第四話 第二の仕掛け
片田にとっては恐らく、経験したことが無かったことだろう。
いつもであったら『陣』を張った後、相手は自分に危害を加えることが出来ずにいた。
その間に『陣』の中と言う安全な場所から、片田は相手に攻撃をしていた。
そう、片田には驕りがあった。
『陣』の中は絶対安全権であると。
今まではそうであったとしても、これからも、そうであるとは限らないと言うのに…。
「お前は、術の発動に時間がかかる様だな」
たくやは、適度な速度、力加減で片田に小石をぶつけていった。
小石は、ある程度の衝撃を片田に与えたが、集中力を削ぐほどではなかった。
「この程度でわしを追い込んだつもりか。返り討ちにしてくれる」
片田は、どこからか数珠を取り出し印を組み始めた。
たくやは小石を投げるのをやめ、様子を見始めた。
片田の術の発動には確かに時間がかかる。
とっさに発動する術は高が知れているが、呪具を使ったり詠唱をきちんと唱えられると『組織』の資料にあったようにかなりのことが出来るのだ。
「呪具を使うのはやめたほうが良いぞ」
術が完成しつつある片田に向かって、かおりの横に戻ったたくやは言い放った。
「わしの術に恐れをなしたか。じゃが、もう遅い」
片田は言い終わるのと同時に二人に向かって腕を突き出した。
その動きに誘われるようにして、片田の手に絡まっていた数珠から幾筋かの光が二人に向かっていった。
「折角忠告したのにな」
そんな声が聞こえた気がした。
光は、二人に届く前にピタリっと、その動きを止めた。
「片田、第二の仕掛けがおかげで発動したよ。ありがとう」
たくやはそう言うと、今まで片田がしてきた以上の蔑みの表情を片田に向かってして見せた。
「すぐに分かると思うが、第二の仕掛けは『返し』お前の力は全て返される」
二人に向かって止まっていた光は、方向を変えて放たれた元、片田に向かっていった。
光は片田を包み込んだ。
光が収まると、片田はそこに居た。
片田は膝を着き、足元に有った『陣』は消え、スーツの隙間からは砂が落ちていっていた。
「なぜわしは…」
片田は光が収まると自分の体を確かめ、生きていることを確認すると呆然と呟いた。
「幾つか言い忘れていたが、『返し』は命を奪うものじゃない。お前の霊力と『力』が宿った呪具を無に返すものだ。…お前は殺しすぎた。それ相応の恐怖を味わってから、お前が殺してきた、見殺しにしてきた者達の所へ案内しよう」
たくやは片田に一歩一歩近づきながらいった。
片田の表情が変わった。
今までは劣勢を感じつつも切り抜けられると…そう思っていた。
しかし、ここに来てほとんど無くなった自分の霊力、今まで頼りにしていた呪具の消失…恐怖を感じるな、と言うほうが無理がある。
片田は脱兎のごとく走り出した。
何も考えられなかった。
ただ、たくやから、この場から逃げることしか。
片田はすんなりと公園を出て行った。
たくやも無理にそれを追うことはしなかった。
「かおり様」
たくやは、かおりに振り向いた。
「なぜ『結界』をはずしたのですか?」
「あなたも言っていたでしょう?たくや。『恐怖を味わってから』と…」
かおりは、たくやの視線を真正面から受け止めて言った。
たくやは、その言葉を聞くと少しだけ微笑んだ。
「それもそうですね」
「たくや、片田を追いなさい。私は仕掛けを解除したら向かいます」
「はい、分かりました。けして、逃がしはしません」
たくやはそう言うと、空高く飛び上がり、片田が向かって行った方角え消えて行った。
片田に呪具をやっと使わせました…長かった…
次で終わります(たぶん)