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お久しぶりです。epsode2完結から大変長らくお待たせ致しました。
今日から連載を再開します。完結までもう少しお付き合いください。
実家で母さんに自分の出生について重大なことを打ち明けられ、俺も、芽依も、兄ちゃんも姉ちゃんも、突然のことに言葉が出なかった。俺が由美姉の子供。従姉ではなく、母親。今まで両親だと思っていた二人は、遠縁の親戚でしかなくて、芳克さんは父親で、真知ちゃんは妹で。そして、芽依は妹で。俺は妹が欲しかった。芽依は兄が欲しかった。よくよく考えたらその願望が真に叶ったことになるのだが、とても祝福する気にはなれなかった。
「由美が央芽を身篭ったのは、高校二年の時。相手は芳克さんよ。由美は誰にも……芳克さんにすら秘密に出産するつもりだったみたいだけど、二人の子を産んで数年だった私は、妊娠の兆候に気づいちゃった。最初は堕ろすよう説得してたんだけど、由美は『絶対に産む。でも芳克さんには言わないで』の一点張りで。そのおかげで、あなたが今ここにいるの」
母さんに、誰も口を挟まない。挟めない。
「今までこのことは、私とお父さん、由美の三人だけの秘密だったの。でも、由美がついに芳克さんに話す決心をしたみたいで、それであなたたちにも話すことになったのよ。どうしても自分の口から央芽に言い出す勇気はなかったみたいでね。でも何で今更……」
母さんの言う通り、何故今なのだろうか。大学一年の夏休み。中途半端もいいところだ。芽依はこの事実をどう捉えているのか。それが気になって横を見たが、芽依はこちらに振り返ってはくれなかった。
「つまり、央芽は私のお兄ちゃんってことなんですね。ビックリしましたよ」
母さんの方を向いているので、芽依の表情はわからない。しかし、声はいつも通り、あっけらかんとしていた。まるで、血の繋がりなど俺たちの関係性に何ら変わりはないと言わんばかりに。そう、自分に言い聞かせたかったのかもしれない。
「央芽、大丈夫?」
ふと顔を上げると、母さんが心配そうにこちらを見ていた。母さんの瞳には、憔悴した大丈夫じゃなさそうな男の顔が写っていた。
「大丈夫……じゃないかも。突然過ぎて、全然理解が追い付かないや」
しかし、口とは裏腹に内心では腑に落ちている自分もいる。どうして今まで全然会えなかったのか。春先の母さんと由実姉の意味深なやり取り。ゴールデンウィークに芽依の実家へ帰省した時の由実姉の反応。そういうことだったのか。
事実は整理出来ている。でも、気持ちが追い付かない。芽依への想いは、決して妹には収まりきらないものだ。それはもう分かっている。分かり過ぎている。痛感している。正直、実の妹だと知った今も、好きな気持ちは変わらない。でも、この気持ちは世間に受け入れられるものではない。なくなってしまった。俺は芽依のことをこのまま好きでいてもいいのだろうか?
「まあ央芽も突然のことでショックも大きいだろうが、俺たちが央芽のことを実の息子同然に思っていることは変わらない。変に気負わなくても、今まで通りでいいんだからな」
父さんの言葉が嬉しくて、痛い。今まで通りでいたい。芽依とこれからもずっと一番近い距離に居たい。でも、芽依はどうなんだろう。そういえば、さっきから一向に目が合わない。
結局、あれから実家でも、帰りの新幹線でもろくに言葉を交わすことはなかった。芽依の気持ちを訊きたい反面、訊くのが怖かった。当然、交際のことは誰にも言えなかった。
本日より毎週水曜日20時に更新します。お楽しみに。




