ケース1~パーフェクト生徒会長~
放課後、忘れたノートを取りに学校に戻り人気のない廊下を歩いていていると、どこからか話し声が聞こえたような気がして私は辺りを見回した。
すぐ傍の階段下の倉庫前に我が校の誉れと名高い生徒会長の横田先輩がいて、彼が携帯電話を使用しているのが分かった。
一人頷いてそのまま立ち去ろうとした時、急に声量を大きくした会長の話が耳に入ってくる。
「…あぁ!?っざっけんじゃねぇぞゴルァ!
それ以上ガタガタぬかすようなら指の骨の一、二本折っちまえ!」
想像の範疇を超える暴力的な言葉群に驚いて、私は思わず歩む足を止めて振り向いた。
ええっと、私の記憶が確かなら生徒会長は顔良し・性格よし・頭よし・運動神経よし・家柄よしのパーフェクト超人だったと思うんだけど…。
いや、平凡な私の人生には関係ない事だ。スルーしよう。スルー。
と、考えを打ち切って顔を逸らそうとした瞬間。携帯を切って振り向いた会長と目があった。
私は咄嗟ににっこりと笑顔を作って挨拶をし、その流れで立ち去ろうとしてみた。
「君は確か…。2年の遠坂さん、だったかな?」
逃走失敗。そして何故私の事を知っている。
「ふふ、僕は全生徒の顔と名前を覚えているんだよ。」
あれ、心読まれた?
ていうか、何ですかその記憶量。会長って本気で超人ですね。
「…そんなことより、君さっきの会話聞いてたよね?」
いつもなら輝かしい微笑みも今は冷気しか感じません。
「何の事か分かりません。
帰りが遅くなってしまいますので、失礼してもいいですか?」
背中に冷や汗をかきながらも、すっとぼけてみる。
すると、会長は一段と冷気を放って先ほどよりも低音で質問を繰り返した。
「聞いてたよね…?」
「……………はい。」
どうやら大魔王からは逃げられないらしい。
この後、半ばむりやり生徒会室に連れ込まれて私涙目。
「…あの、会長。」
私は会長から解放されるために勇気を出して声をかけた。
「何かな?」
「会長は先ほどの件について人に知られたくないんですよね?
それなら、私は誰にも言うつもりは無いし、例えしゃべったとしても皆信じないと思うんです。
何より私は会長という存在自体に興味がありません。
むしろ、平凡をこよなく愛する私の人生に関わらないで欲しいと思っています。
なので、このまま無条件で解放してもらえませんか。」
そう提案すると会長は一瞬ポカンとした顔で私を見る。
直後、大笑いを始めて今度は私が茫然と会長を眺めることになった。
しばらく笑った後、ようやく落ち着いた会長は今度は邪悪な笑顔を浮かべて私を見てくる。
「…お前、面白いな。面と向かって興味が無いなんて、初めて言われたぞ?」
急に地だと思われる口調で話しかけてきた会長に私は警戒を強くした。
…い、嫌な予感がするよ?
「そこまで言われたら、意地でも俺に興味を抱かせてやりたくなった。」
「え…。」
嫌な予感的中ぅ!?
会長はにやにやと笑いながら近づいて来て、私を閉じ込めるように壁に両手をついた。
そして徐に私の耳に顔を近づけて囁く。
「近々、生徒会の雑用員として任命してやる。
せいぜいこき使ってやるから覚悟しとけよ。」
NO―――――――ッ!!
その後、宣言通り生徒会雑用員に任命された私は、いじめのような仕事量と二人きりになるたびにセクハラしてくる会長に悩まされる日々を送るようになるのであった。
うわーん!これだからイケメンは嫌いなんだー!!




