第四十九話 クライマックス! 中庭に集結する一同、ケインとサラマンドの最終決戦。サラマンドの醜態に裁きが下る。
(――ゴーレム、私の仲間。私と一緒に、爆発の現場まで向かってください――)
ケインと交戦中の二体のゴーレムに、そのときセレネからの魔道入電が入った。
スライムにまみれて大きく機動力をそがれ、ケインの手斧により半壊状態となった二体のゴーレム、それでもよろよろと神殿の入り口に向けて走り始める。
「来たか、サラマンド」
後を追うケイン。
* * *
「く、くそっ!」
自分を執拗に狙ってくる女騎士から逃れるべく、必死で神殿内奥へと走るサラマンド。
その背後からじりじりと追いかけるアヤソフィア。
* * *
(――来ましたね)
セレネは、脳裏にうつしだした神殿の地図の中で、二つのエメラルド色の輝く点が交わる場所を予測する。
他の二つの点も、そちらに向かっていた。
(中庭)
先ほどシラーが<ディラックの海>を展開した、あの広壮な広場。
残り時間は――。
(――10ミーンですね)
崩れた天井からのぞける空は、ほとんど夜のいろに染め上げられている。
もう、あと少しもすれば、完全に夜が訪れるはずだ。
そうなれば、自分たちの勝利が間近い。
(ドラゴンは――もう相手にしてられませんね)
セレネの銀の髪が揺れる。
神殿の大広間でドラゴンと交戦するのは、自軍のゴーレム一体。
だが、有効なダメージを与えているようすはない。
ドラゴンを時間内に撃退するのは、不可能だ。
(ドラゴンにそれなりに攻撃しているようですが――評価してもらえるかどうかは微妙です……)
セレネは冷静に分析。
ドラゴンレイドでは、ドラゴンを倒したり、相手のユニットを戦闘不能に陥れるとポイントが加算される。
単純にドラゴンにダメージを加えていっただけでも、それなりにポイントはプラスされる。
だが、ほとんどダメージらしいダメージがドラゴンに通っていない現状、それによりポイントが奪取できるかはわからない。
それより、相手のユニットを落として行くほうが点数が大きい。
(積極的に、点を取りに行きましょう)
呟いて、セレネも推進器<スラスター>を起動、ゆっくりと中庭に向かう。
* * *
そして、白熱の瞬間が訪れる。
「あ、ケ、ケイン、てめえっ!」
「サラマンド――いいざまだな」
中庭の中心で対峙するサラマンドとケイン。
二人の背後からやってくるのは、アヤソフィア、それに二体のゴーレム。
セレネ、リヒャルト、それにノアも中庭に集結した。
シラーはその場にこそいないが、おそらくどこからか様子を伺っているのだろう。
「へ、へへ……卑劣なブタ野郎め。よくも俺から逃げやがったな……」
サラマンドの言葉に、眉をひそめるケイン。
「何のことだ。俺はチームが勝つことを優先しただけだ」
「とぼけるなよ! お前は俺から逃げたんだ!
俺との戦いを避けて、そしてこんな女騎士と俺をぶち当てた!
どこまでも卑怯な野郎だぜ! レイドの風上にも置けねえ!」
サラマンドの、どこまでも自己中心的な口ぶりに、全員が呆れる。
どうも、状況を自分の都合の良いように解釈するタイプの人間らしい。
「――わかった。じゃあ、俺が相手をしてやる」
構えを取るケイン。
「へっ! 最初からそうすれば良いんだよ!」
爪を振りかざすサラマンド。
夕暮れにの光が、中庭を真っ赤に染め上げる。
二人の影が、交差する。
爪の軌跡と、手斧の斬撃がかち合った。
火花が散る。
跳躍した二人の影、着地。
くずおれたのは――ケイン。
「ぐっ……」
「が、がはっ」
そして、サラマンド。
(互角か……)
戦士としての力量は、互いにほとんど等しい。
ならば、互いに潰れるまで打ち合うか。
「き、きたねえぞ!」
突然、サラマンドがわめき出す。
「……?」
ケインが顔を上げる。
「俺のユニークスキルは<かずら落し>、近接戦闘の技だ!
もっと近くで組み合わねえと、発動できないだろう!」
――ハァ?
一同の顔が困惑に染まる。
この男は一体、何を言っているんだ?
「ブタ野郎、俺だけがなんでやられなきゃいけないんだ」
「それが勝負ってものだろう?
なんで自分の有利な方法で、いつでも戦えると思ってるんだ」
「卑怯者め!」
「お前の卑怯の定義が判らん」
首をかしげるケイン。
「おい、そこのゴーレムども、俺に加勢しろ!」
「……え?」
不意に話を持ってこられて、動揺するセレネ。
「俺の、俺の壁になるんだよ!」
言いながら、セレネの後ろに回り込もうとするサラマンド。
「わ、わたしは装甲が薄くて……壁は無理です」
「ちっ! 仕えねえな! ならそっちのゴーレムだ」
セレネを足蹴にして、ゴーレムの後ろに体を隠すサラマンド。
「先に卑怯なまねをしたのはそっちだからな、ブタ野郎!」
言いながら、ゴーレムを自分の壁にして、気合の弾の投擲を仕掛ける。
無論、ケインは弾くこともしない。
「くそ、ゴーレムども、もっと前に出ろ、俺を守れ!」
「――サラマンド、もうやめにしないか。お前の醜態は、スタジアムの皆が見ている」
「ハ、ハハッ! びびってるのか! 醜態をさらして潰れるのはお前だよ!
ブタ野郎! 俺におびえろ!」
言いながら、ゴーレムに蹴りを入れるサラマンド。
激しく横転するゴーレムは、そのままケインに向けて転がっていく。
樽を飛び越える要領で跳躍する。
「ちっ、使えねえな!
おいそこのメスゴーレム! お前、俺の援護をしろ」
「……」
「何だテメェ、ゴーレムの分際でリザードマンに逆らうのか!
どこまでも不出来な連中だぜ!
こんな連中と仲間になって、ここまで戦えた俺は立派だ!
ああ、今回はチーム運がなかったなあ!
こんなブタ野郎の、卑怯な罠にはまっちまうなんて!
おい、ブタ野郎、次にやるときはまともに勝負しろ!」
なおもわめき続けるサラマンド。
そこに、四発の攻撃が飛んだ。
一つは、ケインの手斧の斬撃。
一つは、アヤソフィアの<聖光爆裂斬>。
それから、足下に開いた<海>。
どこからか見ていたシラーが、見るに堪えぬと<ディラックの海>を招来したのだろう。
それから。
「マスターのお許しです」
「黒体儀仗槍<ブラック・ブラスト>……」
セレネの手にした巨大な槍が、サラマンドの胸を貫いた。
明日で決着予定です。