第一話 始まり
ある晴れた日の昼頃である。
二人の男が、大きく歴史を感じさせる日本家屋の門の前に立っていた。
一人は中肉中背で髪には白いものがちらほらと見える、年は五十歳前後、名前を小瀬 翼という。
もう一人は、フレームの無い眼鏡をかけていること以外にこれといった特徴の無い痩せ型で、年は三十歳前後、名前を水島 竜馬という。
小瀬はチャイムを鳴らすと、返事も待たずに家の中へと入って行った。
玄関で二人を待っていたのは、それなりに整った顔立ちをした二十歳前後の細身の青年で、名前をたくや、この家の家主の式神だ。
「居間に行っていろ、かおり様もすぐに行かれる」
たくやは、表情の無い顔と声で二人に言うと、早足に去って行った。
二人は慣れた様子で、居間に向かっていった。
二人が居間で待っていると、たくやと女性が入ってきた。
女性は十七、八歳ほどに見える。
しかし、かおりの年齢は外見通りではない。
実際は、五十をとうに超えている。
顔は大きな目が特徴的で、名前を二宮 かおりと言う。
この家の家主であり、たくやの主である。
かおりは二人の前に、たくやはかおりの斜め後ろに座った。
「お久しぶりです。二宮様」
小瀬はそう言うと、鞄から大きく厚みのある茶封筒を取り出した。
小瀬は中身を取り出し、水島に渡した。
水島は慣れた様子で、かおりの前に資料を並べ始めた。
「早速ですが二宮様、今回の『仕事』の説明をさせていただきます」
かおりは、居間に入ってきてから無言無表情だ。
座ってからは、身動き一つしていない。
「今回の『仕事』は除霊ではありません。暗殺をやっていただきます」
小瀬は表情を崩さずさらりと言った。
このような仲介人は、どんな残忍な事を言っても顔には出さないように訓練されている
でなければ、言葉の重みで心が潰されてしまうからだ。
「こちらが今回のターゲットの片田 重平です」
かおりの前に写真が置かれた。
その写真には、六十代後半の男が写っていた。
「片田はかつて『組織』の一員でした。しかし、裏で個人的な依頼を受けていることが判明し、その処罰が下される前に身を隠していました」
スッと、たくやが音も無くかおりの横に座りなおし、資料を見始めた。
「片田は三年ほど前に行方がわかりました」
「こちらの資料は、片田が『組織』に居たころのデータです」
水島は幾つかの資料を前に出した。
「すべてはそちらに書かれていますが、幾つか説明させていただきます」
「霊力は中級クラスです」
「しかし、呪具を使うのがうまく、上級レベルの仕事をこなしてきました」
「この三年で、『組織』の妨害があったにもかかわらず二十名以上も呪殺を成功させています」
「細かい憂さ晴らしの様なものも受けているようです」
「この三年、様々な妨害、警告を重ねて来ましたが、それらを尽く無視しています」
「何人か使者も出しましたが、幾人かは帰って来ませんでした」
小瀬と水島は交互に、息つく間も無く言った。
「報酬は少なく見て数十万、多くて数千万になっているものと思われます」
「しかし、その金額が支払えなければ、片田の慰み者になるか、殺されて闇ルートで臓器を売り出すか、です」
二人はその後も同じ調子で幾つか説明した後、帰って言った。