敵、記憶、アイツ
結局そのあと、寝るために先ほどまで着ていた服に着替えた。
そして俺たちは向き合う形でそれぞれのベッドに座った。
「なあカケル。聞きたいことがあるんだけど・・・、敵は夜行性なのか?」
「そんなの事はないけど、何で?」
「だって桜ちゃんが言ってたじゃん。危ないって」
「ああ、それは夜行性だからじゃなくて、敵の性質上夜が危ないからだよ」
俺が首を傾げると、カケルはため息をついた。
「あのさ、俺知らないんだけど。それなのにため息つくなよ」
「ごめんごめん。あのね、敵は影なんだよ。心の中に潜んでる闇だとか、嫌な記憶の塊だったり。だから影でできてる」
「なるほど、朝だと日影にいなくちゃいけないからか。でも夜はどこにいても影の中。・・・へぇ、なるほどな。じゃあ懐中電灯もってけばいちころジャン」
「それができたら苦労しないよ・・・。奴らは影に隠れるんだ。だから懐中電灯で照らすなんてできない。できたとしても一瞬でそこから消えちゃうもん」
「じゃあ戦えないじゃないか。何のためにこの時計もらったんだよ」
「戦うためだよ。奴らは僕たちみたいな少しでも光を持ったものを食べる。だからその武器で来たところを倒す」
「じゃあおとり作戦なの?」
「うん。あたりまえでしょ?」
カケルは笑顔でそういうが、そんなのまっぴらごめんだ。
だってもし失敗したら、そこで俺の命は本当に終わってしまう。
まあ自殺して死にきれない人のはずだから喜ぶのかもしれないが、俺はそのことを覚えていない。
だから絶対死にたくない。生きてもう一度世界を見たい。
もう一度、”あいつ”を思い出してやりたい。
もう一度、自分を思い出したい。
「マコ。明日から君の影を追うけど、良いよね?」
「ああ。俺何も知らないから、頼むぜ相棒!」
「相棒?僕が?君の?」
「あ、嫌か?悪ィ」
「ううん、全然。こちらこそよろしくね。相棒さん」
カケルはそう笑うと、俺の方に右手を突き出してきた。
だから俺は自分の右手でその手を握った。
そのとたんまた何かを思い出した。
『ヒッドイ奴らだな。言い返さないのか?』
『ムリだよ。僕は彼らより弱いし、それに普通と違うもん』
『でもそれは―のばあさんからの遺伝だろ?それなのに・・・!』
『いいんだよ。仕方ないし。僕は大丈夫だからさ、木霊君は向こう行きなよ。じゃなきゃ君まで―――られちゃうよ』
『俺は別に平気さ。それよりもお前が心配だ』
『木霊君僕の保護者じゃないんだから・・・。でも本当に大丈夫。心配してくれてありがとう。もういいから、じゃあね』
そう言いながら俺の差し出した手を離す誰か。
その時のあいつの顔はどんなだったんだろうか。
泣いていたんだろうか。それとも笑っていたんだろうか。
それとも今のカケルと同じように、悲し気に笑っていたんだろうか。
俺はカケルの顔を見ながら、そんなことを考えた。