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エトレの名脇役  作者: 最内翔
第一章 キャファルデーモン襲来と勇者の召喚
3/15

夢うつつの契約

 勿論、突然転移してきた割にすぐに順応したのにはわけがあった。これでも結構俺はリアリスティックな方だし、そうでなくとも明らかに荒事に巻き込まれそうな、武装した連中の仲間になるなんて天地がひっくり返ろうともなるわけがない。何を隠そう、武術なんて部活で剣道をやっていたくらいなのだ。確かに剣道は戦闘競技ではあるのだが、実際には、少なくとも俺程度のレベルでは、有効打突を決めるだけのスポーツで実戦に通じる所は殆ど無い。極めれば間合いや呼吸の読み合いなど戦闘に活かせる部分も大いにあるのだろうが、初段を取って満足していた俺には未知の領域である。

 話が逸れた。ともかく本来なら目が覚めるまで頭を壁にぶつけたり家に帰りたいと泣きわめくはずの俺があっさり乗った理由。なんのことはない、実は事前に軽くガイダンスを受けていたのだった。

 一先ず拠点に戻るというレナードについて目覚めた洞窟、どうやらセンデレの祠というらしいが、から移動する途中、目が覚める前の事を思い出した。


*************************************************

 ここは何処だろうか。気がつくと一面真っ白な世界に居た。目の前には机があり、その両脇に椅子が一対。その片方にはスーツを着たオッサンが座っており、何やらデスク上のパソコンをカタカタとやっている。

 

「はい、君そこ座って。柳瀬恭弥君だね」


「え、まぁ、ハイ」


 言われるままに席に着く。なんというかバイトの面接のノリだった。


「悪いねぇ今回は私みたいなオッサンで。それじゃチャッチャと話進めましょう」


「え、なんの」


「今回君は異世界転移の候補として選ばれたのよ。あ、異世界転移って分かる?」


「まぁ一通りの知識は。ゼ○の使い魔みたいな奴ですよね?」


 俺はそこそこアニメなども見る方で、その中にはやはり異世界に転移される話も多くあった。現実世界から異世界に飛ばされ、幾多の困難をオリジナルなスキルとヒロイン達と共に乗り越える。王道の一つだね。


「そうそうそれそれ。それで今回君にはアトラタン大陸に転移して貰うんだけど……」


「ちょい待ち、意味が分からない」


 異世界転移は王道の一つである。そう、ファンタジーのな! 現実にそんな荒唐無稽な話があってたまるか! この空間自体もぶっ飛んでるけどそれは置いとくとして。

 それにあぁいう類の主人公はいつも幾多の困難を乗り越えている、っというか困難に立ちはだかられているのだ。確かに憧れはするが、マジで自分が直面するのは御免だった。少なくとも、マジの生死を賭けた戦いとか出来る気がしない。

 そんな感じの否定の言葉を並べようとすると、分かってるという感じでオッサンが遮った。


「あぁ、心配しなくていいよ。あそこは特殊でね、君自身が転移するって訳じゃないんだ。君の影、というか分身? みたいなのが向こうの世界に出現するってだけの話」


「というと……?」


「君が目を覚ましても、いつもの日常に戻るだけ。でも一方でその君自身の記憶と人格を持った人物が異世界に現れる。同一人物でありながら別の個体が2つの世界に存在することになるのだよ」


 んーややこしいが、結局のところ俺は大したリスクも取らず、失敗しても何の問題もない状態で異世界チーレムを体験出来るということだろうか。


「チーレムは兎も角、君自信に何のリスクも無いことは保証しよう。分身くんが死ぬ時痛かったりするのは当たり前だけど少なくとも本体の君自身は」


 そう答えられた。ならこんないい話はない。警戒して色々疑ってみたが特に危険は無さそうだった。一番ありそうな、実はこのオッサンは悪魔だった! という線も「転生管理士 認定書」とかいう書類があったので無いと思う。書類の真偽なんて勿論分からないけど、こんな小道具まで用意する悪魔が居てたまるかというただの私見だった。


「なるほど、分かりました。お引き受けしましょう」


「ありがとう。じゃあ君のデータを作ろうか」


 そう言うとオッサンは何冊かの本を取り出してペラペラとページを捲り始めた。


「さて、今回は5Lvスタートらしいから、君の能力値を移し替えると、ふむ。知力共感型だね。向こう行ったら戦う事になるんだけど、どんな戦い方したい? あ、気軽に答えていいよ」


 なんだ? ゲームのキャラメイキングみたいなものか? この頃になるとわりと俺自身も乗り気、というか楽しくなってきていたので今までのゲームを思い出し、


「そうですね、やっぱりメインは近接戦闘がいいです。槍が好きなので槍、いやハルバードがいいです。あぁ言う複合武器を使いこなすのには憧れるんですよね。そして相手の間合いの外から攻撃する。あ、でも今回は異世界だからな…… やっぱり地球の銃器は必須でしょう。と言っても銃メインで戦いたいわけではないんですが。あ、折角ならショットガンで! それと戦闘方法はさっき言った様なのでいいんですけど、脳筋よりかは他の人のサポートとかも出来る万能タイプがいいです。チームの穴を埋めながら戦うというか。器用貧乏になる程色んな事を少しずつ出来るってのではないです。あくまで最低限自分の仕事はしつつ……」


「待った待った! 君、一気に希望出しすぎだ。というかよくそんなに案が出てくるね」


「色んなゲームでキャラ作成とかはしてるのでこういうのは得意ですよ!」


 因みにハルバードを指定したのには理由がある。特にやり込んでいた格ゲの一つにSacred Quarterというのがあるのだが、俺のメインキャラがソン・メイという大刀使いだったのだ。あ、大刀ってのは薙刀みたいなものね。そのキャラの動きを勿論俺は体得しているわけだが、今回俺自身が戦うことになるらしいのでそれが使えるかなと思ったのだ。ふっふっふ、中二病乙とか言われつつも見様見真似で型を習得しておいたのがこんな形で役に立つとは。

 俺が一気に並べ立てたせいかオッサンは多少ゲンナリしながらだが、その本をめくってはパソコンに何か書き込んでいる。どうやら本の内容をパソコンに書き写しているようだが、その内容は理解出来なかった。HPやMPはなんとなく分かるが、「ダイスを+1Dする」とか「ラウンド中」とか専門用語が多いのだ。取り敢えず何かのデータっぽいけど……


「そ、そうかい。ちょっと待ってね……。取り敢えず戦闘面ではハルバードの耐久パワータイプに寄せて、カバーリングと振り直し積んで、偉業特技は汎用性高いコイツにして、うむ出来たぞ」


 意外と早かった。結構手慣れている様子だったし、このオッサンはいつもこんなアホなことやっているのか。そこで俺はあることに気付く。そうだ、俺前見たぞ! こういう異世界転移では決まって固有能力、しかもとんでもなく強力なものを貰えるのさ。君たち知っていたかい?


「お、マジっすか。因みに固有能力はどんなの貰えるんです?」


「ん? そんなの無いよ」


「えっ」


「えっ」


 冗談じゃなかった。そういうのが本当に無いのなら、ガチの命のやり取りになるっていうことだった。舐めプさせてくれないということだった。


「確かにそういう案件も最近あるけど、今回の転移先はそもそも君は勇者ってわけじゃ無いしねぇ」


 と言ってプリンターから何かを印刷しだした。ん? ちょっと待って


「あの、今のは流石に聞き間違いですよね?」


「ううん、君はあくまで英雄の仲間の一人。ただちゃんと天運に恵まれた英雄にはなれるから安心して」


 色々期待と違いすぎてもはやもうどうでも良くなってきた。なんだよ、夢の中でくらい夢見せてくれたっていいのに。

 確かにあんまり主人公って柄ではないけど、折角異世界転移するっていうならやっぱり期待するじゃん。圧倒的力で敵を倒し美少女を救い、尊敬されラッキースケベしたりするのとかさぁ…… 憧れるよな、そして異世界転移するんなら普通そこまでセットだよな?

 そんな下心満載な不貞腐れ方をしていると、オッサンが紙を渡してくる。


「それが今までの説明のまとめと転移先の君が出来ることの概略ね。向こうになったら自然とやり方は分かるようになってるはずだけど目だけは通しておいて。読んで諸注意とかに同意してくれるならサインもよろしく」


 何というか、最後までバイトの契約みたいな応対だった。適当に軽く読み飛ばしてサインをする。

 まぁそもそも夢だろうし、少なくとも俺自身は目が覚めたら元の世界に戻るのは確からしいしどうでも良い。

 本当だった時は頑張れ向こうの俺。有り得無いだろうけど。


「OK これで完了だね。それじゃ頑張ってねー」



 その声と同時にフゥっと意識が遠のき、目を開くとレナード達が居たのだった。

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