ケース5~天然系外国人~
我が家のお隣さんにカミーユという名の外国人がいる。
彼は西洋系の整った顔立ちと、朗らかな性格で近所の奥様方に大変人気がある。
勿論、うちの母も彼にご執心だ。
外人なんて非凡も良いトコなんだけど、彼の前で態度を悪くすると母が怒るから会った時は仕方なく相手をしている。
……………。
まぁね!そりゃね!最近の人間関係からしたら人種程度でと思わなくもないけどね!?
っあーもう、放っといて!!
とにかく、そのカミーユなんだけど……。
彼は今なぜか我が家にいる。
さらに言うと、私と彼、二人きりである。
えー、早々ネタバレすると、両親が二人で旅行に行ってしまいまして、女子高生が一人で家にいるのは危ないってんで母が彼を引っ張ってきたんですよ。
ていうか、その場合カミーユに私が襲われる可能性は考えてくれないのですか、母よ。
……あ〜、うん。言ったら鼻で笑われそうだ。
むしろ、逆の可能性の方が高いとか言って注意されそうだ。失敬な。
「ごちそうサマでシタ。とても美味しかったデス。
マイさんは良いオヨメサンになりマスね。」
「お粗末様です。
あぁ、片づけはしなくて良いですよ。
それより先にお風呂入っちゃってください。」
「そうデスか?それではお言葉に甘えまス。」
しっかし、もう何年も日本に住んでるくせに一向に外人訛りが抜けてないのってどうなのよ。
などと、至極どうでもいいことを考えながら私は食器を洗う。
最後の皿をカゴに入れ、タオルで濡れた手を拭っていてふと気付いた。
あ〜、バスタオル出してあげてないや。
ラブコメみたいな展開は遠慮したいので、とりあえず脱衣所の前で耳をすましてみる。
うん、シャワーの音がするし、今なら大丈夫でしょ。
脱衣所の中に入って戸棚からバスタオルを出し、風呂場にいるカミーユに声をかけながら脱衣カゴにそれを持っていく。
「カミーユさーん、バスタオル着替えのトコに置いておき…ま……ぎゃぁぁあああッ!!」
そこでとんでもないものを見て、私は思わず絶叫してしまった。
その声に反応してバタン!と大きな音を立てて緑色の生物が風呂場から姿を現す。
脱衣カゴの中には、着替えと一緒にまるで脱皮でもしたかのようなカミーユそっくりの抜け殻があった…。
「……ええ~っと、要するに。
カミーユさんは宇宙人で、果てしなく遠い上に宇宙規模で見るとそう文明も発展していない辺境の地である地球くんだりまでわざわざ個人で調査をしに来た物好きな学者さん、と。」
「そうデス。」
再びカミーユの皮を被った宇宙人は神妙な顔で頷いた。
「……せめて地球内で完結して欲しかった。」
「へ?」
「あ、すみません。こっちの話です。」
「それよりマイさん、コンな犯罪の片棒を担がセルようナ事を頼むノハ大変申し訳ナイのデスが……。」
「えっ!?ななな何でしょう!」
「未開発の原始惑星の住民に正体を知らレルことは軽犯罪に指定さレテいマシて、ソレが政府に露見スルと私はココでの活動を禁止さレテしまうんデス。
だカラどうか、私の事につイテは黙ってイテ貰えナイでショウか。」
「あぁ。何だ、そんなことですか。頼まれなくても誰にも言いませんよ。
電波扱いされるのも、精神病を疑われるのも嫌ですもん。」
「そ、そうデスか……。いや、アリがトウございマス。
私マダマダこの星で調べタイこと沢山ありマス。嬉しいデス。」
お礼を言って、カミーユは満面の笑みを浮かべた。
あ、ちなみにカミーユの皮は彼の星にある一般的な変身キットであって、人間を襲って入れ替わったとかそういう事実は無いらしい。
その皮を被るだけで内臓器官の隅々まで人間になれるそうだ。
宇宙道具スゲェ。
そして、その日以降カミーユはしょっちゅう私を訪ねて来ては、自分の故郷についてベラベラと語ってくるようになった。
いやまぁ。今まで誰にも言えなかった反動なのかもしれないし、そこは別にいいんだけどさ……。
母の「カミーユ、舞と結婚して私の息子になって~」なんて冗談に微妙に乗り気みたいな態度なのが非っ常~に気になるんですが?
そこの宇宙人、自重しろっ!!