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余命2日のモブキャラでも、ヒロイン達を救いたい ~主人公以外がバッドエンド率99.9%の世界を攻略する、たった一つの方法~  作者: 猫又ノ猫助
第1章

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第36話 白銀の月

 レイナが地面に降り立ち、辺り一帯を睥睨すると……それだけで内臓がすくみあがる様な感覚があったが、震える皆の前に出るため一歩踏み出した。


「……ご足労いただきありがとうございます。お初にお目にかかります、レイナ様」


 強い威圧感を感じる中、深く頭を下げた後に顔を上げると――彼女は真紅の瞳でオレのことをジッと見据えていた。


「改めて問うけれど、人間風情が私に魔術を習いたいなんて、本気で言っているのかしら?」


「オレは、そのつもりです」


 言葉の端々に人族を侮る気配を感じながらも、オレには彼女から教えを乞うしか選択肢が無い。


「ふぅん……人間が私の訓練に耐えられるとは思えないんだけど。失敗すれば、普通に死ぬわよ?」


 あくまでも高圧的な態度を崩さないレイナだったが、そんな彼女の様子に耐えられなかったのか、ミヨコ姉が声をあげた。


「弟くん……やっぱり、やめよう? みんなと一緒に、少しづつでも強くなろう?」


 諭すように、懇願する様なミヨコ姉の声にレイナが反応する。


「そうね、私も人間に教えるなんて面倒な事をしたくはないし、今回のことを白紙にすると言うなら、このまま大人しく帰ってあげるわ」


 ルビーよりなお赤く、透き通った瞳を怪しく光らせながら言うレイナに対し……オレは首を横に振った。


「それはできない……です」


「へぇ?」


 ドッと、眼前の吸血鬼から降り注ぐ圧力が急激に高まるのを感じた。


「私の聞き間違いかしら? 今私には、私の提案を受け入れられないと言ったように聞こえたのだけれど?」


 目を細めて尋ねてくる彼女の顔を見ただけで、膝が笑い出しそうになる。


 それも考えてみれば当然のことで、幾らオレが人より少しだけ優れていると言っても……吸血鬼と比べれば所詮はどんぐりの背比べ。


 仮に羽をオレが使ったとしても、彼女と戦闘をすれば10秒も保たず負けるだろう。


 だけど……だからこそ、彼女から教えを請う必要がある。


「オレは、アナタから何が何でも教えを請わなくちゃいけないんだ!」


 オレが強くそう宣言すると、レイナは一層その目を細めた。


「人間とは、本当に傲慢で欲深いものね。ただでさえアナタは、人とは異なる力を持っているというのに、それ以上に力を得て何がしたいのかしら? 圧倒的な力による支配? 他者の尊厳の蹂躙? 何にせよ、ろくなものではないわね」


 吐き捨てるようにそう言われて、彼女がオレの中に埋め込まれている事に気づいている事への驚きよりも、悔しさが込み上げてきた。


「……ちゃんは、そんな人じゃない」


「ナナ?」


 それまでオレの背後で震えていたナナが、小さく声を漏らした。


「お兄ちゃんは、そんな人じゃない! お兄ちゃんは、ナナやミヨコお姉ちゃん、ユフィお姉ちゃんのために頑張って来たんだもん! いっぱい、いっぱいがんばって、大変だったんだもん!」


 途中から涙声になりながらも、大きな声で訴えるナナを見て、胸の内が熱くなる。


「弟くんは、ずっと私達の事を思って頑張ってきてくれてた……そんな私利私欲のために努力して来たわけじゃない!」


 ミヨコ姉が、これまで聞いた事が無いほど大きな声で、ハッキリとそう告げた。


 オレが力をつけたいと思ったわけ……それは、当然皆を守るためだ。


 不幸な未来を運命づけられた彼女達を救うために、オレは力を欲した。


 だけど、それは果たして私利私欲のためじゃないと言えるのだろうか?


 今回力をつけたいと考えた要因も、オレから見たら悪でしかない人間達を退けるためだけど……それは、殺人犯達から見たら理不尽な暴力なのかもしれない。


 そんなことを考えていると、手に温かいものが触れる感覚があってそちらを見てみれば、ユフィがオレの手に触れていた。


「大丈夫、センは自分の欲望のままに力を振るっているわけじゃないもの」


 そう小さく漏らしたユフィは、金色の瞳でレイナの瞳を見返した。


 同時、ユフィは僅かに顔をしかめたが、すぐに少し笑った様な気がする。


「……そろそろ、茶番は終わりにしてもいいんじゃ無いですか?」


 オレは、一瞬ユフィが言った言葉の意味が理解できなかった。


「一体、何のことかしら?」


「しらばっくれても無駄です。貴女の理解されている通り、私にはこの瞳がありますから」


 そう言ってユフィがジッとレイナのことを見ていると……僅かに、圧力が弱まったように感じた。


「まったく、もう少しおちょくろうと思っていたのに……その瞳も難儀なものね?」


「えっ? どういう事?」


 レイナとユフィが言っている事が理解できず、ジッとユフィの方を見ていると苦笑いされた。


「あの人……レイナさんは、最初から私達を試してみただけみたいなの。初めは感情が上手く読み取れなかったせいで、分からなかったけど」


「……本当に?」


 ジッと、泰然とした姿で立つレイナの方を見ると……彼女から発される圧力がいよいよ霧散した。


「あーあ、折角渾身の演技をしていたのに、ネタバラシされちゃった」


 グッと大きく伸びをし、イタズラがバレてしまった子供の様な顔をするレイナの姿を見て、思わず腰が抜けそうになる。


「……なんで、こんなことをしたんですか?」


 そう尋ねると、レイナは目を細めた。


「分からない? 本当に?」


 逆に尋ね返して来たレイナの瞳は、一瞬前とは異なり再び鋭くなったように見えた。


 それを見て考えを巡らせる。


 彼女が何故こんなことをしたのか……それはきっと。


「オレがどんな人間か、そして周りにどんな風に見られているか見定めたかったとかですか?」


 そう尋ねると、レイナはただでさえ大きな瞳をさらに大きく広げた。


「へぇ、その年にしては何も考えていない愚か者というわけでも無いのね」


 そんな事をオレとさして身長も変わらなそうな彼女に言われると、何となく釈然としない気持ちになる。


「まぁでも、貴方に魔術を教えようか迷っていたのは本当よ? だって、力を手に入れた者は人間に限らず、ろくな事をしないのだから」


 あっけらかんとそう告げたレイナに、複雑な気持ちになる。


 確かに、簡単に人を害せる力を――他者よりも強大な力を持った時、それを自制できる人は少ないのかもしれない。


 かく言うオレも、周りにみんなが居て、目的がなければどうしていたかなんて分からない。


「では、何故そもそも弟くんの元へ来ようと思われたんですか?」


 まだ完全には警戒を解いていないのか、魔導書を手にしたまま尋ねるミヨコ姉にレイナが肩をすくめた。


「それは当然、面白そうだからよ」


「面白そう……ですか?」


 ミヨコ姉は理解できなかったのか、困惑した表情を浮かべるが、レイナは淡々と言葉を続ける。


「私も長く生きているから、面白いと思えるような事も少なくなってきていて……そんな中で、魔術を教わる代わりにあんな事を提案して来た人間がいたら、興味がそそられるのも当然だわ」


 饒舌に、楽しげに話すレイナの姿はまるで新しいオモチャを見つけた童女の様だ。


「センは、どんなことを提案したのですか?」


 ユフィがそう尋ねると、レイナは口の端を釣り上げ――口元を三日月状に押し広げた。


 月光を背景に両手を広げ笑う姿を見ていると、先ほどとはまた別種の恐怖を感じる。


「そこの彼は、魔法を教わる代価にこれから起こる未来の話を教えるって言って来たのよ!」


 高らかに、物語の始まりを告げるように彼女は声を上げた。


「みらいの、お話?」


 理解が追いついていないのか、首を傾げながらオレの方を見てくるナナと、不安げな顔をするミヨコ姉を見た後、オレは空に浮かぶ白銀の月を見上げた。

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