第五幕 ―前戯―
トーヤ達は帝都へ着くと、城周辺の兵士にアーク直筆の紹介状を見せた。
先の大戦で活躍した戦士、アークからの紹介となれば、案外簡単にラメドのメンバーが集まっているという屋敷の場所を教えてもらえた。
屋敷に着き、呼び鈴を鳴らすと、肩につくかつかないか位に黒髪を無造作に伸ばした青年が現れた。
「此処はラメド部隊長フィアール大将の屋敷だが、……何か用でもあるのか?」
ぶっきらぼうに言う青年に、トーヤは紹介状を渡した。
「……ああ、お前がセフィルのいっていたやつか。」
納得したように頷く青年に対し、トーヤ以外の二人は首をかしげる。
「せふぃ、る?」
「誰だそりゃ?」
聞きなれない名前を口の中でつぶやくが、やはり自分の知り合いにこんな名前の人間はいない。
「琳さんのこと。 昔色々あってこの名前を名乗っているんだって。」
「そう、か。」
「……そうなの?」
色々引っかかるところがあるようだが、二人は空気を呼んで、何も聞かなかった。
「それより、り……セフィルさんはいますか?」
「セフィルなら今任務中だ。……ああ、そうだ。どうせなら君達も手伝ってはくれないか?」
「どうして俺達が?」
「お前達の実力を知りたい。……まあ、敵が現れるとは限らない任務だが。 ちょっと部屋に来てくれないか? 渡すものと、その服じゃああそこにはいけないだろうからな。」
「???」
トーヤたちはよく分からないうちに屋敷へ通された。
部屋から出てきたトーヤとコウハを見て青年は満足そうに頷いた。
「うん、なかなか似合うな。」
トーヤは着慣れない服のすそを引っ張って顔をしかめた。
トーヤとコウハは高級そうな生地とデザインのスーツに身を包んでいた。
まるでどこかのパーティーに行く貴族の様な姿だ。
「当たり前だ。 今回の任務先は城のパーティー会場だ。」
二人の心を読んだように青年は言った。
「今回の任務は城のパーティーの警備だ。 最近皇帝陛下の命を狙っている不届き者が多いからな。 お前達は参加者のふりをしてパーティーに忍び込み、有事の際に俺達の援護を頼みたい。 分かったか?」
「「はい!」」
二人が同時に返事をすると、隣の部屋からルナが出てきた。
「え……る、な??」
薄桃色のドレスを身に纏ったルナにトーヤは一瞬見ほれた。
「……え、あっ、と……すごく奇麗、だね。」
上手く気のきいた言葉を言えないトーヤにルナはクスリと笑った。
「トーヤ、別に無理に褒めなくていいわよ? 私自身こういった格好が似合うなんて思っていないもの。」
トーヤがどもっている理由が、自分のドレス姿が似合わないと思っているルナは苦笑した。
そんなルナの様子に、あわあわとトーヤは弁解する。
「そ、そうじゃなくって、ルナがきれいで、すっごい美人で……えーっとルナじゃないみたいって言うか、ルナはルナだけど、いつものルナよりいいっていうか、いや俺いつものルナも好きだけど、今のルナもいいって言うか……あ~~、もうっ、自分で名に言っているか判らなくなってきた!」
面白がって傍観しているコウハの前で、うわーーと自分で混乱してわめいているトーヤを横目に青年はルナにトーヤが何故こんな反応をしているか、こっそりその理由を伝えた。
「まあ、」
頬を染めるルナを青年は微笑ましそうに見つめていた。
「なかなかお似合いのカップルだな。」
青年の言葉に二人はぽんっという音とともに湯気が出そうな程、顔を赤くした。
「な、何をいきなり言うんですか!」
「そ、そうです。からかわないでください。」
トーヤとルナの言葉に青年は首をかしげる。
「違うのか?」
「ち、違わないけど、俺とルナはそういう関係だけど!」
「ちょっとトーヤ! へんなこと言わないでよ!」
あわてすぎて、言おうと思っていたことと違うことを口にするトーヤにルナは恥ずかしそうに顔を赤くして、彼を黙らせようとした。
「夫婦喧嘩は犬も食わないって言いますし、少し待ちましょう。」
コウハはあきれたように言うとため息を吐く。
弟のように可愛がっていた少年が自分より先に彼女を作ったという事実が身にしみて辛いのだ。