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二十一世紀頼光四天王!

本日源頼光四天王厄日につき。

作者: 正井舞

「なんだって京都。」

ちゃっかり湯豆腐なんぞ堪能している渡辺綱だが、一見さんお断りの料亭でラフに座している。携帯電話のフリップを跳ね上げ、やっと三人とも京都入りを果たしたことを知る。

さて行きますか。

「もうお発ちどすか、綱のにいはん?」

「ご馳走様。また来ます。」

「たまにはぶぶ、ご一緒したいもんやわ。」

女将が渡してくれた長物の包みをしっかりと手の中に、微かな感触を確かめる。



「だからおめーとの旅路はやなんだよ!」

「はっ。ほっといたらライオン丸になってるくせによく言うぜ!」

説明しよう、ライオン丸とは昭和ヒーローの一人である。その名の通り獅子を模した仮面で戦う。坂田金時は放っておくと足柄山辺りで延々と熊と戯れたりして髪も髭も伸びっぱなしになって金色のライオン丸と化す。

「あれ、貞光こそ荷物は?」

「宅配で本家に送ってやった。つっても必要かどうかは上次第だが。」



「頼光君、前触れくらい寄越して下さいよ。」

バニラシェイクはずごごごと凄まじい音を立てているが、季武も頼光も気にした様子はない。東名から名神、そしてその源家所有のリムジンは現在京都の混み合った街中を走り抜け、渋滞に嵌った。ここでいい、と頼光は車を降りて、足音静かについてくる季武に語る。傍から見て不審者に見えやし無いかしら、と季武は考えた。

「さて、綱、金時、貞光は既に揃っているよ、季武。」

「その名前で呼ばないでくれませんか。」

「何故?」

「どうも、血肉が湧き踊るとでも言いましょうか。頼光様。」

こきん、と季武の右腕の関節が鳴る。



春霞 土蜘蛛がイマに 蘇りにけり。


頭痛と高熱に浮かされそろそろ一ヶ月になる。頼光が記している日記は蚯蚓がのたくったようで、ベッドに戻れ、と貞光が金時に指示して運ばせた。

そろそろこの繰り返しも四人は疲れており、季武は先日体力をやられて寝込んだ。綱も隣室で医師と待機しているが、おそらくは瘧病に近かろう、と聞いてからは鬼斬りを抱えるようにして頼光の部屋の隅に蹲っていた。

「お前たち、休みなさい。」

高熱に赤く腫れた目元を微かに細めて頼光が慈愛で微笑む。

「・・・そんなっ!」

「いい、金時。さだ。寝よ。」

刀を持つ手は下げたまま、しかし凛と背筋を伸ばして顎を引いた綺麗な姿勢で、寝台にいる頼光を静かに綱は見下ろした。

「綱・・・。」

「頼光、薬は?このまま眠る?」

跪くように腰を下ろした綱は投げ出されてあった頼光の左手の甲に額を当て、包んだ自分の指越し、敬虔にくちびるを当てた。

「行くぞ。」

「あ、ああ。」

貞光の声に金時は少々のほど戸惑ったようだが、そのまま豪奢な広い部屋を出て行った。

「みつ?ちゃんと眠って。俺が隣にいる。」

「・・・綱が、しおらしい。」

ふふ、と静かに笑った頼光の汗ばむ額に頬に冷やしたタオルを当ててやり、おやすみ、と囁くように髪の狭間に秀でる額にくちびるを落とされると、す、っと頼光の瞼が落ちた。

部屋の灯りを蝋燭の一本にするのは昔からの咒で、九十九神にでも近いのではなかろうか、源の家が懇意にしている和蝋燭屋の蝋燭は綺麗なだけでなく、何かがあれば教えてくれる。電気はスイッチパネルを軽く指先で叩くと蝋燭の暖かい灯りが部屋を仄かに照らし、青ざめながらも赤い、頼光の横貌の足元に綱はまた鬼斬りを抱えて蹲った。

「・・・っ。」

蝋燭の灯りが急に暗くなり、身の丈は七尺はあるだろう法師の影が窓辺からずるずると這い出てくる。ここは一階では無い。綱はそのまま飛び退って、抜刀の構えに刀を腰にやる。法師の影は手に縄を扱いており、即座に綱は理解した。

「持って行くなら俺を殺してからだ。」

抜刀の構えからそのまま、ベルトに差した鞘で影を殴ればよろめいた。

「物理はオッケーっと!」

影を裂いた列撃は二波。

綱が軽やかに頭上から袈裟斬り、下段から逆袈裟は頼光の蜘蛛斬丸だ。部屋を劈く叫び声はこの世のもとのは思えぬほど、実際この世のもので無いのだろう、よたよたと立ち上がろうとする気配に、大型のマントルピースが飛んだ。窓硝子が弾け飛び、怪僧はそのまま吹き飛んだ。

「ざっまぁ!」

「頼光君に手を出すとは良い度胸です。」

「運が悪かったな。いやガチで。」

和蝋燭を設えてある燭台には黒い血が飛び散って、金時は裏庭に面する窓から飛び降りる。裏庭からてんてんとその黒い血痕は続き、穢れの浄めを本邸の使用人に任せると四人はそのまま刀を片手に、大鎌を肩に、職質されてもコスプレで済まされそうな装備で血痕を追った。

「やっぱりな。」

それを見つけて、粗方の検討もあったのだろう、貞光はその神域に足を踏み入れるなり血痕を探していた三人に、こっちだ、と急かした。

北野天満宮の裏にある古い塚は昔も昔、大昔。四尺もある山蜘蛛を捕まえ、頼光が怒り心頭の後に四条河原に晒した大蜘蛛だった。

「頼光君が僕達を集めた理由が解りました。」

嘆息気味に季武が述べた。金時は頭を掻いて、もう片手に綱の肩を叩いた。

「神楽岡・・・。」

よく覚えてる、と綱が辿った道筋は、途中で流石に刀も大鎌も仕舞った。山添桜の根元から、ぼこりぼこりと土を盛り上げているのは老婆や女の手。十二単の美女は怪談にもなっており、平日の深夜、少ない人通りに季武は経文を開き九字を切る。一気に開けた視界の奥に、七尺など可愛らしい大きさで無い多足の怪物が瘴気を吐いた。

「土蜘蛛、といったかな。」

朝敵のことを土蜘蛛と呼んだ古代の風土記は読破している彼等は、正真正銘の悪意の塊を前に、経典を、拳を、大鎌を、鬼斬りの刀を構えた。

「日本の怪物は便利でいいです。」

経典を読みながら季武が嗤った。

「かも、しんねーなぁ!」

正拳からの衝撃に、蜘蛛の脚が地面を抉りながら堪えきれず後ずさる。バキン、と折られた一本を貞光の鎌が弾いた。糸が繭のように繰り出されるが鬼斬り丸は簡単に切り裂いてしまった。

「二本目!」

「蜘蛛は蜘蛛でも情緒のカケラもねーなぁ。」

「なんかゆったか金太郎。」

「三本目折るから季武は下がれ!」

「お縋りします、不動明王!ノウマクサンマンダ、バザラダンセンダ。マカロシャ。ダソワタヤウン。タラタカンマン!」

火に巻かれて邪悪な呼び声が虚空にこだまし、錆びだらけの鎌を持った老婆は貞光に斬りかかるが、綱に真っ二つに斬り捨てられた。頬に飛び散った腐臭のする体液を乱暴に拭って視界の確保。順調に脚を落とし、関節から金時が折取り、完全に蜘蛛の体制が崩れた。飛翔する悪霊は季武の真言で霧散し、金時の腕を借りて高くまで身を踊らせた綱は落下に任せて呼吸を止めた。刀はこのまま蜘蛛の頭に。ちゃり、と腕に擦れた金色の腕輪が愛おしい。

「綱!」

重力の力をこのまま借りて、最初はその皮膚の独特の硬さに刃が震えたが、衝撃は綺麗に入った。喉元に先端が体液が滴る感触まで柄に伝わる。

「どうしたの、土蜘蛛?もう終わり?」

きしきしと最後の足掻きに脚が持ち上がる。その辺の悪鬼より余程美しい彼のうなじに、爪が光る脚先がゆっくりと。

「誰の許可を得て僕の綱に手を出そうというのかな?」

その一閃は残った脚を全て切り落とし斬り捨て、とん、と触れた肩の体温が常と変わらずあるのに綱は安堵する。

「さっすが頼光ーとでも言うと思ったか馬鹿野郎。」

「週末は都落ちして道後温泉でもと思っていたが、貞光は留守番だな。」

「あ、砥部焼体験したいです。」

「流石、季武は乙だ。金時は松山城でも見に行くかい?」

「無視してんなよ!」

貞光が新たに誂えたのは本当に死神のデスサイズのような大鎌で、蜘蛛斬丸が無ければ頼光の首は飛んでいるだろう。

「頼光、まだ病み上がりだろ。季武がちゃんとお祓いして帰る。さだと金時は頼光と一緒に帰って。」

「リョーカイ。」

「おぉ。」

大鎌を仕舞った貞光が、道後道後よし頑張れる、と自己催眠に近いことをやって、金時は何の屈託もなく笑う。季武は頼光が持ってきた鞄から簡易に祭壇と経文を出して、灯りを灯して美しい柏手が響く。

「ねえ、綱?」

「何?病み上がりなんだからさっさと帰って寝ろください。」

「次はいつ、みつと呼んでくれるかな?」

「ご希望とあらば、二度と呼んでやらないよ。」

さっさと帰れ、とばかりに綱が手を振り、金時と貞光に両脇を固められた若い主君は、しょうがないな、とばかりに嘆息。またね、と艶目かしく微笑んで、近くまで来てあったリムジンに乗り込んだ。

「終わりました。帰りましょう、綱先輩。」

「うん?早いね。」

「言ったでしょう?日本の怪物は便利なんです。」

「便利?」

「滅せずとも封印した記録があります。大概の幽霊なら経文でサヨナラ出来ます。この国は誠に素晴らしい。」

「・・・さようか?」

「さようです。」

帰りましょう、と今度は季武に先を歩かれる形で綱は歩き出した。

背後には葉桜が静かに静かに昔と変わらぬ魔都をうつくしく彩って、土蜘蛛が掘った跡地を桜吹雪で綺麗に隠した。



終わり。


〜ふんわり設定。〜


渡辺綱

刀は諸説あるが鬼斬り丸をここでは採用。

生粋のお侍さん。

京都の町は好きだよ。都も好きだよ。

あの上司じゃ無かったらもっと好きだよ!!

そこそこ偏差値の高い都内の高校在籍。


碓井貞光

古今東西の宗教から地学、人体研究まで。武器は大鎌。

基本金太郎のお守り役。

温泉好き。都も好き。

だから上司スパ作って!!

進学校在籍。


坂田金時

素手。怪力。

三度の飯と大自然と親孝行が生き甲斐。

八幡さんがいると聞いては徒歩で尋ねてライオン丸になって帰ってくる。

その度綱に叱られ貞光に手入れされる。

上司、俺もうガキじゃないから!!

都内の大学一年目に在籍。


卜部季武

得意技はいいくるめ。弓は今生では修行してない。

色んな能や神楽に登場するくせ影が薄い。のはもう今生になって諦めた。

都?大好きですよ。渦巻く歴史とか浪漫じゃないですか。

上司が違うひとだったらよかったのにと悩んで16年目に入ろうとしている。

そこそこ偏差値の高い都内の高校在籍。今生では綱の後輩。


源頼光

蜘蛛斬丸所持。

基本情に厚い上司だったが何があってこうなった?

綱に対する信頼が尋常じゃない。

綱がツンデレになってて可愛い。スパは東京じゃダメ?金時は金太郎のほうが知名度高いだろ?神の采配に文句言わない。

京都の大学に在籍。日本史研究においてチート。

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