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落ち着かない時、部屋の掃除が捗ってしまうのは俺だけじゃないと思う。もう何回も直した机の上の小物の配置とか、座布団の位置とか。まるで座標を一コンマ単位で修正するかのような測量も、浮足立つ心を鎮めるためには必要な儀式だ。
そう。今日はついに芽依が帰ってくる日である。俺の気持ち、俺の道筋は決まっている。でも、それが芽依に受け入れてもらえるのかはわからない。わからないけど、受け入れて欲しい。同じ道を、歩みたい――。
ガチャ、と鍵の開く音がした。バドミントンをやっている時以上の反応速度で、俺は玄関に駆け寄った。
「ただいま。……お兄ちゃん」
一見した限りでは、普段通りのあっけらかんとした芽依。お兄ちゃん、と言う瞬間苦しそうな顔をしたような気がしたのは、俺の希望的観測なのかもしれない。でも、希望でも何でもいい。今は大きな瞳で俺の目を覗き込む芽依が、ただただ愛おしい。もう一度、好きになって欲しい!
「っ! ダメだよ、お兄ちゃん」
気持ちが溢れた。もう、抑えきれない。芽依にも知って欲しい。共有したい。芽依も、同じ気持ちであって欲しい。気づいたら、芽依を俺の腕の中へと抱え込んでいた。
「芽依、好きだ。好きなんだ」
「言ったでしょ。次会った時はただの兄妹だって」
「芽依」
どれくらいの間、抱きしめていたのかはわからない。それはとても長い時間のようで、でも離れたくなくて。芽依も振りほどこうとはしないが、何も言わない。止まった時間の中で、二人分の鼓動だけが鳴り響く。芽依の心音が俺よりも早く感じた刹那、芽依がもぞもぞと動いた。
「ダメだよ……央芽」
背中に回される細い腕。頼りないけど、その温もりは確かに感じる。俺が腕に力を入れると、芽依も負けじと強く抱きついてくる。夏場で熱いはずなのに、不思議と暖かい。暖かさが心地良い。落ち着く。心がざわめく。もっと。もっと。芽依と一つになりたい。
「央芽……いいよ」
涙を流して微笑む芽依は、とても美しかった。その唇に吸い寄せられるのは、必然だ。
久しぶりのキス。最後にしたのはいつだっただろう。色々ありすぎてわからない。でも、簡単なことだったんだ。こんなにも一つになることが心地良くて、心の奥底が波打つのだ。俺だけではない。芽依の同じ気持ちも流れ込んでくる。これが愛でなくて、何が愛だというのか。例え血が繋がっていようと、兄妹だろうと、一人の男と女として出逢い、惹かれ、結ばれたのだ。それってとても美しく、抗いがたいことじゃないか。世間だの、常識だので引き裂くことなんてできない。そんなもの、全部俺たちなら受け入れられる。その覚悟ができている。今まで散々悩んで距離まで置いたけど、そんなのは全部、キス一つで答えが出てしまうものだった。それだけ、強い想いだったのだ。
芽依の手が背中をなぞる。俺の手も、芽依の背中をなぞる。首筋から背中へと、滑らかな曲線を丹念になぞる。芽依の口から息が漏れる度、俺の気持ちがどんどん昂る。抑えられない。抑えきれない。もう、抑えなくていい。背中までで止めていた手を、さらに魅惑的な曲線へと滑らせる。もっと触りたい。もっと触って欲しい。ショートパンツから伸びる白い肌を撫でると、今までの比ではない声が芽依から溢れ出した。思わず顔を離すと、耳まで真っ赤に染まった芽依に胸からお腹を撫でられた。くすぐったいはずが、いつの間にか気持ちいい。更に芽依の手が、シャツの下に潜り込む。
「んっ……芽依、もう我慢できない」
「私も」
芽依は手を休めることなく――むしろより大胆に攻めてくる。俺も、芽依の胸へと手を伸ばす。柔らかい。お尻とはまた違った柔らかさで、手が離せなくなる。
「ねえ央芽。直接、触って」
そう言って芽依は、俺の手をシャツの下へと誘い込む。今まで抑えていた分、タガが外れた芽依はとても積極的で、俺の方が腰砕けになってしまいそうだ。何とか年上の威厳を保とうと威勢よく手を滑り込ませたが、予想外の固い感触に思わず固まってしまった。
「あれ、いつの間にホック外したんだ?」
「央芽の手を差し込む前にね。ねえ、もっと触って。取り返しのつかないくらい、央芽の全部でめちゃくちゃにして。お願い」
「芽依……!」
***
「んっ」
芽依のくぐもった声で目が覚めた。あれ、いつの間に寝ちゃってたんだろう。横を見ると、同じ布団にくるまった芽依が、俺の腕に顔を埋めている。布団の外に散乱した二人分の衣服やティッシュの塊を片付けなくては。……まあ、いっか。今はもう少しだけ、芽依の体温を感じていたい。せめて芽依が起きるまで、もう少し――




