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エトレの名脇役  作者: 最内翔
第一章 キャファルデーモン襲来と勇者の召喚
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いきなりですが、初戦闘 #2

「レナード様! こいつらは我々にお任せを!」


 そう言って護衛の兵達が兵士級の右前方の雑魚デーモン数体へ斬り掛かっていく。うまく他のデーモンの所から切り離し、数の有利を押し付けていた。それを見た、おそらく指揮官なのであろうデカブツがそこに割って入ろうと鉤爪を振りかぶった。


「おっと、そうはさせないぞ!」


 そこへレナードが割って入り鉤爪を弾き返す。デカブツもレナードを抜き去って護衛の兵達に攻撃を加えるのは無理と判断したのだろうか、諦めて距離を取った。この場に残ったのは俺達四人と、ふむ、デカブツが二体と残った雑魚が三体か。数の上では負けてるけどなんとかなるかな……?


「♪大きな手で あなたと握手 でもゴメンね 掴んだら離しません♪」


 唐突に場違いなまでの呑気な歌が聞こえてきた。どうやらオーレリア式の魔術の詠唱らしく、丁度俺の目の前に居る方の左側のデカブツが何やら藻掻き始める。目に見えぬ手で動きを封じられているのか、やつの行動まで時間を稼げそうだ。

 俺の方もウカウカしてられないな。今回から俺は本当に戦わなくちゃいけないんだ。深く深呼吸する。思い出せ、ソン・メイの動きを。夜の公園で何回も練習したじゃないか。距離を詰められないように一定の距離を保ち、間合いに入った瞬間に必殺の一撃を叩き込む。よしいける!


「♪山の向こうからゴーロゴロ 川の上からドンブラコ それはドカンとぶつかりました♪」


 続けておそらく別の魔法なのだろう。聞こえてきた可愛らしい歌とは裏腹に、今度は敵陣に巨大な岩が突っ込んでいく。今の一撃で敵の雑魚二体が無視できないダメージを負ったらしく、怒り猛っている。先程オーレリアの魔法で拘束を喰らった奴もなんとかガードしたようだが、片腕に傷を負ったようだ。


 攻撃の余波で土埃が舞う中、好機とばかりに俺も敵陣に突っ込む。雑魚の間を通り抜けて、狙うは連続してオーレリアの魔法を喰らって藻掻いている正面の指揮官デーモン。使う技はコマンドで言うと→→△、△、□+△。技自体の名前は、なんだっけ忘れたけどまぁいいや。新しい名前は決まってるしね。

 突進の勢いを乗せてまずはハルバードの穂先で一突き、そのまま斧の部分で相手を打ち上げ、ってマジで浮いた!? 敵は2mを越す巨体なのに打ち上げちまったよ!! 取り敢えず当初の予定通り体を反転させて、捻りを加えた大上段を敵に叩き下ろす。ソン・メイの技だとここまでだったけど、まだ俺のターンは終わらない。振り切ってしまったハルバードから一度右手だけを離し、そのまま左腰にあるショットガンを手に取る。そしてそれを居合の様に抜銃し、至近距離から地面に叩きつけられた指揮官デーモンに、ぶっ放す。


「これは本当の俺のオリジナルだぜ? 喰らえ、墜斧追銃ついふついじゅう!!」


 ビギナーズラックなのか、それとも他の何なのか分からないが俺の想像通りに技が決まったようだ。分厚いはずの敵の装甲すら抵抗なくぶち破り、どうやら無事息の根を止めたようだ。


「どうだ、俺だって少しは……あ」


 初の戦闘で気持ちよく動けたからだろう。俺は油断していた。ハルバードも構えず、ショットガンも戻していない無防備な状態で得意気に振り返った俺の目の前では、さっき横をすり抜けた雑魚が爪を振り被り、今まさに振り下ろさんとしていた。さすがにこれは死んだかね。うん、チュートリアル戦闘とはいえ調子に乗って油断した奴には当然の報いだよな。

 こういう時には走馬灯が流れるものらしいのだが、こっちの世界は勿論、元の世界でも何をしてきたわけでも無い俺には流れるほどの思い出も無かったのだろうか。結局やっぱり何かを成し遂げるわけでもなく、大した覚悟も出来ないまま俺の人生は、


「気を抜かない!」


 目の前の敵が突然横にぶっ飛んでいった。何があったのかと反対を見るとルーシャがすんでのところで敵を撃ち倒してくれたようだった。いけない、すぐに諦めるのは俺の悪い癖だ。でも今のルーシャの声で今度こそ頭がクリアになった。後でちゃんとお礼を言わないと。

 だがそのお礼を言わないといけないルーシャは、急いで駆けつけてきてくれたからだろうか、ルーシャは少し体勢が崩れてしまっておりそこをもう一匹の雑魚デーモンに狙われていた。

 今度こそ俺は冷静且つ迅速にでショットガンを戻し、雑魚の攻撃をルーシャに当たる前に弾き返す。武者鎧のお陰で大した傷にはならなかった。


「すまん、さっきは助かった」


「礼は言わないし、言わなくていい。集中して」


 短くルーシャに窘められ背後に目をやると、残っていたもう一体の指揮官がレナードの所へ迫っていた。レナードは短剣を稲妻のように投げ放ち敵の行動を妨害し、バックステップで攻撃を避けようとしてたみたいなんだが……、いや違うあれはブレスだ!


「レナード上に飛べ!!」


「ん? 分かった!!」

 

 指揮官デーモンはバックステップを読み水平にブレスを吐いていた。だがしかしレナードは既に飛び上がっている。外したのに気付いたデーモンはそのまま上を向き追撃しようとするが、そこには無事ブレスを回避し飛び上がった勢いそのままに接敵、斬りかかるレナードが居た。

 レナードは再び短剣を口内に放ちブレスを止め、着地と同時にバスターソードを縦に一閃。背後に回り込みつついつの間にか抜いていた短剣で斬りつけ、最後に短剣を手放し両手持ちとなったバスターソードを一閃した。


「くそ、思ったより硬いな。炎にも耐性があるのか」


 その声で気付いたのだが、いつの間にか彼のバスターソードは目映く輝き白熱していた。あれも聖印の力なのだろうが、それはまさに英雄が持つ神々しい聖剣のようで。色んな意味であいつんは勝てないんだろうなと思い知り、諦めのような笑みが溢れる。


 レナードの側にいたもう一匹の雑魚はさっきから駆け回るレナードに何回も攻撃をしかけては全て避けられていた様だった。しかしレナードが指揮官デーモンの鉤爪を避けた瞬間、闇雲に振った雑魚の攻撃が見事にレナードの心臓の所へ吸い込まれていく。危ない、と声を上げる事も出来ないまま鉤爪がレナードの体に当たるが、その鉤爪が鎧の内側へ食い込むことは無かった。


「リア! 助かった!」


「はい! ♪デーンデーデデーンデーデデーンデーデデーン♪」


「ってなんでダースベ○ダー!?」


 どうやら先程の攻撃はオーレリアの魔法で軽減していたのだろうと分かったのはいいのだが、異界の地で突然懐かしい旋律を聞いて思わず突っ込んでしまっていた。距離を取るため蹴飛ばした雑魚デーモンが、突然その場で倒れ苦しみだし崩れ落ち、そして絶命した。


「この力、まさかフォースの力!?」


「死になさい」


 ルーシャの声が聞こえて、一瞬また気を抜いていた事に対する手痛いツッコミかとビクッとしたのだが、彼女は既に指揮官デーモンに近づき二丁拳銃を雨あられと撃ち込んでいた。音もリロードもなく、突然一瞬で何十発と銃弾を撃ち込まれた指揮官デーモンは


「まさか領主一行がこれ程の戦力を持っていたとは…… ドーラ様お気をつけください……」


 と遺してどうと倒れた。

 既に護衛の兵達の方でも戦闘が終わったらしく、一体だけ残された雑魚デーモンは逃げ去ろうとしたが難なくレナードが一閃する。


「戦闘終了ですね。皆さん無事で良かった」


 オーレリアの言葉を聞いて思わずフラフラと地面にヘバッてしまった。ちゃんと戦えはしたけど、緊張が解けて死にかけたことを思い出して腰が抜けてしまったのだ。死んでもいいやと思ってはいても流石に恐怖心は拭いきれないんだなぁ……

 放心している俺を尻目にレナードは次々とデーモン達の核のようなもの(混沌核というらしい)を浄化していった。オーレリアは特に傷を負った護衛の兵士を魔法で治癒しており、ルーシャもおそらくポーションなのだろう、薄水色の液体を一気飲みしていた。ルーシャが無言で同じ薄水色の液体を渡してくれたので試しに飲んで見ると、疲れた体に一気に活力が戻ってくる感じがした。MPポーションなのかな?

 一通り浄化作業と回復作業が終わった頃に突然レナードが立ち尽くし、ボソリと言った。


「ん、待て。そういや奴ら最初に『生き残り』が……って言ってなかったか?」


「……そう言えば」


 レナードの言葉にルーシャがピクリとする。レナードも明らか焦った顔だった。何があったんだ?


「ルーシャ付いて来てくれ。リア、キョーヤ殿と他の兵達を頼む!」


 そう言い置くとレナードとルーシャは森の中へ入っていった。慣れているのか森の中へだというのに二人はズンズン進んでいき、すぐに見えなくなった。それをポカンと見送る俺を置いてオーレリアや護衛の兵達は慌てたように出発の準備をしている。


「お、おい何があったんだ?」


「麓の街がデーモン達に襲われている可能性があるんです!」


 ……やっとこさその言葉の意味を理解する。さっきから俺気を抜きすぎだ。今度ばかりは自分に腹が立って脇にある崖に頭をブツケた。

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