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余命2日のモブキャラでも、ヒロイン達を救いたい ~主人公以外がバッドエンド率99.9%の世界を攻略する、たった一つの方法~  作者: 猫又ノ猫助
第1章

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第8話 絶望の中で

「おにいちゃん!」


 叫んだナナがかけ寄って来ようとするのを見て、そしてソレを冷めた目で見るグンザークを見て……オレは肺が張り裂けそうになるのを無視して叫んだ。


「来るなナナ! 逃げろ!!」


 オレの声を聞いて一瞬立ち止まりかけたナナだったが、目に涙を溜めた彼女はそれでもオレに近寄って来ようとして……。


「無粋な」


 近くからした、そのゾッとする様な冷めた声に、痛みさえ忘れて全身から熱が引いていく。


「逃げろっ、ナナ!」


 血反吐を吐きながら再び声を上げるが、ナナはオレの方へと手を伸ばしてくる。


「おにぃちゃ――」


「――邪魔だ」


 声が交錯する中、目の前にいたグンザークの姿がかき消えたかと思うと、ナナの前に移動して……直後、ナナは冗談の様にその場から弾き飛ばされた。


「ナ……ナ……?」


 轟音と共に壁にぶつかった後、糸の切れた人形の様に崩れ落ちたナナを見て、視界が、脳が、熱を帯びる。


「さぁ、邪魔が入ったが、今度こそ終わりだ」


 床を一歩一歩踏みしめながら、恐怖と死を手にした男が近寄ってくる。


 だが、オレが目を向けた先にいるのは死の象徴では無く、色の抜けた表情をしているミヨコさんで……それを見て全身の血液が、沸騰する。


「なぜ」


「ん?」


「なぜ、彼女達はここまで虐げられなきゃいけない……」


 痛む体を無視して、崩れそうになる膝に力を込め、立ち上がる。


「なんで、彼女達に不幸を振りまくんだ!」


 目の前のグンザークを睨みながらオレは……この世界そのものに叫んだ。


 オレが不幸なのは良い。


 どうせこれまで生きてきた中で、大したことをしてこなかったクズみたいな人間だ。


 だが、彼女達は……違う。


 必死に生きて、耐えて、苦しんで、泣いて、叫んでいるんだ。


 それなのに誰も振り返らず、誰も救わないなんて、絶対に間違ってる!


「……アレらが不幸なのは、弱いからだろう」


 グンザークが、そんなことを口走った。


 ――弱いから?


 ――弱いから、あの子達が不幸だって?


 妹を守る為に自分の身を犠牲にしながら必死に耐えてきたミヨコさんと、幼いながらも姉の事を思い、絶え間ない苦痛と孤独を感じながらも必死に生きてきたナナが弱い?

 

 ――そんなわけ、あるか。


 ――そんなこと、認めるわけにはいかない。


 ――絶対に、認められるものか!


 人間を辞めたって良い、死んだって構わない、だから……力を、力を寄越せ!


 アイツを、黙らせる力を!


「あアaぁあ亜阿ぁッ」


 胸元を右腕で掴み、その奥に埋め込まれた羽を強く意識する。


 同時、胸の内から禍々しいナニカが流れ出して来て、オレの体を意識を乗っ取ろうとするが、ソレを止めることなく解放してやる。


「何だ?」


 戸惑う様な男の声が聞こえる中、一度閉じていた瞼を再び開いた。


 フラフラと揺れ、チカチカと点滅する視界の中で、体の奥底からナニカが湧き上がって全身を包んでいく。


 ――ヤツが、ヤツらが、全てが、憎い!


 胸の内から沸き上がる黒い衝動に突き動かされるままに、間抜けヅラを晒している男へと近寄り、その横っ面を思いきり殴りつける。


「くっ……速くなっただと?」


 頭、腹、首、胸――。


 急所を殴るたびに殴った方向へとオトコが弾かれ、室内全体に鈍い音が響きわたる。


「グハッ……」


 何度も、何度も、何度もヤツの展開した防御魔術を砕く為に、殴り、蹴り、突き穿つ。


「アハハハ」


 ドコカラカ、キンキンとした笑い声が聞こえる中、ヤツの甲冑を殴り抜くと、腕が音をたててヒシャゲた。


 前腕の半ばからポッキリと折れたソレを見て、思わず口の端が釣り上がる。


「キサマ、何をやった!」


 オトコが叫びながら、巨大な斧を振り回してくるが……その軌道はコマ送りに見えるほど遅い。


「クソッ、クソガッ」


 ブンブンと振り回される斧を、紙一重でかわしていく。


「アハハ、あははっあははは」


「何故、こんな事が!」


 額に汗を浮かべて焦っている様子が可笑しくて、思わず空中に浮いてかわしたついでに、足を全力で振り下ろすと、床に大きなクレーターを作りながらオトコが地面へと叩きつけられた。


 ソレを見て、追い討ちをかけようと全力で足を踏み出すけれど……体が耐えきれずに膝から崩れ落ちた。


 不審に思い自分の足元を見てみれば、グンザークに振り下ろした右足は、あらぬ方向へネジ曲がっていた。


 その事がさらに可笑しくて、笑っていると……どこからか声が聞こえてきた。


「おに……ちゃん」


 ――どこかで聞いたことがある声だ。


「おね……ちゃん」


 ――悲しげで、胸を締めつけられる声だ。


「わたしが……助けるか、ら」


 ――何千、何万と聞いてきた声だ。


「みんなで……にげ……」


 ――ボロボロになりながらも、懸命に立ち上がっている少女の声だ。


 目は虚で、足元もおぼつかないながらも、オレの方へと近寄って来る。


 その姿をみて、頬を雫が伝う。


 ――オレは、一体何をしているんだ?


 虚な瞳をしながら近寄ってくる彼女を見て、噛み締めた歯が軋みをあげる。


 ――壊せ、憎め、コロセ……


「うる、さい。だまってろ!」


 頭の奥から聞こえて来る怨嗟の声に、罵声を浴びせると、自身の目的を改めて強く思い返す!


 ――オレが本当にやりたい事は……オレの目的は、彼女たちを救う事だろ!


 強く自分の意思を持って胸の内のもやを振り払い、血に染まった視界を見下ろしてみれば、見るも無惨な自分の体がそのこにはあった。


 同時、それを認識した途端、例えようの無い激痛が全身を苛んでいく。


「っああ」


 涙で滲んだ視界の中、先ほどの自分の行動を思い返す……オレは、一体何をやろうとしていたんだ?

 

 笑って人を殴り、あまつさえ殺そうとしていた自分を思い返し、寒気が襲ってくる。


「ナ……ナ……」


 ナナの元へ近づこうとオレが這っていくと、ナナもオレに気づいたのか、オレの方を見た。


「おに……ちゃん」


「ナナ……」


 後少しでお互いの指先が触れ合うという所で、視界の端で爆発が起きた。


「キサマら……許さんぞ」


 爆発で舞い上がった粉塵の先――そこには、斧を大上段に振りかぶったグンザークが立っている。


「よくも、俺をコケにしてくれたな」


 全身から怒気をみなぎらせるグンザークの体に魔力が集まっていくのを見て……オレは、ナナに覆い被さった。


「おに……ちゃん?」


 仮に覆い被さったとて、何とかなるとは思えない。


 だけれど、今の俺に出来る事はソレくらいしかないから……。


 誰も救えないオレでも……彼女の盾にくらいはなりたいから。


 せめて最後くらい、自分の行く末から視線を逸らすことはしないでおこう、そう思って見下ろしてくるグンザークを睨みつけていると……オレとグンザークの間に、華奢な背中が割って入った。


 その人は、両手をいっぱいに広げて、オレとナナの前に立っていて……。


「ミヨコ……さん?」


「……」


 問いかけてみるも反応はなく、背中越しに見た彼女からは、魔力の流れも感じない。


「人形風情が、意識もないくせに俺の前に立って邪魔をするか!」


 そうグンザークが言ったのを聞いて、確信する。


 ……彼女は、ミヨコさんは、無意識でナナを守っているのだと。


 その愛情に、その献身に胸が詰まり、涙が流れる。


「ミヨコ、さん。逃げ、て」


 逆流してくる血で半ば以上言葉にならない中で告げるも、彼女は微動だにすることは無かった。


「おね……ちゃん」


 オレの胸の下で、ナナが彼女へ手を伸ばす。


「もう、いい。キサマらまとめて死ね」


 グンザークの言葉と共に、急速に魔力が収束していく。


 ――だれでも良い。


 ――何でもいい。


 ――誰か……。


 ――誰か、彼女達を……。


「た、すけて、くれ!」


 そう叫ぶと同時――轟音とともに部屋の扉が弾け飛んだ。

ここまで読んで頂きありがとうございます。


本日夕方の投稿は、18時台を予定しています。

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