吐露2
「あの時、私達は全員戦う意志を表明しましたわよね?」
峠は超え、ある程度容態が安定した。そうアスカが判断したことで、昨晩は見送られていたイリスに対する聞き取りが行われることとなった。
「どうして一人で行きましたの?」
医務室には不動の巨城の現在の住人全員が集まっている。ギイハルト含め、全員が何かしらイリスの行動に翻弄されたのだ。皆に聞く権利があった。
最初に口火を切ったのはアスカ。彼女はギイハルトとはベッドを挟んで反対側に立っている。
こうなってはイリスに誤魔化しは許されない。元より、イリスはこういったことを誤魔化したりは苦手なのだ。
だからこそ、適当な理由をでっち上げ大手を振って偵察に出ればいいものを、わざわざ深夜に出発するという単純な手に出たのだから。
「これは私の解決すべき問題です」
正直は美徳というが、正直さが事態を解決するかどうかは別問題だ。
この行動はイリスの仲間に対する明確な裏切り。周囲は当然怒りを覚えた。
声を荒らげることすら惜しむほど、怒り悲しんだ。
「貴女……実は、すごく人見知りなのですわね」
それは、ある意味イリスの本質を突いた指摘だったのかもしれない。
空をこそ絶対の価値観とする彼女は、相対的に他人への興味が薄い。それでいで常識を弁えた言動から周囲はそれを『大人びている』と解釈することもあるが、決してそれは人間関係上の打算という上等なものから生じる行動ではないのだ。
「目測が甘かったです。侮れませんね、テロリストというのも」
苦笑するイリス。
「そんなに、僕らが頼りない?」
「はい」
ククリの問い掛けに即答するイリス。
部屋の空気が一層冷え込む、そんな錯覚を誰もが覚えた。
思わず、アスカがイリスを衝動的に引っ叩く。
しかしイリスは難なく、アスカの手首を掴んで止めてみせた。
「非戦闘員に手を借りるほど、落ちぶれてはいませんよ」
死に体でもアスカの敵意はイリスには届かない。その事実が、自分が戦力と成り得ないことを証明しているようでアスカは苛立ちを募らせる。
「今更戦争をやっているつもりなのか」
口を挟んだのはギイハルトであった。
非戦闘員を作戦に参加させることに肯定的ともとれる彼の言葉に、イリスは眉を顰める。
「私は軍人であり、彼らも騎士を名乗っている。ならばこれは正規戦です。皆さんは民間人であり、戦わせるわけにはいかないのです」
「敵が、その民間人に対して非道を働いたとしても?」
非道を受けたアスカが言うからこそ、その言葉には感情的正当性がある。
復讐は法律上の倫理観を時に簡単に覆す。それがイリスには受け入れ難いのだ。
「確かに敵が手段を問わない中で自分ばかりが綺麗事を並べるなんて、あまりにバカバカしいことです。ましてやこちらが特別優勢というわけでもないのに」
「ならお前さんは何を問題にしてんだよ。さっきから聞いてれば、面倒くさいことばっか考えやがって」
ギイハルトはうんざりだ、と言わんばかりに髪をかきむしる。
「民間人を戦線に投入した場合、敵が民間人を無差別に敵兵として攻撃目標に含めてしまうことを問題にしているのか? そりゃあ今更すぎねぇか、アイツらはもう民間人殺しまくってるぜ?」
これが本当に国家間の戦争であるならば、イリスの言葉にギイハルトも納得し得た。
技術力の割に航空戦力が発達し、軍隊が専門的になったこの異世界。情勢が逼迫しているならばいざ知らず、勝ち戦である限り民間人の戦線投入は被害が多方面において増大するデメリットの方が大きい。
しかし現状はそうではない。イリスはこれを正規戦と称したが、清奏派は国家承認すらされていない、軍隊としても無茶苦茶なテロリスト集団。民間人も勘定に含まなければ、無用な被害が増えるばかりだ。
しかし、イリスの語るは被害の大小ではなかった。民に犠牲を強いてでも守らねばならない一線ともいえる部分であった。
「我々は職業軍人なのです」
誰かが―――おそらくは軍に所属する誰かが、息を呑んだ。
「子供の喧嘩ではない。そこに一兵卒が意見する余地はなく、一般人を参加させる道理もない。徴兵令が発令されているならばいざ知らず、ただの女子供が武器を持てばそれは単なるゲリラ兵でしかない。まして正規兵がゲリラ兵と共同戦線を張ろうなど巫山戯ているのですか」
国がゲリラを肯定し、作戦に組み込んだ事例は数多く存在する。年代を遡り、国家体制が未成熟であった時代こそその傾向は強い。
比較的安定している土の国でさえ、地球の国家群と比すれば十二分に前時代的だ。だからこそギイハルトのような正規軍人も、民間人を軍隊に組み込むことに抵抗を覚えはしない。
イリスの言葉はどこまでの論理的で、結局のところ異世界の常識を認めない感情的なものだった。
「人を殺せる武器を持っただけで、兵士になったつもりですか? 人を殺す覚悟を決めただけで、戦力に数えてもらえると思いましたか? ばかばかしい」
一般人を兵士に作り変えるには、多大な労力と時間を必要とする。
ましてイリスはかつて、ここではない世界において最も過酷な訓練を課す軍隊の、最も過酷な部類の試験をクリアしてきたのだ。
そこには意地がある。挟持がある。信念がある。異世界に生まれ変わった程度では揺るがない、盤石の生き様がある。
イリスは自分で決めたのだ。怖くとも、痛くとも、誰かのせいにしないと。
戦場に立つのは、誓約書にサインした人間だけであるべきなのだ。
「感情論で戦争をしていいはずがない。シビリアンコントロール以前の問題です。この原則を犯せば、軍人は殺人鬼に成り下がる」
イリスの言葉はどこまでも淡々としており、実感を伴っていた。
自分達の考えとはかけ離れた概念。だが言葉に秘められた重みはイリスという人間そのものの在り方であり、安易に否定することを許さない迫力があった。
部屋にいた者達は身震いした。異世界の自衛隊という戦闘組織における、歪で理不尽な状況下で鍛え上げられた思考を直視してしまった。
これを覆すのは並大抵のことではない。そう識ってしまったのだ。
部屋に沈黙が降りる。誰も口を開けなかった。
「なら、入隊すればいいんですの? サインでもなんでもしますわよ?」
1人、あえて空気を読まないお嬢様以外は。
「は?」
「私達も軍人になる。それでいいんですのよね?」
「ちょ、おま……」
後ろで慌てるククリを無視し、アスカはそう宣った。
イリスのみならず、ギイハルトやククリといった軍関係者すら唖然とする。軍隊の訓練は並大抵のものではなく、アスカのような見た目痩せ細った小娘が耐えられるものではないのだ。
「笑わせないで下さい。基礎訓練も行っていない貴女達が何の役に立つのです」
「誰だって最初から軍人ではない、その段階で否定されるのはフェアではありませんわ」
「今から訓練をしますか? 貴女なんて飯炊きにすら使えませんよ、衛生兵ならまあともかくとして」
「アーレイさん、でしたか?」
唐突に名前を出され、イリスは動揺する。
自身ですら予想外に、動揺してしまった。
「アーレイさんの命はあと4日、焦るのも当然ですわね。あと4日で我々が戦力となるとは考えにくい、なんだか言われれば言われるほど納得してしまいそうになりますわ」
「焦ってなど……納得したなら、引き下がりなさい」
「ですが、こういう時こそ焦るべきではないのでは? きっと普段の貴女なら、もっと冷静に考えられるでしょうに」
「っ、焦るに、焦るに決まっているだろ!」
思わず男性口調で、声を荒げてしまうイリス。
自分のおかしな状況に、更に困惑してしまう。
イリスは自身の感情が制御下から離れていることを感じつつ、それを止める術を知らなかった。
「す、すいません」
「……アーレイさんとは、どんな方なのです?」
答える義理はない、と沈黙するイリス。
下手に口を開けば、ボロが出る予感があった。
「アーレイ・バーグ。準騎士時代からそこの捻くれ者とずっと同室だった、蒼髪の女性だ」
「おい」
勝手にアーレイのプロフィールを暴露するギイハルトに、イリスは低い声で突っ込む。
イリスの視線など気にも留めず、ギイハルトは紹介を続ける。
「珍しい水竜の竜騎士でな。成績も優秀、品行方正、社交的で美人とイリス・ブライトウィルとは正反対の女性だ」
「イリスも美人で優秀」
「るせぇで御座いますよ」
いままで黙っていたソフィーの唐突な訂正に、ギイハルトは敬語で罵倒した。
「で、そのアーレイさんがどした」
ギイハルトの、というより男性の視線に怯むアスカだが、気丈に睨み返し答える。
「どうやら、清奏派に重要人物として捕まっているようですわ!」
「まじか」
「マジですわ」
「そうか。ところで、なんで俺は睨まれてんだ?」
「お気になさらず! 貴方が悪いわけではありませんわ」
「そうか。クソだな」
「クソですわ」
アスカは一呼吸の後、イリスを見据える。
「それにしても。こんなのが爛舞騎士? ……がっかりだわ」
つい漏れた本音。何ら他意のない、あまりに純粋な『感想』。
アスカは爛舞騎士を、絶対的存在だと考えていた。人類という枠組みにおいて最強の戦力であり、一人ひとりが一騎当千。味方ならば万の軍勢より頼もしく、敵に回れば絶望の象徴となる。
ところがどうだ、目の前で死にかけている少女は悩み、苦悩し、誤るただの人間でしかなかった。アスカという少女よりは遥かに強大かもしれないが、それだけだ。
爛舞騎士の過大評価は政府のプロパガンダも多分に影響している。彼等彼女等に求められるのは、戦力としての騎士だけではないのだ。
それを否定されるということは、実のところ―――イリスにとって、とても大きな問題であった。
「……なら、どうしろっていうんだよ。どーしろっつーんだ、ふざけんな!」
いきなり声を荒げたイリスに、皆が小さく飛び上がる。
『普段大人しい人間ほどキレたら怖い』なんて言葉があるが、まさにそれかもしれない。怒ることはあれど、イリスの言葉には常に冷静な部分が残っている。これほどイリスが感情を剥き出しにするなど誰も想像していなかったのだ。
「俺は自衛官だ! 一兵卒だ! なら戦うさ、民間人に頼るわけがないだろ! そこまで落ちぶれていると思うのか! 見くびるな!」
目端に涙を浮かべ、それでも怒鳴るイリス。
イリスはここまで追いつめられていたのかと、少女達は今更ながら気付いた。
「見返りも栄誉もいらない! ただ眼前の敵を駆逐するように教育されて、それを実行してきた! それの何が悪い! 素人が軍事に口を挟むな! やる気のある民間人なんて邪魔なだけなんだ! 敬礼の仕方も知らない人間が、戦場で何をしようっていうんだ! こちとら、操縦桿握った時から戦闘機の一番脆弱なパーツに成り果てる覚悟をしてるんだ! 訓練も欠かさなかった! 技術も発達させた! 戦術にだって口出しした! お前にあるのかよ! 覚悟が! 人を殺す覚悟が、自分を殺す覚悟が! 俺はある! この血は灯油だ、この神経は光ファイバーだ! それでいい、それだけでいい! 他の人間なんて敵であろうが味方であろうが知ったことか!」
「戦うと決めたのは私よ!」
間髪入れず怒鳴り返したのは、やはりアスカであった。
「私が自分で決めたの! 痛みも、この不安も、今この場でしている後悔も! 私のもの、この自分で嫌気がさすような弱さも―――貴女の勝手で奪わないで! 私は、私はアスカですわっ! それがアスカ・ロウ・トラクトスリアなんですわ!」
血を吐くような言い合い。
誰もが口を挟めぬ空気の中、ソフィーはマイペースにイリスの手を取った。
「私は貴女のファン」
いつもながらの唐突な告白に、イリスも毒気が抜かれかける。
「それはどうも」
「私は、イリスのファン」
再度繰り返すソフィー。まるで確かめるように、訴えるように。
その言葉は、イリスの心のどこかに確かに引っ掛かった。
ソフィーがイリスと同じ爛舞騎士だから、ではない。
「私は、ずっとイリスのファンだった」
ふと、何故か過ぎった一つの可能性をイリスは訊ねる。
「ソフィー、貴女は。貴女は、私のことを知っていたのですか?」
頷くソフィー。
「前々から? 私が爛舞騎士になる前から?」
また頷くソフィー。
「でも、会ったことなんてありませんよ。ありませんよね?」
「そうね、直接会ったことはないわ。けど知ってた。私は貴女に命を救われた」
「―――そういえば、そんなことを言っていましたね。レースで助けられた覚えはあるのですが、私からソフィーを助けたことはないと思うのですが」
「昔、スティレットから工学輪唱杖の制作依頼を受けたことがあったでしょう?」
そう言って、イリスは懐からペンダントを取り出してイリスに渡す。
「スティレット様とは色々お願いしたりされたりしていますから……これは?」
受け取り、すぐに気付く。
ペンダントは小さな工学輪唱杖であった。
「魔力駆動の発電機に鉛電池、容量から見て丸一日は駆動する工学輪唱杖ですね。術式は……これは、暗示魔法?」
どのような暗示が対象に掛けられるか、そこまで読み取ることはイリスにも出来ない。
「私は苦しかった。スティレットに引き取られてからもずっとずっと苦しんできた。この苦しみを消したくて魔法の研究をしてきたけど、それでも根本的解決策は存在しなかった」
何故、イリスより幼い少女が魔法の探求に生きてきたか。
その根源は、自身を苦しめる症状の解消―――それだけであった。
「私は飢えていた。白化汚染個体はエネルギーの供給を世界から受けるけれど、どうしようもない飢えを覚える。スティレットから教わった暗示魔法で誤魔化してきたけど、四六時中自分に暗示魔法を使い続けることは出来ない」
一時的な解消法があったとはいえ、強いられた不便は並大抵のものではなかった。
夜寝ている最中であっても、飢えに飛び起きることもあった。大規模な儀式を行っていても、集中しきれず魔法が破綻してしまうこともあった。
飢えなどという単純なデメリットは、ソフィーのあらゆる行動に制限を課していた。
「この技術を貴女が作り出していなければ、きっと私はおかしくなっていた。貴女は私を救ってくれた」
偶発的、突発的に、そして慢性的にわき起こる餓えの苦しみ。
頼みの暗示魔法も延々と発動し続けるわけではない。暗示魔法を修得する前よりはマシになったものの、それでも夜は眠れず、食事も食べては吐いていた。
そこで、スティレットはイリスに依頼したのだ。義娘を白化汚染個体の宿命から開放する為の工学輪唱杖を。
小型の、暗示魔法にて空腹を感じなくなるペンダント式工学輪唱杖。魔法だけでは決して実現しない、半機械式の自動稼働する装置。
それ以来、イリスの生活は劇的に改善された。反動でまったく食事をしなくなってしまったが、彼女を縛っていた鎖はあっさりと解き放たれたのだ。
それ以来、そう……ソフィアージュは、イリスのファンであり続けたのだ。
「ああ……そっか」
そうだ、とイリスは思い出す。
かつて感じたデジャブ。確かにかつて、暗示魔法についてしっかりと学んだことがある。
このペンダントにも見覚えがある。刻まれた翼のレリーフなど、イリスのデザインに他ならない。
確かにソフィーはイリスを知っていたのだ。そして、イリスもまたソフィーを知っていたのだ。
「で、でもこれを制作したのはお祖父様ですよ、私は設計図を引いただけです」
だから感謝される筋合いはない、と主張するイリスに、ソフィーはしかし首を横に振る。
「そもそも貴女がいなければ、工学輪唱杖という技術自体が生じなかった」
ソフィーはそっと、触れるか触れないかの強さでイリスを抱き締める。
「貴女が私に翼をくれた。どこまでも飛んでいける翼を。だから、だからずっと言いたかった」
少しだけ離れ、ソフィーはイリスを見据える。
気恥ずかしさすら無粋なほどの、どこまでも真摯な眼差し。こんな状況で、イリスは思う。
なんて綺麗な瞳なのだろう、と。
「ありがとう。ありがとう、イリス」
「あっ、あ……」
自然と、イリスの目から涙が溢れた。
イリスという個人を知らなかったはずのソフィーが、それでもイリスを見ていたのだ。
それが堪らなく、イリスにとって救い足り得た。
「私は、私も、ずっと……ちゃんと爛舞騎士として英雄でいなくては、って。人々の希望でなくてはならない、って、ずっと」
絞り出すように告げる、イリスの呪縛。
「父上みたいな立派な爛舞騎士にならないと、って」
「……おばかだね、イリスは」
ソフィーは微笑み、イリスの頭を撫でた。
「私は恩を返す。私は爛舞騎士だから、それが私の爛舞騎士だから」
「そっか、そうですね。おばかです」
誰も、今まで誰一人としてイリスに英雄たれと要求などしていないのだ。
爛舞騎士は人によって違う、違ってもいい。
そんなことに、ようやく気付いたイリスであった。
「今日から僕達はライバルだ!」
「そうなの?」
「僕らは、実のところ似たもの同士だったのかもな―――」
「そうなの?」
「覚えておくといい。その場所は、かつて僕が通過した途中経過でしかないと」
「そうなの?」
「ごめん、ちょっと見栄張ったよ」
「そうなの……」
頭痛を醸しそうな会話を繰り広げるククリとソフィー。
イリスがそれなりに落ち着いた頃合いを見計らって、ククリはソフィーにライバル宣言を放った。
そして次の標的として、イリスを指差す。
「うわぁお鉢が回って来ました」
「いよいよ僕の正体を明かす時がきたようだ。刮目せよ、清聴せよ。イリス・ブライトウィル!」
「はぁ」
「僕は、かつて君が人攫いから救い出したエルフの女の子、その人なんだ!」
渾身の告白を、イリスは生暖かい目で受け入れた。
「はいはい。私はもう大丈夫ですから、別に無理しなくてもいいですよ、ククリ」
「二番煎じで信じて貰えない!?」
固定観念とは恐ろしいものであり、イリスの中ではククリは完全に男性扱いであった。
「くっ、こうなったら! イリス、僕と子供を作ろう!」
「貞操の危機!?」
かちゃかちゃとズボンを脱ぎ出すククリ。片足のないイリスに逃げる術はない。
彼女は戦慄した。なるほど男性に襲われるのは恐ろしい、色々無神経なこと言ってごめんなさいアスカさん。
「重体なのですわよ、お止めなさい!」
イリスに飛びかかろうとしたククリを、力ずくで引き剥がすアスカ。
「た、助かりました。でも男性でもククリは平気なのですね」
「貴女は貴女で反省ですわ!」
この世は理不尽で満ちているのだな、と再確認するイリスである。
「―――助けられた身にもなってよ。わた、僕だってイリスのファンなんだよ?」
床に転がったククリが、天井を見上げ呟く。
「人の気も知らないで、勝手に僕の恋を否定しないでよ」
「お気持ちは嬉しいですが、せめて手順を踏んで下さい。まずはお友達からでしょう?」
「友達扱いですらなかった!?」
ククリは泣いた。
「ふふっ、あははっ」
「笑わないでよ、ひどい」
「すいません。そうではなくて」
心の重石が取れたと思えば、急に笑いがこみ上げてきた。
「私はバカですね、本当に」
「今更」
ギイハルトが皮肉げに嘲笑うが、そんなことも気にならない。
イリスは本当に今更、気付かされた気分であった。
ドラゴンだって飛行機だって、一人で飛ばせるものではないというのに。
一人で飛べないことなんて、ずっと前から知っていたはずなのに。
知っていたはずなのに、一人で戦えないことすら、わかっていなかった。
イリスは決意する。思い上がりは捨てよう。ここにいるのは、ただのイリス・ブライトウィルなのだから、と。
「皆さん。色々迷惑をかけてしまって、こんなことを頼むのも虫のいい話ですが。私にもう一度力を―――いいえ」
これではダメだ、と言い方を改める。
「私と一緒に、戦って下さい」




