4話 あたしは
ちょいとエグい内容です
お気をつけください
4話 あたしは
・・・なんだか、暗い。地面は、ゴツゴツしてて・・・石?
ゆっくりと目を開ける。
・・・ここは?
あたしは自嘲した。遂に捕まったか。
しかし、なんだかおかしい。
・・・出入口がないのだ。どこを見ても、やはり石、石、石。
いや、違った。
ある一面は、どこか、おかしなものだった。
それは、不安を覚え、穏やかで、怖くて寂しくて、見たこともなくて、だけどどこか懐かしいような。
鉄屑のようなものがくっついている。
途中で切れた銅線が飛び出ている。
小さなタイヤが張り付いて。
粗大ゴミ置き場がそのままぐしゃっとなったような、そんなデコボコが過ぎる壁に嵌め込まれたスクリーン。それは今へたりこんでいるあたしのちょうど目の前にあり、砂嵐を流している。
なんなのかしら、この場所。
もしかして、と、ふと考えて行き着いたのはどうにも嫌な想像。
・・・拷問部屋?監禁?
精神をどうにかしようとしてるのか、まったく、警察も悪趣味なものだわ。
・・・まァあたしはそれほどの事をしてしまったんだ。
そうは理解しながらも胸が苦しいのは、あたし自身のこの先を憂いているに他ならないだろう。
あたしは、人を殺した。
偽りの愛を囁きながら、何人もの男を殺めた。
小さい頃から、金があれば幸せになれると信じていた。
父はギャンブルと酒に浸り、母はまた男と酒に溺れた。
当然どちらも働いてなどいなくて、金は減るどころかマイナスに。どんどん、落ちて、堕ちて。
借金の取り立てが来る度に、震えながらの居留守。そいつら帰ると私を殴る。
そんな父と母は、それぞれの両親に、とっくの昔に縁を切られていた。
ある日あたしは無理矢理、体を売られた。
それによって入った金は毟り取られ、くだらない遊びに使われた。
そりゃ勿論逃げた。
でもその度に家に戻された。警察なんて役に立たない。
金さえあれば、遠くに行ける。こんな所から逃げ出せる。
いつからか、そう思っていた。
最初に殺したのは、可もなく不可もなくというような男。
その時にはもう大人になって家を出て、しかしまだ水商売をしていた。
その男はそこで出会った。
特に興味もなかったが、身の安定を思い、婚約した。
保険金詐欺、というものをやったのもこれがはじめて。
食事に少しずつ毒を盛り、衰弱させていった。簡単だった。
すぐに大金が入った。
ああ、これだけで、そんなに金が手に入るなんて・・・。
それから3、4人殺した。金持ちもそうでないのもいた。
夫が何人も死んで、あたしが疑われなかったわけではない。運良く捕まらなかった。
最後に殺した記憶があるのは、そう、あいつだ。
最初の奴と同じく、裕福でも貧乏でもなく、何をとっても普通な男だった。
なのに彼は不思議だった。優しくて、でもどこかしっかりしていて。なんだかこっちまで和んでくるような・・・。
・・・そうだ、なんて馬鹿なんだ。
こんな明らかに怪しいあたしを受け入れ、愛して、いつも笑顔で幸せそうで。
・・・そんなことはどうだっていい。あたしはなんでこんな場所に居る?
捕まったにしてはなんだかおかしい。
記憶が、無い。
殺して、逃げたところまでは覚えている。
・・・逃げた?何で?あれ?
何故、頬が濡れているの?
おかしい、おかしい!なんで泣いているの!
ジジーッ、プツン・・・
砂嵐だけを流していた画面がいきなり明るくなった。
泣いてたって意味は無いし、袖で涙を拭い画面も見つめる。
あいつが、手を伸ばしている。
死んだはずの、あいつが。
あたしが殺した、あいつが。
その姿を認識すると、またあたしの目は涙を押し出してくる。
あいつはいつも通りほほ笑んでいる。
愛してる、と聞こえる。胸が苦しい。
息が、詰まる。
馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿!喋んないでよ!
聞き飽きたのよ、そんな言葉!
なのに胸がどんどん苦しくなってくる。
あたしも、と零れた。涙とともに。
誰が言ったのか、と一瞬驚いたが、それは自分の口から出ていた。何故?
おかしい、やっぱり。
・・・違う!
あたしは、あいつを、いや、画面に映るこの人を愛していた。今も愛している。
その気持ちに気が付いたのは、この人を殺してしまった後だった。
それから、あたしは死んだ。心の苦しさに耐えきれなかった。
ごめんね・・・許してくれなくてもいいの。ただ今は
部屋が、崩れる。
埃が舞い、小さな石が降ってきて、部屋全体からミシミシと嫌な音がする。
そばに、居させてください。
画面に映る彼を抱きしめる。
今から、そっちに行きます。
愛しています。