ケース4~気さくな養護教諭~
放課後、私はめずらしく保健室にいた。
だからと言って、体調が悪いわけじゃあない。保健委員の仕事だ。
「坂下先生。消毒液の入れ替え終わったので、各教室に配ってきますね。」
「おー、すまん。
いやぁ、遠坂は真面目に仕事をしてくれるから助かるな。」
「いえいえ、当たり前のことをしているまでですから。
じゃ、行ってきます。」
はぁ~、久しぶりの平穏。
ジャンケン負けて一人で手伝いさせられてるけど、逆にラッキーだったわ。
このところ、教室では田崎が休み時間の度に話しかけて来て疲れるし。
昼休みは生徒会の仕事(ていうか、むしろ会長の相手)がキツイし。
部活ではほとんどスルーで対処してるとは言え植原くんが鬱陶しいし。
……で、まともな学校生活を送れていなかったのよねぇ。
やっぱり、普通って素晴らしい。ビバ、平凡。ノット、非凡。
ご機嫌で保健室に帰ってくると、先生にお客さん?が来ていた。
と、思ったらそのお客さんが一瞬にして紙に変わって、先生がそれを懐に入れた。
「……っブルータス、お前もか!」
私は自分の運の無さを嘆いてその場に崩れ落ちた。
なんで、私ばっかりこんな場面に遭遇しなきゃならないんですかぁ!?
私の青い鳥はどこですかぁ!?
そして、ようやく私の存在に気がつく坂下先生。
にぶっ!先生にぶっ!
「げっ!遠坂、戻ってたのか!
ってことは……今の見たか?」
「見てません。何も見てません。見ているわけがありません。
私はその他大勢に埋没してしまうことに至上の喜びを感じる平凡を誰より愛する女です。
そんな私が非日常な場面を目撃するなんて、あるわけが無いじゃないですか。
アイラブ平凡。ギブミー平凡。いやむしろ平凡が来い。」
「は?お、おい。…遠坂?大丈夫か?」
そう言って、先生は心配そうな顔になって私の額に手を置いた。
私はそれを間髪いれずに叩き落す。
「触らないで下さい。非凡がうつります。」
「非凡ってうつるもんなのか?」
「そうです。そうして、私の平凡な人生を脅かすのです。」
「ほー。まぁ、そんなことはどうでもいいわ。
ていうか、見たよな?」
「しつこいですよ、坂下先生。
何も見てないって言ってるじゃないですか。」
「貫くねぇ。
じゃ、その話しは置いといて。
ちょっと、この紙持っててくれ。」
返事をする前に強引に手の平に紙を乗せられる。
そして、次の瞬間。その紙は小さな馬に変化した。
「ひぃ!」
青ざめる私を前にニタリと笑った先生は、それは楽しそうにこう告げた。
「これで『見た』な?」
にぎゃぁぁぁ、嵌められたぁぁぁぁぁぁぁ!!!
「いやぁ、ちょうどそっち方面も手伝いが欲しいと思ってたところなんだよなぁ。」
「……そ、そっち方面て。」
「ん?あぁ、陰陽師だよ。陰陽師。悪霊とか妖怪とか退治するアレな。」
「あー!あー!聞こえない!聞こえないぃーッ!!」
とんでもない事を言い出した先生に、耳をふさいで必死に首をふる私。
それに対して何を思ったのか、先生はいきなり私の肩をガッシリと抱いてきた。
わーっ!セクハラだーーー!
「簡単な雑用してもらうだけだって。
いいから黙って付き合えよ、遠坂ぁ。」
「嫌です。お断りします。断固拒否します。」
「っあ~。担任にあることないこと報告しちまおうかなぁ~。
印象悪くなるだろうなぁ~。内申に響くかなぁ~。」
わーっ!パワハラだーーーー!!
「県に雇われてるような人間が脅しなんてして良いんですか!」
「バレなきゃ何したっていいんだよ。」
わーっ!最低だぁーーーーー!!!
結局押し切られて、私は平日だろうが休日だろうが事あるごとに先生の手伝いをさせられる羽目になったのだった。
それはそうと、最近とみにスキンシップ過多な気がして仕方ないです、先生。
これ訴えたら勝てますかね?




