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エトレの名脇役  作者: 最内翔
第一章 キャファルデーモン襲来と勇者の召喚
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いきなりですが、初戦闘 #1

 今歩いているのは少し小高い山の山道だった。どうやら祠は山の上にあったようで、拠点とやらは山を降りて更に森を越えた所にあるという。崖の下には木々が生い茂り、森の奥遠くまで目をやっても勿論そこに高層ビルなんて無かった。そこにあるのは荒野と麦畑、そして石造りの町並み。

 ふとその町の中にも誰ひとりとして知り合いが居ないことを思うと、唐突に不安になってくる。元の世界の下宿近くでも知り合いが沢山居たとは言わないが、それでもすれ違えば挨拶をする程度の顔見知りはいたのだ。アパートの大家さん、隣の谷口さん、商店街のたこ焼き屋のおっちゃん。そんな勝手を知った俺の町はもう遠い。

 ふとポケットに手を突っ込みると、果たして、いつも使っている財布があった。……何よりもそう、このお金も多分使えないせいで、このレナード達とはぐれたら完全に無一文で放り出されるというのもやはり怖いことの一つだ。はぐれないようにしなければ。


「その、すまないな。いきなりこんな戦乱の世に飛ばされて、図々しくも故郷の奪還に手を貸してくれなどと……」


 列の先頭を背中をピンと張りながら真っ直ぐ歩いていたレナードが、後ろで街を見下ろしていた俺に振り返った。俺としては半信半疑で半分くらい聞き流していたとはいえ、ある程度話を聞いて納得して来たのだからそこまで迷惑とも思っていないんだが、真面目そうなレナードからしたら気になるのだろう。ガイダンスのことは説明しても理解出来ないと思うので特に説明せずに適当に返す。


「あんまり気にしないでくれ。迷惑どころか、意外と俺はこの状況にワクワクしてるんだぜ?」


 冗談めかして返してやる。サムズアップも忘れちゃ無いぜ! ただ、レナードはそれでもやはり心配げに


「そうは言っても、この先危険に身を晒すことになるんだぞ?」


 と言ってくる。それも一応納得済みなんだけどね


「分かってる。でも所詮俺は投影体だぜ。なんか死んでも本体には影響無いらしいし、ぶっちゃけそこまで恐怖は感じないね」


「こちらとしては、そう言ってもらえるとありがたいけど……」


 敢えて軽い調子で返したんだが、俺の様子があまりに軽く見えたのだろう。レナードはむしろ不安が増したようだった。

 そこで今まで口を開かなかった銀髪の子が


「どうかしらね。いざ敵を前にしたら逃げ出すんじゃないの。」


 と、こちらを睨んできた。まぁそうなるよね。


「あー、そう思う気持ちも察するに余り有るんだけど、自分でも不思議なほど落ち着いてるんだ。いやしかし、開口一番でなかなか手厳しいね、えっと……」


「ルーシャ。仲間の名前くらい覚えて、キョーヤ」


 ルーシャはそう言い放つと興味を失ったように足を早めた。レナードは不安そうだし、ルーシャは冷たいし、少し軽薄過ぎただろうか。因みにオーレリアはどうなのだろうと目を向けてみると、レナードの横で鼻歌を歌いながらニコニコと歩いていた。こちらの視線に気付いてこっちを見て首をかしげている。なんだろう、メイジっていうとパーティーで一番賢いイメージなんだけどこの娘はどうもアホの子に思えてくる。

 それより聞いたか!? 今ルーシャが俺のことを下の名前で


「そうだ、先に君の戦い方を教えてもらってもいいかな? 見たところ武器は持っていないようだけど」


 チッ、嬉しさの余韻に浸る暇もなく野郎に声をかけられたぜ。えと、戦い方だっけ?


「基本的にはハルバードで戦える、はず。だからハルバードだけ貸してもらえると有り難い」


 そう言うと、護衛の兵達のうちの一人がハルバードを手渡してくれる。受け取った後、試しに

軽く振ってみる。凄い、結構重いはずなんだけど特に力を入れなくても振れた。やっぱり転移の時に筋力の調整とかはしてくれてたみたいだ。

 

 一通り満足した後、一旦ハルバードを肩に担ぎフル装備な自分の服装を省みる。なんというか、今の俺は実にチグハグな格好をしているのだ。

 まず元の世界に居た普段着、というより寝間着代わりのジャージ、その上から日本の昔の武者鎧を着込み、帯刀する代わりとばかりにショットガンを腰に下げている。更に今受け取ったハルバードを肩に担いでいるので、もう時代も地域もゴチャ混ぜな出で立ちというわけだ。因みにこの武者鎧とショットガンは目覚めた時には既に装備していた。おそらく専用装備というか、支給品のようなものなのだろう。

 別段武器マニアという訳でもないので型式とかは分からないが、共に妙に体に馴染む良品だと分かる。

 そこで俺はある事を思い出した。


「あ、この筒なんだけど、実はこれ」


「ショットガン、とかいう射撃武器ね。 確か近接射撃に特化した銃だったはず」


 異世界物恒例の地球産銃器をドヤ顔披露をしようとしたら、何故かルーシャに遮られてしまった。ちょっとこの世界テンプレ無視しすぎじゃない?


「なんでまたコレを知ってるのさ」


 多少ムッとした声を隠し切れず問うと、オーレリアが代わりに答えてくれた。


「ルーシャの獲物も異世界の銃っていう武器ですものね」



「うん、そうなの。これなんだけど」


 そう言って構えたのは、紛れも無く地球の銃だった。しかも両手持ち用らしく、所謂二丁拳銃だった。


「私のクラスはシャドウ。簡単に言えば暗殺者。敵の後ろに回り込んで敵の息の根を止める」


「因みにエボニー・アイボリーって名前だそうだ。彼女に頼んだら確実に敵を落としてきてくれる、頼れる仲間だ」


 レナードが爽やかに微笑んでルーシャの頭を撫でた。「一人だけ殺しきれなかったけどね……」と若干俯きながらルーシャが呟く。その顔は若干赤らんでいた。

 その様子から目を逸らしながら、はっと俺は自分の中にあった違和感に気付いた。


「あれ、でも銃って発砲音するから隠密性能は低いんじゃ?」


「そう?? これは音しないけど」


 ルーシャがおもむろに上を飛んでいた野鳥を撃ち落とし、そのまま背負っている袋に詰める。食事の材料にするのだろう。

 そしてその時、銃声は本当に無かった。別にサイレンサーが付いてるわけでも無いのに全くの無音。しかも薬莢が排出されるわけでもない。どういう仕組なのだろうか。

 いや、やっぱり取り敢えず地球の法則に当てはめて考えるのはやめることにしよう。



「僕はこれだ。クラスはセイバーにあたるね」


 と今度はレナードが背中に背負った剣を見せた。長さは1m強といった所で、刀身は長さに比べれば細め。バスターソードって奴だろうか


「そう、バスターソードであってるよ。基本はこれ一本なんだけど、場合によって短剣も織り交ぜて戦うんだ」


 レナードがマントを裏返すと、何本かのナイフがホルダーに刺さっていた。

 イメージとしてはレイピアとマインゴーシュの関係に近いのだろうか? 今の所あまり想像はつかなかった。



「私は制動魔法を使います。基本的には……えい!」


 最後にオーレリアが短い杖(タクトと言うらしい)を振ると、道の側にあった小さめの岩がふわりと浮き上がり、そのままドスンと下に落ちた。


「凄いぞ。リアはそれを敵の部隊相手にやってしまうんだ。まとまった敵の制圧は基本彼女に頼ってる」


「まだ純粋に他の人を浮かせたままにするのは苦手なんですけどね」


 そう言って苦笑するオーレリア。ある意味でオーレリアが一番分かりやすく、おそらく念動力みたいな事が出来るのだろう。


        ☆


「キシャシャ、見つけたぞニンゲンども! まだこんな所に生き残りがいやがったか! 野郎共やっちまうぜ!」


 そうやって俺たちが互いの動きを確認しつつ、山の中腹まで降りてきた辺りで、突然横の森の中から沢山の魔物達が現れた。全身焦げ茶色の鈍く輝く皮膚を持ち、捻くれた角がその異様さを際立たせる…… そう、典型的なデーモン達だ。

 ただ何だろう、普通デーモンと言えば恐ろしい物だろうし、実際明らかに強力そうなデカい奴も居るんだけど……

 正直台詞的に負ける気がしなかった。


「うぅ、指揮官級も二体います。数もそれなりに居ますし、ちょっとマズそうです……」


「いや、キョーヤが俺たちと同じくらい戦えるのだとしたらなんとかなるだろう。いけるか?」


「いやいや、この状況で無理って言ったら全滅するでしょうが」


 そう不敵に笑って、俺はハルバードを構える。なにせセオリー通りならこれはチュートリアル戦闘のはずなのだ。

 え、大丈夫だよな? 台詞は兎も角、実力はありそうな敵ばっかりだけど、流石にチュートリアルのセオリーまで無視しないよな? さっき素振りした感触だと元の世界ではまともに振る事すら難しいはずのハルバードも問題なく振れたし直感的に戦える気はするんだけど、実戦経験自体は丸っきりゼロなんだぞ?

 ……取り敢えず、今まで散々テンプレを無視されてきた事からは目を背けておくことにしよう。

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