序章 未來のセカイ
「ね、こんなとこ・・・・興味ない?当たるって最近すっごく人気なんだよ!」
そういって、友人が差し出してきたカードには『風の館~未来の貴方を教えます~』という安易なキャッチコピーと美しい模様が描かれていた。
「興味ない。」
「即答!!秋海も少しはこういうことに乗ってよ。」
「だって、興味ないし。」
まえまでは興味もあったはずだが・・・・一回、死にかけてからそういものにめっきし興味がなくなってしまった。
「まぁ、いいや!今度いくよ!」
「はぁ・・・・。」
面倒だ。それに、占いとかそういうものは・・・・・なんだか嫌なのだ。なにかを思い出しそうで。
* * * *
「ああー!ワクワクしてきたー!!ヤバい!ワクワクしすぎてトイレ行きたくなってきたー!!!ごめん!行ってくる!!」
そういうと、友人はばたばたとどこかへと消えていった。
・・・・・・・案外、風の館とやらは本格的な洋館だった。怪しげな感じのなんとなくほの暗いシャンデリアに照らされたアンティークの調度品たち、いたるところに飾られた蝶の標本・・・・。
【・・・・どうぞ、お次の方】
どこからか、不思議な声がきこえてきた。心の中に直接染み入るような、どこか懐かしいような感じの声。
「え、いや、私は、友人の付き添いで・・・・。今、その友人が・・・・トイレに行ってまして・・・。」
【・・・・それでは、お先にお入りください】
「え、いや・・・・・。」
・・・・・ええい!もうどうにでもなれ!友よ!先に入ってるぞ!!!
くきー!!!なんで私がこんな不気味そうな部屋に一人で・・・・!!!いや、占い師さんがいるし!!いるから!!!
心の中をカオス状態にしながら、繊細な彫刻のほどこされたドアについた真鍮のドアノブを掴む。
「・・・・よし。」
意を決して、扉を開けると・・・・・・
「・・・・・え。」
そこは、なんとも表現し難い不思議な部屋だった。
壁一面に青緑色の薔薇の花と蔓。室内には幾羽もの蝶が舞っている。なにより不思議なのが部屋の構造で、綺麗なまんまるの部屋にはいくつもの扉がある。いま、私が入ってきた扉には『XXI Le Monde』という言葉とタロットカードの模様のようなものがデザインされていた。・・・・なぜか、なんとなくわかるが・・・世界という意味なのだろう。なぜだろう・・・タロットカードなんてほとんどまともに見たことないのに・・・・。
【どうぞ・・・】
そんな部屋の中央には大きな机といかにも占い師といった感じのローブを纏った・・・女性・・・?・・・・がいた。ローブのせいで体型もイマイチわからないし、声も中性的だし、顔は顎しか見えないのでなんとも判断できない。
「え、でも・・・・まだ、友人が・・・・。」
【さきに貴女を占って差し上げましょう】
はぁ・・・・。
戸惑いながらも占い師さんの前にある椅子に座る。
「・・・・・・・。」
どうすればいいんだろう。
一人で静かにあわあわしていると、手を占い師さんにぎゅっと突然握られた。真っ白でとても綺麗な形をしているにも関わらず、緑色に染められた魔女のように長く伸びた爪がアンバランスなその手には温度というものが感じられなかったが、握り方が優しいせいかなぜか恐怖を感じることはなかった。おかしいな。これでも一応知らない人に急に手を握られたらそれなりにビビるはずなのに。
「・・・・あの・・・?」
その声とともに占い師さんはパッと手を離すと、がさごそとカードを取り出した。そして、そのカードをシャッフルすると机の上にタロットカードを扇形に広げた。
【なにを、知りたいのですか】
「いや、特に・・・・。」
【・・・そうですか。では、勝手にやらさせて頂きます】
どうぞ。
【過去】
その言葉とともにめくられたカードは・・・「死」のカード。というか、教えてくれるのは未來だけだったんじゃないのか。
【・・・・貴方は、きっと・・・・なにかを殺したのでしょうね。たとえば・・・恋心など。この想いは届かないと勝手に思いこんで。・・・ああ、それすらも忘れましたか】
なんのことだ・・・?
【現在】
めくられたカードは「審判」。
【でも、大丈夫。その恋心の相手が・・・・迎えにきてくださいますよ。たとえば・・・今日とか】
・・・・なんでこんな具体的なんだろう。少し、変じゃないか?
頭の中で、「逃げろ」という言葉が響き渡る。
【あなたが選んだ道は間違っていない】
青緑色の口紅の塗られた唇が弧を描く。なんだろう、もの凄く怖い。
【あなたには茉莉花がよく似合う】
どこからか取り出したジャスミンの花を私の髪にそっとつける。
・・・・これは、ヤバいだろ。
「あの、すみません。私・・・・帰ります。」
席をたち、後ろを向く。代金はさっきの待合室にでもおいていこう。
【お待ちなさい。まだ占いは終わっていない】
腕をつかまれ、動けない。
・・・・・・仕方ない。終わるまでとりあえずいよう。終わったらダッシュで逃亡だ。
再び席につくと、占い師さんは手の力を緩めて微笑んだ。・・・口元しか見えないが、実は綺麗な顔をしているのかもしれない。
【未來】
めくられた札は・・・・・
「こ、これは・・・・?なんで、真っ黒なんですか!?」
【必然だな】
は?
【僕を捨てて他の人間に現をぬかしたベニなどに未來などないのだ】
ベニ?誰だ?
【うっかり、未來のセカイではなく異世界に飛ばしてしまったが・・・・】
異世界?なんのはなしだ?
恐怖心がマックスになって逃げ出そうとするが占い師の手が離れない。
【やっと見つけたのだ。逃がすわけにはいかない】
「なんの話ですか!?手、放してください!!!!」
怖い怖い怖い怖い怖い!!!!!
【まだ、思いだせないのか】
そういうと、占い師はローブに隠れていた顔をあらわにした。
ふわりと舞い上がった金色・・・いや、緑?色の縦ロールに巻かれた艶やかな髪。舞台化粧のような独特な化粧に覆われながらもなおも美しいその美貌に印象的な青緑色の美しい瞳。そして・・・・物語にでてくるエルフのようにとがった耳。
「だ、だれ?あなたは、だれ!?」
知っているはずだ。だが、どうしてもわからない。なぜだ。この人に凄く近づきたいような気もするが、逆に怖くて足がすくむような気がする。
【僕は・・・君に本当の名をまだ教えていなかったから・・・・君は僕をジャスミンとよんでいた】
ジャスミン・・・・ジャスミン・・・懐かしいような気がする。わからない・・・わからない・・・!!
「思い・・・出せない・・・・。」
【まぁ、いい。僕があとでゆっくりと話そう。だから・・・・】
一緒に、来てくれないか。
・・・・・・・・私は、どうするべきなのだろう。それに、彼女・・・いや、彼は私をどこに連れて行くというのだろうか。
【僕はベニに自ら手をとって欲しい。酷い真似はしたくないのだ】
手をとらなければ・・・・ひどい目にあうと。なんだ、選択肢なんてないじゃないか。私はわざわざ痛い目にあいたいとは思わない。それに・・・この人のことをなんだかとても知りたい。
「・・・・・・うん。」
【ありがとう】
そういうと、ジャスミンさんとやらは優しく頬にキスをおとした。
【いざゆかん。二人だけの未來のセカイへ】
私の身体はジャスミンのローブの暗闇から出てきた無限の美しい蝶に包まれて消えた。
ベニは異世界で過ごした日々のことをすっかり忘れています。
これは・・・・・バットエンドなのでしょうか・・・・?
それに不思議状態・・・・。いつか番外編のようなもので説明する・・・と思われます。




