表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢売り屋  作者: しもつき
4/5

4話 あたしは

ちょいとエグい内容です

お気をつけください

4話 あたしは




・・・なんだか、暗い。地面は、ゴツゴツしてて・・・石?


ゆっくりと目を開ける。

・・・ここは?

あたしは自嘲した。遂に捕まったか。


しかし、なんだかおかしい。

・・・出入口がないのだ。どこを見ても、やはり石、石、石。

いや、違った。

ある一面は、どこか、おかしなものだった。

それは、不安を覚え、穏やかで、怖くて寂しくて、見たこともなくて、だけどどこか懐かしいような。


鉄屑のようなものがくっついている。

途中で切れた銅線が飛び出ている。

小さなタイヤが張り付いて。

粗大ゴミ置き場がそのままぐしゃっとなったような、そんなデコボコが過ぎる壁に嵌め込まれたスクリーン。それは今へたりこんでいるあたしのちょうど目の前にあり、砂嵐を流している。


なんなのかしら、この場所。

もしかして、と、ふと考えて行き着いたのはどうにも嫌な想像。

・・・拷問部屋?監禁?

精神をどうにかしようとしてるのか、まったく、警察も悪趣味なものだわ。

・・・まァあたしはそれほどの事をしてしまったんだ。

そうは理解しながらも胸が苦しいのは、あたし自身のこの先を憂いているに他ならないだろう。


あたしは、人を殺した。

偽りの愛を囁きながら、何人もの男を殺めた。

小さい頃から、金があれば幸せになれると信じていた。

父はギャンブルと酒に浸り、母はまた男と酒に溺れた。

当然どちらも働いてなどいなくて、金は減るどころかマイナスに。どんどん、落ちて、堕ちて。

借金の取り立てが来る度に、震えながらの居留守。そいつら帰ると私を殴る。

そんな父と母は、それぞれの両親に、とっくの昔に縁を切られていた。

ある日あたしは無理矢理、体を売られた。

それによって入った金は毟り取られ、くだらない遊びに使われた。

そりゃ勿論逃げた。

でもその度に家に戻された。警察なんて役に立たない。

金さえあれば、遠くに行ける。こんな所から逃げ出せる。

いつからか、そう思っていた。


最初に殺したのは、可もなく不可もなくというような男。

その時にはもう大人になって家を出て、しかしまだ水商売をしていた。

その男はそこで出会った。

特に興味もなかったが、身の安定を思い、婚約した。

保険金詐欺、というものをやったのもこれがはじめて。

食事に少しずつ毒を盛り、衰弱させていった。簡単だった。

すぐに大金が入った。

ああ、これだけで、そんなに金が手に入るなんて・・・。


それから3、4人殺した。金持ちもそうでないのもいた。

夫が何人も死んで、あたしが疑われなかったわけではない。運良く捕まらなかった。

最後に殺した記憶があるのは、そう、あいつだ。

最初の奴と同じく、裕福でも貧乏でもなく、何をとっても普通な男だった。

なのに彼は不思議だった。優しくて、でもどこかしっかりしていて。なんだかこっちまで和んでくるような・・・。

・・・そうだ、なんて馬鹿なんだ。

こんな明らかに怪しいあたしを受け入れ、愛して、いつも笑顔で幸せそうで。


・・・そんなことはどうだっていい。あたしはなんでこんな場所に居る?

捕まったにしてはなんだかおかしい。

記憶が、無い。

殺して、逃げたところまでは覚えている。

・・・逃げた?何で?あれ?


何故、頬が濡れているの?

おかしい、おかしい!なんで泣いているの!


ジジーッ、プツン・・・


砂嵐だけを流していた画面がいきなり明るくなった。

泣いてたって意味は無いし、袖で涙を拭い画面も見つめる。


あいつが、手を伸ばしている。

死んだはずの、あいつが。

あたしが殺した、あいつが。


その姿を認識すると、またあたしの目は涙を押し出してくる。

あいつはいつも通りほほ笑んでいる。

愛してる、と聞こえる。胸が苦しい。

息が、詰まる。


馬鹿、馬鹿馬鹿馬鹿!喋んないでよ!

聞き飽きたのよ、そんな言葉!

なのに胸がどんどん苦しくなってくる。

あたしも、と零れた。涙とともに。

誰が言ったのか、と一瞬驚いたが、それは自分の口から出ていた。何故?

おかしい、やっぱり。

・・・違う!


あたしは、あいつを、いや、画面に映るこの人を愛していた。今も愛している。

その気持ちに気が付いたのは、この人を殺してしまった後だった。

それから、あたしは死んだ。心の苦しさに耐えきれなかった。

ごめんね・・・許してくれなくてもいいの。ただ今は


部屋が、崩れる。

埃が舞い、小さな石が降ってきて、部屋全体からミシミシと嫌な音がする。


そばに、居させてください。

画面に映る彼を抱きしめる。

今から、そっちに行きます。


愛しています。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ