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 異世界だとか、現実だとか

作者: はれ

 ――あれから、どれくらい経ったんだろう……。

 

 「ん……」

 ムクリと体を起こすと、そこには比較的綺麗な、ある意味無機質とも言える部屋が広がっていた。


 「……ああ、現実(こっち)か」

 数分たってから口を開く。いつからだっけ、こんなに寝起きが緩くなったの。いつからだっけ、起きた時間を見るのをやめたの。

 俺は布団から出て、居間に入る。確か居間に入って左側に――あった。俺は冷蔵庫を開けて、中の物を覗き込んだ。冷蔵庫の中身はほとんど空だったが、いつ買ったかわからないコーラが置いてあった。俺はそのコーラをコップに移すこともなくキャップを外してそのまま飲む。炭酸が喉を虐めてきた。どうやら俺は喉も弱くなってきているようだ。


 「……ああ、なんか外が赤いと思ったら、夕焼けなのか……」

 居間の窓から外を覗き込むと、そこには血のように赤く燃える夕焼けが広がる外の風景があった。

 「……どうせやることもないし、()()()

 ――俺には、魔法の言葉がある。俺しか知らない、不思議な言葉が。


 「世界交換(ワールドチェンジ)

 

 俺の言葉と同時に、体が宙に浮かぶ。その感覚が消えぬ内に――

 

 「あのぉ、これもっと安くならないんですかぁ?」

 「そんなこと言われても、ウチはこれ以上安くはできないんですっ」

 「え~そういうこと言うならぁ、私の剣捌き受けることになっちゃうよぅ~」

 「あっ、リク!ちょっと助けてー」

 俺がいつもの店に入ると、中の店員がこちらに助けを求めてきた。

 「はぁ?リクだのタクだの知らないけど、私は絶対――ヒィィッ!?す、すいませんしたー!!」

 中でクレームのような事を言っていた女は、俺を見るとすぐ逃げ出した。それはそうだろう。店員が助けを求めた相手が、細い体格とは不釣り合いな大剣を背負っていれば、恐れるに決まっている。


 「ありがとう、リク。お茶でも飲んでいく?」

 「いや、別にいいよ。それより……よかったのか?あの女がこの店の悪評を広めたら、客だって――」

 「大丈夫よ。あの子は旅人だったみたいだし、それに、リクの迫力なら悪評なんて立てる事も出来なくなるよ」

 「そうか……じゃあ、俺は魔物退治に行ってくるから」

 「そう、行ってらっしゃいリク」


 店を出て小さな町を歩いていると、町の住人が次々と俺に「よう!リク!」といった具合であいさつしてくる。俺もその度に言葉を返す。

 そう、この町では皆が俺を知っていて、皆が俺を慕ってくる。

 この町に来たのは、いつだったか――


 『は、はぁ!?イレギュラーな現象で周りがどう動きだすか知りたいから、異世界に行ってくれ!?な、なにを言ってるかさっぱりわからんのだが……』

 『いいから従ってください。これはあの世界をよりよくするための実験です』

 『……ああ、わかったよ、行けばいいんだろ。それで、俺はその世界で何をすればいいんだ?』

 『自由です』

 『はぁぁ!?』


 俺は、密かに異世界へ憧れを持っていた。だからすんなり異世界へ行くことを決意出来たんだと思う。

 『ですが、現実世界とも行き来はできます。戻りたいときには人目のつかない場所で例の言葉を言ってください』

 俺は現実世界でもこの異世界でも、唯一世界を横断できる人間になったんだ。そうして過ごしていくなか、俺は異世界に居る時間がどんどん長くなり……。

 『ちなみに異世界は二十四時間以上連続して滞在しないでください。それ以上滞在してる状態で死ぬと、本当に死んでしまいますから』

 なんてことも言われていた。最初の頃はちゃんと言いつけを守っていたけど、そのうち面倒になって最近は現実世界に戻ったりも戻らなかったりだ。


 「おーい!東の山に魔物が出たぞ!!」

 『東の山だって……?』

 『あそこから町に流れたら大ごとだぞ!』

 

 「皆落ち着いてー!くらいの魔物は俺が退治してくるよ!」

 

 『おお、本当かリク!』

 『それは頼もしいな!』

 『リクなら安心だ!』

 

 俺を包む称賛の声。まだ退治にも行ってないのに、これはなんというか……むずがゆい。

 「じゃあ行ってくるよ」

 俺は称賛の声が消えぬ内に魔物退治へ向かった。

 

 ――


 「—―よっと。思ったより手こずったな」

 魔物は予想より大きく動きも俊敏だったが、まあ俺の敵じゃなかった。

 「さて、帰るか」

 俺は山から町へ向かって歩き出す。もうすでに俺を称賛しているような、そんな声すら聞こえる気がする。

 

 『リクはやっぱりすごいなぁ』

 『ウチによって行きなよリク!サービスするよ!』

 『リクはこの町の誇りだ』

 

 そんな声が聞こえてくるようだ。って、まだ声が聞こえる近さじゃないか。

 俺は斜面を早足で駆け下りて行く。そうしてしばらく進んだのち……

 「見えた。町だ……!」

 いつもの町が見えてきた。心なしか、皆俺を待っているみたいだ。それなら早くいかないとな。

 「おーい!みん――」

 ズルッ。と、足を滑らせる。踏ん張り切れず体が転がったその先に、大きな樹が――


 


 「……あれ……?」

 ムクリ。と体を起こすと、そこには比較的綺麗な、ある意味無機質とも言える部屋が広がっていた。


 「……ああ、現実(こっち)か」

 俺は布団から出て、今の冷蔵庫に手を伸ばす。窓から外を覗くと、土砂降りの雨が降っていた。

 冷蔵庫からコーラを取り出し、そのまま飲む。口いっぱいには甘い味が広がっていたが――

 「……ん?このコーラ、炭酸が抜けてる」

 これではただの甘いジュースだ。

 「……まあ、いっか……それより、やることもないし――」

 俺には、魔法の言葉がある。

 

 「世界交換(ワールドチェンジ)

  

 でもその不思議な言葉は、俺が言った時には唯の言葉になっていた。


 「……え?」

 その時、俺は全てを悟った。そして、俺はなんの抵抗もなく、それを受け入れた。


 ――

 

 ――――


 ――あれから、どれくらい経ったんだろう……。

 俺は意味もなく、ただ眠っておきるだけ。それに理由なんてあるはずがなかったんだ。

 ふと窓から外を覗くと、晴れ晴れとした天気の中スーツをきて歩くサラリーマンと思わしき人物がいた。

 「……もし、異世界に行ってなかったなら、俺はああなっていたのかな……」

 そんな言葉が口から出ていた。確かに生活が崩れたのは異世界に行ってからだ。でも――

 「……いや、全部わかってるんだよ」

 そう、どうせ俺はこうなっていたんだ。だからあの女神も、俺を異世界に行かせたんだろう。

 「……じゃあ、行こうか」

 俺は窓から身を乗り出す。ここは5階だけど、頭から落ちればきっと、きっと――

 

 「死ねるはず――」


 

  

 「—―目が覚めましたか?」

 

 「—―え?」

 「私は女神です。あなたは死にましたが、強運により次元の狭間に来ることが出来ました。これであなたを異世界に転送することができます」

 「は、はは……神様……神様……!」

 「神様?ええ、私は女神様です」


 そう、神様だ。でも、俺が会いたいのは女神様なんかじゃなくて――


 「死に、神様……!!」


 俺は、いつになれば楽になれるんだろうか。


 

 

 

 

 

 

 


どうも、はれです!


今回私の短編を読んでくれた皆様へ、心から感謝いたします。稚拙な文章ではありましたが、最後までお付き合いいただいて感謝どころか土下座までしたいくらいです。

 

さて、これからの私の活動をこの場を借りて話させていただくと、現在連載中の小説の続きを書きつつ、新しい短編や連載小説の作成を……と考えています。


何度も言いましたが、この短編を読んでくれた皆様へ、本当に、ありがとうございました。


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