プロローグ
―これはどこにでもいるようないじめられている少年の話。
―そして心の成長の話でもある。
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「君、大丈夫?」
俺はそんな一声で瞼を開けた。
すると目の前にいたのは、銀色の髪で人懐っこい顔つきの青年だった。
パッと見俺と同い年に見えるが人は見かけによらないというもの。まだわからない。
「ねぇ、君に言ってるんだけど?返事くらいはしてくれないかな」
青年がそういうものだから俺は思わず後ろを見た。しかし後ろには誰もいない。
恐る恐る自分を指さすと、青年は笑顔でうなずいた。
(嗚呼、これが女の子だったらどんなによかったか…。)
ふとそんなことを思って、黙りこくってしまった。
しかしあまりにも黙っているのも変なので俺は口を開いた。
「あんたは誰だ?そしてここは何処だ?なんで俺はここにいる?」
「一気に聞かないでよ。…まず僕はこの世界の管理者であり、同時にガイドみたいな役割のカケル」
カケルと名乗った青年はまた笑顔になった。よく笑うやつだ、と思った。
「次に、ここは君達の世界。そしてなぜ君がここにいるかというと、君は今あっちでいう生と死の間を彷徨っているから」
「は?なんだそれ。だって俺はこうやって生きてるぞ?」
「違う違う。君はある意味死んでるよ。自分の足元を見てごらん」
俺はカケルの言う通りに足元を見た。すると影が…なかった。
どこを探してもない。
某映画の空飛ぶ少年になった気分だった。
「…なんで…なんで影がなくなったんだ?」
「ん?それは影が勝手に三途の川ってやつを渡ろうとしているからさ」
「どうして?」
「どうしてって…そりゃあ死にたがってるからだよ。だってここは自殺をしても死にきれず、生と死の間を行き来することになった人が来るところだからね」
「じ、じゃあ俺も…自殺したのか?」
「死んでないから未遂だけどね。まあ今の君の状態を見せると…」
カケルはそういいながらポケットの中から小さなクリスタルを取り出した。
するとクリスタルが発光し、映像が映し出された。
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映像の場所は病院の個室で、そこのベッドの一つには俺が眠っている。
そしてその隣には両親と思われる男性と女性。そして栗色の髪の青年。
やがて女性が泣き崩れた。
『アアアアアアァァァァァァ!!!!!木霊ァァァァ!!!!お願い起きて頂戴!!!!!!木霊ァ!!!!』
そんな女性のことをなだめる男性。そしてなぜか謝る青年。
そこで映像は消えた。
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記憶がない俺は動揺していた。
どう思えばいいかわからない。
涙も出てこない。
ただ…ただ胸が痛かった。
「補足すると、君は行き過ぎたいじめにあっていた。下駄箱には泥だらけの靴と虫や蛙の死がい。物がなくなるのは日常茶飯事。…そしてついに君は友達にも見捨てられた。それで心を痛めた君は自殺を決意し、遺書も書いた。しかし…」
「死にきれずここに来た…」
「そう。そんな君にこんなこと言うのもあれだけど…。君には過去を克服して生きてほしい。ここはそのための世界なんだ」
カケルは申し訳なさそうに言うと、そのあとに無理にとは言わない、と付け足した。
3/15 打ち間違いを訂正しました。