第3話:綺麗なフォームですね
バンッッ!!
気持ちのいい音がミットから響く。
俺は今ピッチング練習中だ。
「ナイスボールです。晃」
「へへっ〜、今日も絶好調だぜ」
と言いながら、次の投球に移る。
バンッッ!!
小学生とは思えない速球がまたミットに収まる。
(つぅ〜〜!! あいかわらずすごい速球ですね。110後半から120キロは確実に
出ています。本当、小学生の球じゃないですよ……。しかし、晃はきれいなフォームで
投げますね。ワンインドアップから投げられる彼の美しいフォームは全国の投手の
お手本と言っていいほどだ。それに加え、恵まれた体のつくりである。晃は柔軟でムチ
のようにしなる腕、がっちりとした足腰、本当に天性の賜物である。
晃の才能がうらやましいです……)
「おーいっ! どうしたんだ? 早くボール返せよ〜」
ボーっとしている翔太に声を掛ける。
何やってんだ翔太?
(おっと……。僕としたことが考えすぎましたね)
「はーい。すみません、ちょっと考え事してました」
「珍しいな。翔太が練習中に考え事なんて」
「いえ、あいかわらずすごい速球を投げるんだなと思いまして」
ニッコリと笑いながらボールを返す。
「そうか? 俺はそんな風に感じないだけどな」
うーん……。周りに比較する奴もいないし、第一に他の小学生のピッチングを見たこと
ないから自分がすごいなんて思ったこともない。まあ、テレビでやってる野球中継のプロ
野球選手とは月とスッポンの差だとは感じる。
「晃はすごいですよ。晃がいれば全国大会も夢ではないです」
「へへっ……。ありがと」
晃は指で鼻をかきながら照れた。
「よし! 翔太にほめてもらったところで練習を再開するか!」
晃は気合を入れなおし、ピッチング練習を再開する。
「そうですね」
きれいな青空の下、再び気持ちいいミットの音が響く。