
「特になにも」
「わたくしもですわ」
「右に同じく」
「ドワーフ自体居なかっただろ」
(やはりか……)
あの時二人が感じたのは、間違いなどではない。現にドライアスも認めている。
「私らがあの時感じたのは、明確な悪意だ。こいつらの反応を見るに、巧妙に隠されていたかなにかだったようだが」
「僕たちは友好を示す大使のはず。もしあの悪意が本当だったとしたら、ユシクフは魔導都市を騙したということになりますが」
途端にヒリヒリとした空気に変わる部屋。
ドライアスにふりかかる二人の冷たい視線に、生徒達は驚きとすこしの恐怖を感じていた。
(こんな表情のビアー先生、初めて見た……)
(今までの優しそうな顔はどこにいったのでしょう?怖いですわ)
不審な動きを一つでもとれば、その瞬間にドライアスの身体を切る。
言葉にせずとも伝播する二人の殺気を向けられたドライアスは、頬に一筋の汗をかきながらも平静を保って答えた。
「はい。ユシクフ大公国は、人間達を嫌悪しています。技術を模倣し発展させ、我らの技術には誰も振り向かなくなってしまった。怒りも湧きますよ」
淡々と答えるドライアスの喉元には、命を刈り取る紅色の鎌がかけられていた。
「ビアー!」
「……こんな所に、大切な生徒達を置いておけない」
「駄目だ!まだそうと決まったわけじゃない!」
「……どう言うことだアレン」
アレンの制止で、少し刃を離したビアー。
その瞬間、ドライアスは頭を深く下げた。
「頭を上げてください、ドライアス殿」
アレンからそう言われても、中々頭を上げることのないドライアス。
そのまま動かずに数分が経った頃、我慢の限界に達していたビアーは、つい声を荒げてしまう。
「おい!!早く顔を」
「我々はっ!現在国の存亡の危機に立たされています!」
頭を下げたまま、ドライアスは叫んだ。
「力を貸していただきたいのです!!我らユシクフが、再び前を向けるように!!」
「…………」
何がどうなっているのか、状況を把握できていない生徒達と、何とも言えない表情になっているビアー。
総じてとても気まずい空気になってしまった中、アレンは落ち着いた声色で話しかけた。
「ドライアス殿。まずは顔を上げてください。そしてお話し下さい。ここで何が起こっているのか、私達はまったく理解できていないのです」
「……よろしいのですか?本来ならばこのような願いは」
「切り捨てる事は容易ですが、貴方の口ぶりに嘘偽りは感じられなかった。細やかな悪意にすら気づける私達が、です。ね?ビアー」
「……」
食い下がる事なくビアーが鎌を引いた後、ドライアスはゆっくりと顔を上げた。
「そんな顔をしないで下さい。まだ解決したわけじゃ無いんですよ?」
「いえ''……!何ど言えば良いのがっ……!」
抑えていた感情が爆発して、しばらくの間涙を流していたドライアスだったが、少しおさまった後、大きく深呼吸をした。
「ふぅーー……、失礼しました。ではお教えします。我らの国、ユシクフ大公国の現状を」
皆に緊張が走る中、ビアーは心の中でサイラスに文句を垂れていた。
(あいつ、子供たちを連れてくる場所じゃないだろうが!何をやってるんだほんとに……)
「へっくしょい!!」
「風邪ですか。ご老体に差し障る前にお休みになった方がよろしいかと」
「ただのくしゃみじゃよ。それに、休める程平和な世では無いことなど、おぬしが一番分かっておるじゃろうて」
「……」
胸元に忍ばせていた手紙を、エランはサイラスへと渡した。
「今朝、私の家に届いていました。悪戯だと思いたかったですが、この筆跡は」
「うむ。ご丁寧に名前まで入れておるからのぉ。何年経っても、この荒々しい書き方は変わらんな」
「あいつもそうでしたから、身体に刻まれているのでしょう」
「自身の息子に呪いを背負わせるとは。
フロステン」
手紙には、一言だけ書かれていた。
許さない
フロステン・ララバルク
ゼタストン・ララバルク
「行くぞゼタ。アラヤには伝えているな」
「はい父さん。抜かりありません」
「我の技術を盗んだサイラス、そしてサイラスと協力し、お前を退学へと追いやったエランへの裁きの時だ」
狂気が、サイラス達を襲う。
いかがでしたか?
色々な奴らがまた動き出しますね……!




