未来の子育て
第5回星新一賞落選作品。
以前、異世界の人型生物を見て姿形だけで女性と決め付けた作品を読んで、反発心もあって書いたものです。
相対性理論で『不可能』の烙印を押された『タイムマシン』ですが、抜け道を探してみました。
なお、この作品中のタイムマシンの設定を使いたい方があれば、ご自由にどうぞ。
「準備は良いかね?。」
「はい!、行けます!。」
実験が成功すれば、時間の壁を越えて100年後とつながるはずだ。
ひゅおーーーーん
タイムマシンが作動し、俺はふっと意識が遠のいた。
タイムマシン。
一度は理論的に否定されたが、ブレイクスルーは意外な所にあった。
『物質やエネルギーが、時間の壁を越えて移動する事は不可能。』
だが、質量もエネルギーも持たないもの=情報、は時間の壁を越える事が出来たのだった!。
時間の壁の両側で、不確定性原理が適用されるような量子の位置を取り替える事で。
だが、このままでは結局、実用的な意味で情報を送る事は出来ない、と誰もが思った。
ところが意外なところから助っ人が現れてくれた。
人間の全感覚をバーチャルリアリティ化する技術を研究する研究者が、量子的な揺らぎの情報を神経の信号に変える機構と逆に神経の信号を揺らぎに変える機構が脳の中にある事を見つけたのだ。
その機構を通じて神経の信号に変えられる量子的揺らぎの集合体は、ある種の共鳴的な機構によって継続性を持ち、それ自身が情報を保持する事が出来た。・・・研究者たちは秘かにそれを『魂』と呼んだ。
このタイムマシンはそれを応用したものだ。
時間の壁の両側の人間の間で、量子的な揺らぎの情報の一部をやり取りする。
つまり、人間の脳を翻訳機として使う事で、実用的な情報をやり取りしよう、というものだった。
時間の壁を越える空間座標は、タイムマシンと同じ慣性系、つまりタイムマシンが地球上で静止していれば、タイムマシンを置いた地球上の場所と同一経度同一緯度同一高度となるらしい。
つながった後、こちらの量子的揺らぎの集合体のコピーは共鳴現象によって、その近くにいる人間の量子的揺らぎの集合体に引き寄せられ、情報のやり取りが始まり、一度つながってしまえばある程度までの距離が開いても情報のやり取りは継続するらしい。
基本的にこちらは見ている、というか感じているだけになるらしい。
らしい、らしいで、申し訳ないが、それが実験というものだ。
俺の見たもの=映像として認識されたもの、と、聞いたもの=言語として意識されたもの、は、残された俺の体の脳に取り付いたナノマシンによって受信機に発信され、実験室の他の人間も見る事が出来る。
その情報を使って、本当にタイムマシンが目標の時間座標につながったかどうかを検証しようというのが、この実験の概要だった。
ふっと、意識が戻ると俺は部屋の中を見ていた。
体は動かせない。
壁にかかったカレンダーには、俺のいた時代のちょうど100年後の年が書かれている。
どうやら、無事つながった様だった。
ベビーピンクのかわいらしい部屋に、ベビーベッドやらの赤ちゃん用品が置いてある。
むにゅ
俺の意識が入り込んでいる人物(以下『宿主』と表記)が、手で自分の胸を持ち上げた。
(え?!)
視線が下がり、宿主の胸が視界に入る。
大きなおっぱい・・・
(俺は、女に入り込んだのか?)
宿主は、比較的簡素な、でもフリルで飾られた可愛らしいピンクのミニのワンピースを着ている。
確かに、男女どっちに入るかは分からなかったのだが、俺はなんとも言えない気恥ずかしさを覚えた。
伝わって来る宿主の感情は、幸福感と頑張らなければ!、という使命感のようなもの。
それがこれから生まれてくる子供に対するものだと分かる。
その時、部屋のドアが開いて、大きなお腹を抱えた女(?)が入って来た。
ものすごく地味な服装と髪型、化粧ッ気のない顔だ。
「あなた、生まれそうなの!。」
(えっ!?)
俺は混乱する。
(どういう事だ?、もしかして同性愛の夫婦とか・・・?。)
宿主が緊張する。
「すぐ、病院へ行こう!。」
宿主が『野太い声』でそう言い、俺はさらに混乱した。
女が分娩室に入って出産準備が始まり、宿主が一息つく。
緊張のせいか、尿意を感じる。
宿主がトイレへと向かい・・・『男性用』のトイレに入った。
何と、この宿主は男性だったのだ!。
いや、なんとなく分かってはいた。
病院の中で、ミニのワンピースを着たごつい人物と、ズボンをはいた地味な服装の華奢な人物をたくさん見かけたのだから。
宿主は、短いスカートをぱっとはね上げ、さっと放尿する。
手を洗いながら見る鏡に映るのは、髪を短く刈り上げたキリッとした若い男の顔。
(何で、男がこんな格好を・・・)
俺は、気恥ずかしさに、100年の間に起こった服装の変化を嘆いた。
トイレを出た宿主は、病院スタッフに手伝われて全身を洗い、手術着のようなものを着て、分娩室に入った。
宿主の妻(なんだろうと推測される女)は、分娩台の上で荒い息をついている。
宿主が、妻の枕元に寄り添い、声をかける。
「苦しいだろうけど、あと少しだ!。頑張って!。」
妻が宿主の顔を見て・・・、いきなり宿主の大きなおっぱいをむんずとつかんで言った。
「う、うん、あと少しだものねっ!。あなたも、頑張ってっ!。」
い、いったぁーーーーいっ!!!。
「う、うん頑張るよ・・・。」
宿主はそう答え、歯を食いしばって、その痛みに耐えている。
その後も、陣痛の波が来るたび、宿主の妻は
「良いおっぱいが、いっぱい出ますように!。」
と言いながら、宿主のおっぱいをもみほぐすようにもみしだいた。
そんな苦痛に満ちた時間が過ぎ、ついに宿主の妻は出産した!。
俺は、産声を聞いた時は本当にほっとした。
宿主の心にも、安堵と幸福感が広がって行くのが分かる。
やれやれこれで、終わりか・・・
俺はそう思った。
だが、生まれた赤ん坊に産湯を使わせた助産師は、宿主にポンと赤ん坊を手渡した。
「さあ、これからはお父さんが頑張る番ねっ!。」
と言いながら・・・・・。
こうして俺の・・・いや宿主の子育ての日々が始まった。
数時間おきにおっぱいを与え、おむつを替え、あやし、お風呂に入れ、・・・寝る間もない忙しい日々!
まだ目も開かない赤ん坊が、俺の、いや宿主のおっぱいを吸う姿とおっぱいを吸われる感覚には感動した!。
心に愛おしさと幸福感があふれる。赤ん坊って、こんなにも可愛いものだったのか・・・
宿主の妻は、毎日ぐっすりと眠って妊娠と出産で消耗した体を回復させている。
赤ん坊は、基本的に宿主がベビールームで世話をしているが、宿主の妻が起きている時は、宿主の妻が抱いていることもある。
俺自身は、なんか良い所取りをされているようで、ちょっとくやしく感じるが、宿主の心は幸福感でいっぱいだった。
日々体重を増していく赤ん坊の世話は、重労働だった。
赤ん坊を連れて外出するようになるといっそうそれを感じる。
おむつにミルクに着替えにといったベビー用品を持ち、体重の増した赤ん坊を抱いての移動。
ベビーカーに、背負い紐に、抱っこバンド。楽をするための用品は色々あるが、しばしば赤ん坊はそれらを嫌がる。
まるで、こちらの愛情を試すかのように。
わがままを言ってこその赤ん坊、赤ん坊のわがままをかなえてやってこその親だと思う。
腕力も持久力も忍耐力も必要な世界。
(これは男の仕事だな・・・)
だんだんそんな風に思うようになって来た俺だった。
男が赤ん坊の世話をする事については納得してきた俺だが、ひとつ納得出来ない事があった。
この服装だ!。
何で男女の服装は逆転してしまったのか!?。
もしかしたら、この世界は俺達の世界の直接の過去ではないのではないか?。
そんな考えがむくむくと浮かんでくる。これをきちんと検証しなければ、実験の成否もあいまいになってしまう。
宿主が眠っている時には、宿主の意識だけでなくその記憶にもアクセスできる事に気づいた俺は、ある晩その疑問を解決すべく、宿主の記憶に潜り込んだ。
服装変化の始まりは俺達の時代のちょっと後、少子高齢化と地球温暖化が深刻さを増し始めて来た頃だったらしい。
地球温暖化と、少子化を結びつける論文が発表された。
いわく、温暖化で男性の睾丸の温度が上がり、性的能力を衰えさせているのが原因だと。
その頃若者達の性欲の低下が進んでいたのは事実だが、住んでいる地域や住環境などで大きく変わる気温と少子化を結びつけるのは、あまりに短絡的でずさんな論法だ。
だが、これに飛びついた連中がいた。
当時の政府である。
自分達の利益を損なわないと解決が難しい少子化の真の原因、たとえば労働者の賃金が下がりすぎて子育ての時間も費用もまかなえない、といった事から国民の目をそらす絶好の理屈だったから。
政府は、『みんな生き生きキャンペーン』と称して、男性の股間が涼しくなるような服装を補助金などで積極的に応援し始めた。
まずは、日本古来の袴のようなゆったりしたズボンから。
それ以前から、鳶職のズボンなどはゆったりしたものが多かったし、涼しいのは快適という事もあり、政府の命令を良く聞く建設業界などから始まったこのキャンペーンは、比較的すんなりと受け入れられて広がって行った。
事務職でも男性が涼しい格好をする事で冷房設定温度が高めになり、冷えすぎに悩ませられていた事務職の女性からの受けもなかなか良かった。従来の服装に固執する営業職には広まりにくかったが。
数年後、このキャンペーンに賛同している建設労働者の家庭と他の職種の家庭での出生率を比較したデータが発表された。
データでは、明らかに建設労働者の家庭の方が出生率が高く、このキャンペーンは『確かなデータの裏づけ』を得て、さらに拡大される事になった。
キャンペーン以前の職種別の家庭の出生率データと比較される事はないまま・・・・・
政府が次に行ったのは、風俗産業狩りだった。
いわく、本来家庭を作り子供を増やす原動力となるべき性欲やお金が、風俗産業などで浪費されるのはけしからん、これも少子化の一因だ、と。
当時、この国での大きな国際イベントが控えていて『街の浄化』をしたいと言う思惑もあったらしい。
結果・・・
強姦事件が多発した!。
もともと性欲が強くて風俗に通っていた男性達が、今まで性風俗産業で解消されていた性欲のはけ口を失って犯罪に走ったのだった。
政府は厳罰化でこれに対応したが、どうせ捕まれば厳罰になるなら殺してしまっても一緒、捕まるリスクを減らすために口封じに殺した方が良いと、かえって凶悪化が進む結果となった。
それらの男性達は、最初は、地下に潜った暴力団が開業した闇風俗で遊んでいたらしい。
しかし、金を使い果たし、闇風俗にツケを溜めてしまい、闇風俗で働かせるための女性の調達を手伝わされる事になってしまった。
最初は、元々風俗で働いていた女性を使っていた闇風俗だが、風俗産業の非合法化と厳しい取締り、劣悪な勤務条件で新規にやろうとする女性はおらず、やがて闇金の借金のカタに取った女性や誘拐して来た女性によって運営されるようになっていた。
手伝いとはいえ、1度手を染めてしまえば、捕まった時には極刑が待っている。
それゆえ、弱みを暴力団に握られたこれらの男性達は、暴力団から逃げる事も出来ず、深みにはまるばかりだった。
そして日々襲う極刑の恐怖から逃れようと刹那的な性欲に身を任せ、教えられた女性誘拐の手口を応用して強姦を繰り返したのだった。
これらの誘拐や強姦を手助けしたのは、なんと次世代の交通システムとして位置づけられ政府が普及に全力を注いでいた自動運転車と広域カーシェアリングシステムだった。
闇売りの身分証で自動運転車を借り、目に付いた女性を車内に引きずり込んで強姦し、(殺してから)人目の少ない場所で捨てる、そんな方法が強姦魔達の標準手口になっていた。
ドライブレコーダーや車内監視装置も付けられていたが、電子的に干渉してウソの映像を記録させる機器が闇で作られており、ほぼ無力化されていた。
警察も摘発に躍起になったが、捕まるのは金に困って身分証を売った貧しい者ばかりだった。
しかし、警察はアリバイなどの証拠があっても共犯、ないと主犯として、見せしめの意味もあってそのまま処刑して行った。
そんな社会情勢の中、女性は、男を刺激するような服装を極力避けるようになり、その服装はどんどん地味になって行き、スカート姿で街を歩く女性はほぼいなくなった。
当然の事ながら、高校や中学の制服でも、ごく一部の全寮制の女子校を除いてスカートは廃止された。
その影響で、女性服産業は大きく衰退した。
また、そういった治安の悪化は、夜間の営業が主体の居酒屋等の飲食業にも深刻なダメージを与え、女性服産業の衰退と合わせて景気を大きく後退させた。
居酒屋産業の衰退は適齢期男女の出会いの機会も減らし、景気の後退に伴う収入の減少と合わせて、婚姻率をさらに低下させ、結果、出生率をさらに押し下げた。
政府は、母体保護法を改正して、生まれた子供の養育について政府が責任を持つ代わりに、母体に危険がある場合以外の中絶を禁止して、わずかでも出生率の数字を上げようとしたものの、施設の建設費や土地取得費に予算を取られて児童養護施設の整備は遅れ、運営費にも事欠く有様で不幸な子供を増やすばかりだった。そして、いっそうの出生意欲の低下を招いたのだった。
政策の失敗は明らかで、これがきっかけとなって、それまでの政権は崩壊した。
出生率の回復を最優先とする事を期待されて誕生した新政権がまず手をつけたのが、前政権の尻拭いというべき『すでに生まれた子供を不幸にしない』制度の整備だった。
当時、ごくわずかな富裕層を別にすれば、子供のいる家庭はとても貧しく、まともに食べて行く事すら難しかった。
そして、その多くが性的な知識が乏しいまま、有り余る性欲と興味から子供を作ってしまった10代の若者で、性犯罪の厳罰化のあおりを食って学校を退学にされて、劣悪な条件で働く事を余儀なくされていた。
そこで新政権は、子供が出来たり、その原因となった行為をした事を理由に生徒を処分する事を固く禁じ、またそういう生徒に対して、逆に奨学金を出して生活の安定化を図った。
この政策は、性的モラルの悪化を招くとして多くの反対意見が上がったが、『生まれてくる子供に何の罪があるのか?。自分の体を分け与えて妊娠し、自分の身の危険を冒してそれを生み出した女性達に、そして苦しい生活に耐えて国家の宝たる子供を育てている者たちに何の恥じるべき点があるのかっ!?。』という首相の演説で、急速に収まっていった。
何より出生率の向上を期待されて選ばれた政権だったのだから。
そして、全国の小学校から高校大学に至るまで、空き教室があればそこに保育所を設ける事を義務付けた。
これによって、10代の親達は安定した地位を得て、自分が通っている学校に作られた保育所で休み時間なども利用して子供の世話をしつつ学業に励んだのだった。
これは、他の生徒が育児を直接見る機会ともなり、子供を作るという事の責任を自覚させ、性的なモラルはむしろ向上し、また子供の可愛さを知らしめて出産意欲の向上へとつながったのだった。
次に新政権は、子育てを最重要国家事業と位置づけ、公共事業費の大半を子育て支援に投入した。
出生後3年間の両親に対する育児休暇保障の法制化とその間の所得保障、保育園や学校の無料化、などなど。
前政権への反発や前政権を支えた勢力の力を削ぐ目的もあって、建築費や土地取得費は徹底的に排除された。
建設系の公共事業に頼っていた地方からの反対は激しかったが、新政権はそういった過疎の地方に育児重点特区を設定し、広く自然あふれる地方で集中的に子育てをする政策を行った。
そういった特区では、空き家を活用したほぼ無料の家賃、安い現地栽培の食料といったものによって、生活コストは低く、
『特区で子育てをすれば育児手当をさらに増額』
という政策のおかげで、とりあえず働かなくとも子供を育てながらの生活が可能となり、ブラック企業で心をすり減らした夫婦や、仕事と子育ての両立に苦しむ片親家庭の者の多くが特区に移住して行った。
そして、それは現地に子育て産業や食料の生産の振興という結果をもたらし、就職先が出来た事で、移住した子育て世代の現地定着を可能にし、移動はさらに加速した。
結果、超高齢化と過疎に苦しんでいた地方には希望をもたらす子供の声があふれ、地方の反対は急速に影を潜めていった。
こうして、出生率はゆるいながらも上昇へと転じて、日本中をほっとさせたのだったが・・・
子育て特区の手厚い育児手当のおかげで両親ともに子育てに専念している家庭では、ある問題が持ち上がっていた。
育児の分担問題である。
両親ともに育児に専念できる以上、男性も育児を担うのは当然、それがそれまでの考え方だった。
しかし、妊娠出産による負担や平均的な体力の男女差を考えると『育児は半々』では女性側の負担があまりに重過ぎる、という意見が出て来た。
特に出産直後、女性は体力を大きく消耗し生命に関わる場合もある。
その女性に、新生児の世話をさせるのはおかしくないのか?。
ただ、そこで立ちはだかったのが、授乳、特に『初乳』の問題だった。
免疫成分を大量に含む初乳は新生児の健康にとって重要である、だから初乳を与え切るまでは、やはり新生児の世話は女性がメインでやった方が良い、という意見が根強かった。
しかし、10日程度とはいえ、数時間おきの授乳は睡眠時間の減少等、出産後すぐの女性にとって大きな負担だった。
だったら男性にも母乳が出れば良いのに。
そんな要請の中で、男性にも母(?)乳を出させる技術が開発された。
元は、美容整形外科分野で、より自然な豊胸術として研究されていたものだったが、この技術を使うと女性ホルモンを男性に投与した場合の悪影響をほとんどなくして、男性の乳腺を発達させ、母乳を出させる事が可能になった。
当初、試験的に子育て特区の十数名の男性に処置が施され、問題点等の洗い出しが行われた。
その結果、医学的には授乳中に一時的な男性機能の低下と性欲の減少が見られたものの、これは男性を育児に専念しやすくする等のむしろ良い影響をもたらし問題とされなかった。
一方、社会的には、男性が街中の授乳室等を利用する場合が大きな問題となった。
それまでは女性だけが使用し、中で胸をはだけて授乳していた場所である。だいぶ収まって来たとはいえ、強姦魔の問題もある。ブースで細かく区切る、非常ベルを設置する等の対策は取られたものの、女性側の不安は消えなかった。
そして作られた制度が、父子手帳の発行と一目で育児中と分かる制服の支給と着用で、制服として支給されたのが、保育士の制服として当時一般的だったベビーピンクの簡素なワンピース=俺が来た時に宿主が着ていた服、だった。
処置を受けた男性たちは、はにかみながら感慨深そうに誇りを持ってこの制服を着たのだった。
そして、以後この服装は『育児中の男性』を表す服装として定着し、派生的に育児を担当する意思と能力を女性にアピールする男性の服装としてバリエーションが増えて行った。
服装の謎が解けた俺は、心の中でそっとため息をついた。
思ったよりはるかにハードな歴史があった事に。
そして、この可愛い服の持っていた意味に。
翌朝、目覚めた宿主を通じて子供に母乳を上げながら、自分の胸の中のかけがえのない命に、愛おしさが込み上げて仕方なかった。
そうして、子供は日々重さと可愛さを増していく。心躍る幸せな日々。
俺はいつの間にか実験の事も忘れ、この幸せな日々がいつまでも続いてくれる事を願っていた。
そうして、3ヶ月が過ぎた頃。
「え!?。」
目覚めた俺は、目に映る景色の変化に戸惑った。
「ご苦労!。君が見聞きした情報の検証も進んでいるよ。100年後につながったのはほぼ間違いない。実験は大成功だ!」
博士の興奮した声が俺に告げる。
俺はゆっくりと思い出した。
そう、実験は3ヶ月で一旦終わり、元の世界に意識が戻って来る事になっていたのだった。
「お疲れ様です。体の方も何のトラブルもないようですよ。」
若い女の声が俺にそう言いながら、俺の体に付けられた生命維持装置や体力維持装置、そして脳内に映る映像や意識された言語を検出する装置が外されていく。
俺はぼんやりと自分の体を見る。
空っぽの腕の中。なくなってしまった乳房。俺はたまらない空虚感に襲われた。
あの愛おしい存在を子供を欲しい!、強くそう思った。
「なかなか、大変な歴史があったんですねぇー。」
若い女=同僚の研究者の声が世間話のように俺に言う。
俺は声のする方に目を向け、ドキッとした!。
女性らしい体の線がくっきりと出る服装、短いスカートから出ている生足、きちんと化粧された美しく魅力的な顔・・・
俺は気恥ずかしさに、思わず顔を赤らめて目をそらした。
久しぶりに見る現代の女性の服装は、あまりに刺激的だった。
同僚は、そんな俺を見てクスッと笑いながら言う。
「どうしたんですか?、ウブな中学生みたいな顔をして。私、そんなに魅力的ですか?。」
そうして同僚はからかうように軽くポーズを取る。
「・・・う、うん・・・。」
実験以前は、何の意識もしていなかった同僚だが、どうもその・・・一目惚れしてしまったようだった。
同僚は、余裕の態度で冗談めかして俺に言う。
「そうですねぇー、子供の世話はぜぇーんぶやってくれる人なら、結婚するのも良いかも知れませんねぇー。」
そうして、ちらっと俺を見る。
「もっ、もちろんだよっ!!!。」
俺は、ガバッと起き上がってそう叫んでいた。
あの愛おしい存在をもう一度この手に抱けるなら、何のためらいがあるだろうか?。
くすくすと笑う同僚に、俺はすがりつかんばかりだった。
ちゃんちゃん!




