力の代償Ⅰ
最新話です。
レージのあの後から始まります。
「!!……なんだこの魔力」
「何よそみしてやが」
「うるせぇ」
襲いかかる魔族を、そこらの石を蹴るように殺しながら、ミディは突如として産まれた強大な魔力の正体に驚いていた。
(俺の心魂魔法が最大限に発揮されている時と同じか、それより少ない位か。どちらにせよ化け物的だが、これまで隠していたとしたら、その魔族はなんらかの理由で魔力量を制限していたってことか。
あるいは……)
「っ先輩!今の……」
「分からねぇが、ヤバい奴が出てきたのは間違いねぇ。行くぞマリア」
「は、はい」
二人はその正体を知るため、強大な魔力を放つ方へと走った。
(ん、んぅぅ……)
段々と視界が開き、長い時間眠っていたような意識もはっきりしてきた。
その時、左側からひどく怯えたような声が、血生臭い匂いと共に俺を急激に覚醒させた。
「や、やめろぉぉ!!い、命だけはぁ!!!」
「……は?俺は、何を」
声のする方へ目を動かすと、俺は、自分の体格をゆうに超える豚のような生き物の首根っこを掴み、引き摺っていた。
(どーなってる……。俺がやってた、のか?)
自問自答しても、答えは状況が指し示すまま。
「どうして」
とは言っても簡単に受け入れられずにいると、首元を掴まれていた豚のような生き物の息は、絶え絶えになっていた。
「がっ、やめ、」
「なん、で」
姿形が違うと言えど、自分の手で生命を殺めている。
咄嗟に力を緩めようと左手に力を入れるが、俺の左手は全く緩むことなく、かえって締め付ける力を強くし始めた。
「かはっ……」
ついに、手を通して感じていた脈動が、動きを止めた。
動かなくなった生き物を掴んだまま、俺は必死に今までの記憶を辿る。
「どうしてこんな状況に……。確かあの時」
ミュートンとシェヘラ姐が危ないと思った時から、いつの間にか誰かと話していた。
(破壊がどうのって、!!!)
思い出した。
あの時、俺は俺の本質__破壊の因果に身を任せたんだ。
今までの自分は仮初に過ぎず、本当は何もかもを破壊してその愉悦に浸ることが真の自分であると説かれ、それを俺は受け入れた。
大切な友人が死ぬかもしれないという恐怖と、許さないという激しい怒りに身を任せて。
「これが、その結果か……」
自分の身に起きた事を理解した途端、身体全体に意識が通り、俺は死して尚掴んだままだった魔族の首を離した。
「はは。すげぇや」
力が溢れてくる。
鍛えたおかげで魔力量も多くなってるはずなのに、今は多分その倍近くある。
ここまで来ると、魔力を体内に隠しきれなくなって放出しているようにも感じた。
「なんか、強くなった気分だ」
気分では無く、本当に強くはなってるんだろう。
でも何故だか、この力を使ってやろうという気にはなれなかった。
「なんでだろうな」
あいつは、内にいる俺は、破壊の衝動がどうたらとか言っていた。
文字通りに考えれば、多分俺はこの建物とか何もかもを破壊したいと言う衝動に駆られているはず。
「……特に無し、と」
別に廊下の木の板を見ようと何も思わないし、なんとなく見返した魔族の死体を見ても、何も感じなかった。
「となると、ただ力が増えただけか……?」
厳密に言えば、今のところ増えたと感じているのは魔力量なだけで、今後何かしらの力が増加している可能性もなくはない。
「でもまずは」
次に確認したかったのは、魔力制御が出来るかどうか。
俺は今まで、大まかな動きでほんの少しの時間だけなら可能、みたいな、正直無いと言って良いような状態だった。
それが今の力を解放した状態なら……。
「よし……」
一度歩みを止め、身体の内側へと意識を集中させる。
(体内の馬鹿でかい魔力を、まずは下半身に)
もし制御が出来るようになっているとすれば、晴れて強化の魔法を覚えれるようになる。
使いたい!という強い気持ちを込めながら、俺は体内の魔力を下へ移動させ、そのままの状態を保とうと踏ん張った。
(ぐっ……!!お!おぉ!おぉぉ!!!)
けれど、結果はよく見知ったものだった。
「ダメだ……。前と全然変わんねぇ」
最初のほうは言う事を聞いてくれて、魔力さんは下半身にぐぐぐっと移動してくれた。
お陰で少し、筋力とは別の力が下半身の動きを補助して軽くなったような気がした。
……そこで終わっちゃったけど。
「くっそー!!まじかよ!」
覚醒フラグ立ってたはずだろ?!なんでここでも外しちゃうんだ俺は!?
「しょうがねぇか」
(今の状態でも使えないってなると、もうこれは先天的な異常かなにかだな)
そう決めつけて、俺はシャマシュホールの方へと再び歩き出した。
(あそこには、みんなが居るはず)
今一番心配なのは、友達や生徒の安否だ。
もう少しでシャマシュホールに着く。
(ここを渡れば)
走り出そうとしたその時、背後に恐ろしい魔力を感じると同時に呼び止められた。
「おいお前。一体何者だ」
「あなた、制服は学校の物ですが……人間じゃないですよね」
(……いつぶりだよ全く)
親友の声、魔力。
忘れた事なんて、あるわけがない。
(くそ!女の子の声もしたぞ!悔しぃぃ!!けど、ここはカッコよく決めてやるか)
「おいおい。忘れちまったのかよ。ミディ」
最大限にイケボを心掛けて振り向くと、そこには大層なものをお持ちの女子生徒と、こちらをギロリと睨んでいるミディだった。
「お前、俺の親友の皮を被ったって無理だぞ」
おっと。なんか雲行きが怪しいな。
どうやらミディは、俺がレージ・ロストに化けた魔族か何かだと勘違いしているらしい。
こういうのは直ぐに晴らすのが正解。
何故なら__(やばい!コイツもうファイア打つ準備しちゃってる!)
こんな結果になる事を防ぐためにだ。
「ちょ、ちょっと待て!分かんねぇのか?!ちゃんと俺、レージ・ロストだよ!」
めちゃくちゃ気持ちを込めて伝えると、掌に生み出されようとしていた火球の勢いが弱まった。
「……俺が覚えてる魔力じゃないぞ」
「こ、これは……。ちょっと色々あって」
体内に流れている魔力は、人によって多少違いが生まれる。最初は同じらしいけど、直ぐに個人の魔力として確立していくらしい。
一年の頃にレイシア先生かだれかが言っていた。
(てことは今の俺、全くの別人みたいな魔力に変化してるって事か?!)
この世界の魔法、特に心魂魔法は千差万別。人そっくりに姿を変える魔法を持ってる奴がいても不思議じゃない。
それに魔法学校に襲撃できた以上、人間が魔族に加担している可能性も捨てきれない。
そうだとすれば、判別する大きな要因は個人の魔力だ。
でもそれが、全く別のものに変化していたとしたら……?
「先輩。この人、本当に先輩の親友なんですか?」
「分かんねえ。実際会ったのは四年ぶりだが、背丈以外何も変わってない」
「そりゃそうだ!だって本に」
「だが!今は魔族が攻めてきたという緊急事態。俺や他の奴らで大半は減らしたが、まだまだ数は多い。そんな時に生徒達が避難しているシャマシュホールに向かうような奴だったとは、俺は記憶してない」
ミディ……!良い奴だよ、お前!
って違ぁぁう!!ヤバいヤバい!このままじゃ俺が偽物扱いされて攻撃されちまう!
必死に頭の中で誤解を解く一言を考えていると、勝手に俺の口は動いていた。
「気になるなら、やろうぜ。お前との力の差が分かれば、俺って分かってくれんだろ?」
(何、言ってんだ俺)
「……何?もう一回言ってみろ」
「だから」
(やめろ!俺はそんな事)
訂正しようと口を動かそうとしても、思い通りには動かなかった。
「俺のほうが強いって分かれば、お前も俺がレージ・ロストだと認めてくれんだろ?って話だ」
「……飛んだ馬鹿になっちまったようだな、レージ」
ヤバい……。俺、どうすれば良いんだ?!
いかがでしたか?
補足 魔力を隠すって言うのは制御云々ではなく、元々身体に入りきる許容範囲を超えてるので、隠せないと言う感じになってます。




