第二二幕 ―果たし状―
―――明後日、かつての決戦の地で待っている。
琳、いい返事を期待しているよ。
翌日、ラメドに贈られた手紙。
差出人はクリフトル。
「……」
セフィルはそれをみるなり、顔を歪ませた。
「セフィ、お前は……」
問いかけるフィアの言葉は何かを悟ったような口調だった。
彼の言葉にセフィルはゆっくりと首をふる。
「いかないという選択肢はありません」
ゆっくりと紡がれる言葉にフィアは頷いた。
「お前の信じる道をゆくといい」
「はい。」
決戦は明後日。
残された時間は少ない。
トーヤは剣を持ちゆっくりと心を落ち着かせた。
自らに流れる力のイメージ。
すべてを明るく照らす光のイメージ。
その力を含んだ刃が白く光る。
「はぁ!」
一気に振りかざすと数メートル先の的が消失した。
「よっし!」
「ふふっ、大分扱えるようになったみたいだね」
おっとりとした口調でトーヤに話しかけるのはフォンだ。
「フォンさん」
「光の力っていうものは思ったより強力みたいだね」
「そうなんですか?」
トーヤは驚いてフォンを見た。
彼は「ああそうだよ」と頷く
「セフィルは光と闇の力というものを常人には扱えない力……と言っていたからね」
「え?」
「多分、だけど……セフィルは君のことを強く評価していると思うよ。アークの弟とかそういうことじゃなくて、トーヤという一人の男として……」
「……あ、ありがとうございます!」
「それはセフィル本人に言ってあげなよ」
「はい!」
笑顔でトーヤは頷いた。
その後、二、三言話をしてからフォンは去って行った。
「彼はおもったより、強く成長している。 もう僕等―――ラメドやセフィルの力はいらないのかもしれないね」
フォンは物陰に小さく囁いてから、その場を後にした。
「……普段おっとりしているくせに、あの人は敏いな」
物陰に隠れていたセフィルはフォンの去った方向をじっと見つめていた。
「―――もう、好きにさせたほうがいいのか?」
だが、クリフトルの力は強大だ。
もしかしたら、刺し違えて死ぬ可能性も考えなければならない。
いや、刺し違えてでも勝つ、という表現のほうがあっているのか。
「一人で抱え込むな、か。 なら、存分に甘えさせてもらったほうがいいのだろうか」
昔はもっと一人で抱え込むような性格だったような気がする。
なのに己はいつの間に人にこんなにも甘える人間になったのだろうか。
―――ふざけんな! お前は俺たちを信用していないのかよ!!
そう言って自分の頬を力強く殴った人間はいまこの場にいない。
その時に切った頭の傷跡が十年たった今も残っている。ただ、それだけだ。
ちょうど髪に隠れる位置にあり、気にはならないが……
「ったく、強く殴りすぎだバカ。 後に残ったじゃないか」
その傷は何か精神的に悩むことがあるとじくじくうずく。
「……素直になれということなのかな?」
呟いた言葉は虚空に消えた。
「トーヤ」
後ろから声をかけられて、トーヤは振り向いた。
「せ、セフィルさん?」
相手はセフィルだった。
そう確認した瞬間トーヤは身構えた。
こっそりクリフトルとの戦いについて行こうと思っていたのがばれたのだろうかと冷や冷やしたのだ。
「そう身構えなくていい。 ……トーヤ、頼みたいことがあるんだ」
「……どうしたの?」
「一緒に闘ってほしい」
その言葉を聞いたとき、トーヤは目を見開いた。
「え?」
「だが、危なくなったら逃げろ」
「……足手まといだって昨日は言ったのに?」
「訂正する。 ……僕の決心が揺らがぬように見守ってほしいだけだ」
「……」
セフィルの決心
もしかすると、彼は不安なのか?
自分が“あちら側”につくことになるのではないかと……
「……うん、わかったよ。 もしクリフトルの元に戻るなんて言い出したら、殴ってでも連れ戻す」
「傷跡は残らない程度に頼む」
「は?」
「いや、こちらの話だ」
ふっと微笑んで、セフィルはトーヤに背を向けた。