3月12日 生還
――どれぐらいの時間が経ったのだろう……? さっきの2人は……?
虚ろの中で目を覚ましたのは問井であった。しかし、まだはっきりと意識は戻っていない。
――頭がポワァッとする……それに身体も動かない……
問井にとって、全てが突然の出来事だった為、一部が理解出来ずに戸惑っていた。校舎で起こった異変、大王桜の脅威、一部教師による襲撃、紗倉香菜太と舞散紗久羅という2人の謎、そして、城坂による唐突な告白。
――そうだわ……あいつに……幡に聞いたら分かるはず……起きなきゃ……
『んっ、あれ……? ここは……?』
問井が目を覚ました場所は知っているが、あまり見慣れない所だった。身体を起こすとそこは校舎の看板桜、大王桜の裏側にいた事にすぐに気付く。問井は空を見上げて、大きくため息をついた。
『はぁあっ……無事に出られたのね。邪気も消えたみたいだし、綺麗な青空になったわね。幡、助かったわ……ありがとう』
これまでにない笑顔でお礼を言う問井。しかし、城坂からの返事はなかった。
『の、幡……? あれ……幡……? どこにいるの……?』
問井は辺りを見回したが返事どころか城坂の影、形すらなかった。
『ま、まさかね……? うちと違うとこに飛ばされただけよね……?』
そう自分自身に言い聞かせるが身体は正直。恋人になって30分も経っていない彼氏だが傍にいないだけでこんなにも孤独なのかと身震いしていた。
『さ、探さ……なきゃ……あいつは……幡は……うちがいないと……ダメなんだから……』
まるで歩き方を覚える赤ちゃんの様に足を震わせて、ゆっくりと問井は立ち上がった。そして、ズリズリと足を引き擦りながら、幡の行方を捜し始めた。すると、問井は予想外の光景を目の当たりにする。
『一体……どういう事……? 幡も……みんなも……誰もいないじゃない……』
大王桜を抜けると辺りは騒いでいたのが嘘の様に静まり返っていた。それどころか人っ子一人姿がなかった。
『誰かっ……! 誰かいないの!? いるなら返事して!』
問井の声が校舎に木霊する。しかし、呼びかけには誰にも応じてもらえず、疲労している身体で大声を出した為、少しばかりの体力が削られてしまった。
『はぁ……はぁ……どこにも誰もいないなんて……そうだわっ……! もしかしたら、グラウンドに避難してるかもしれない……』
桜からグラウンドまではそう遠くはない。だから、そこにみんな避難しているだろう……そう思っていた。が、しかし……
『嘘……でしょ……なんで、誰もいないよの……? 普通、避難するって言ったら、グラウンドでしょ……?』
問井は辺りを見回した。せめて1人くらいはいるはずだと……しかし、誰もいなかった。それどころか、人の気配すら感じられなかった。異常な程の静けさに逆に悪寒を感じる問井であった。
『な、なんでこんな事に……? うぅっ……幡……うちを1人にしないでよ……』
いつも強気な態度を見せている問井もこればかりは耐え切れず、膝を崩して泣き始めてしまう。それもそのはずであり、校舎内だけではなく、校舎外の音も聞こえてこない。一言でまとめたら「孤独」な状態に今、問井は立たされていた。
しかし、問井はあきらめてはいなかった。
『ぐすっ……だめっ……泣いても……解決しない……探さなきゃ……』
涙を拭い、本校舎の前に立ち遠くから1度全体を見回した。外から見回してはみたが人気が無いのを感じ、その場を後にした。次に管理棟へと向かった。
『う~ん……受付の人も試しに校長室も入ってみたけど、校長もいないわね……どこもかしこももぬけの殻……あと探索してないのは……体育館位だわ……』
改めて、問井は考えた。今日は卒業式であり、その卒業式に異変が起きた。ならば、ほぼ全員が体育館にいてもおかしくないのかもしれない……と……
―― 数分後 ――
体育館付近に到着した問井。体育館が騒がしく、人気も多いのが分かった。問井は安心した気持ちで体育館へ向かった。すると、体育館横の街灯付きの時計が設置されていて、1度そこで休憩をした。
『はぁ……はぁ……良かったぁ……人が……みんないたのね……ふぅうっ……』
大きなため息をついて、その場に座り込む問井。空を見ると澄んだ青色が目に入ってくる。同時に時計の針も目に入った。
『まだ8時35分かぁ~……えっ……? 8時35分……? なんで、時間が……5分しか……みんなで2,3時間以上は葛藤してたはずなのに……』
すると、体育館から他の生徒が出てくる。
「どうしたんですか~? そんなところで座ってたら、卒業式が始まっちゃいますよ~?」
その生徒は中へと入っていった。
『あっ……ちょっと……!? ぅうっ……戻っても行く場所なんてないし……行くしかないわね……』
問井は立ち上がり、疲れた身体を何とか引き擦りながら、体育館へと入っていった。
『みんな……座ってる……あれ……? 幡……? 幡、もう……来てたの……?』
「おぅっ、副委員長? 遅かったじゃないか。もう始まるぞ? 早く座れよ?」
『幡……? 名前で呼ばないの……?』
「どうしたんだよ急に? 俺とお前ってそんな仲だったか?」
城坂の発言に問井は絶望した。告白してくれた相手が恋人で無くなった事に……それも突然である。2人で頑張った苦労はなんだったのだろうか? ただの夢だったのか? そんな事を考えながら、席へ座った。
すると問井のスカートのポケットから小銭の音が聞こえた。
『………っ!? これは……幡が貸してもらった小銭……! そうだった……未来予知に使ったんだわ……幡に借りたままだった……ってあれ……胸ポケットにも何かが……?』
小銭を見つけた後、胸ポケットを探ると大きな電子機器を見つけた。
『あっ……RHINEの為に貸してもらった大型充電器だわ……幡から借りたモノ……全部……残ってた……』
問井は卒業式が終わったら、城坂を呼び出す事にした。




