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第二十幕―クリフトル=グレイ―

 その人物の姿を見たとき、セフィルは固まって動けなかった

「ク、クリフ様」

 喉の奥から絞り出すように聞こえた声は、恐怖に似た感情を含んでいた。

「久しいな。 10年ぶりか…」

 ふわりと宙空にいた男はセフィルの前に降り立った。

「大きくなったな……琳」

 慈愛を含んだ声で言い、男はセフィルの頬をゆるりとなでた。

 固まったまま動けないセフィルは、それでも何とか力を振り絞って、短剣を抜いた。

 ピッと男の頬に赤い線が描かれる

「あなたの元へは行かない。 十年前も申し上げたはずだ!」

 そしてセフィルはキッと男を睨みつけ、言った

「先の大戦、反乱軍の首謀者……クリフトル=グレイ!!!」

 その名は………!

「どういうこと?」

 トーヤはセフィルとクリフトルを見比べる。

 一体、十年前に……何があったというのだろうか?

 フィアに聞こうにも、彼はじっとクリフトルを睨みつけたまま、剣を構えている。

 静かに、そう……静かにクリフトルを見ていたが、彼の身からは隠しきれない殺気が漏れ出ていた。

 赤い瞳は憎悪に染まり、下手に近づいたらその大剣で両断されてしまう。 そんな雰囲気をかもしだしていた

「……まだ、完全に復活しきれていないからな。 また会いに来るよ、琳。 その時は……いい返事を待っている。」

 ふわりと煙のようにその人物は消えた。



 いつものように訓練をしようと外に出て、いつものような毎日を送る筈だった。

 あれからトーヤは光の力をある程度制御できるようになり、時々魔物退治の任務に同行させてもらえるようになっていた。

 今日も訓練だ修行だとセフィルとともに屋敷の前で稽古していたときだった。

 あの男が現れたのは……



 クリフトル=グレイ

 たしかに男はそうなのった。

 もう死んだはずの先の大戦での首謀者。

 アークと戦い、敗れた男。

 彼とセフィル(霧亞 琳)は何の因縁があるのか?

 その疑問は本人の口からあっさりするほど簡単に出た。

「僕が純潔のコフで、もともとあの人の元にいたから。……僕はもともと反逆軍のものだったんだ。お前の兄やラメドの人々とは敵同士だった……」

 セフィルの思いもよらない過去にトーヤは目を見開く

 セフィルや彼の姉の玲がコフだということは知っていた。

 霧亞姉弟は、コフでありながらも、クリフトルの考えに賛成できず、王立軍に手を貸したとアークや玲から聞かされていた。

 だが、元々敵同士だったなんて……

「おどろいたか?当時まだ十歳そこそこの子供があの戦場に居たんだ。 あの時、僕はクリフトルの考えが絶対的に正しいと思っていた。直接ではないにしろ、王立軍の人間を手にかけていた」

 信じられなかった。

 彼が、今や極悪人と呼ばれるあの男に手を貸していたという事実が

「……うそ、だよね? セフィルさん。元々反逆軍にいたなんて」

「残念ながら本当だ」

 セフィルはきっぱりといった。

 その言葉にトーヤの顔に暗い影が差す。

「……だが、今はラメドの人間だ。 あの人が蘇り、人々に害悪をなすというのなら、全力で戦うさ」

 まっすぐな瞳を向け、トーヤを励ますようにセフィルは言った。

「……セフィルさん」

「今日は、とりあえず、一人にしてほしい」

「……セフィルさんはつらくないの?」

 トーヤはセフィルと別れる直前にそう言った。



 自室でうつむいているトーヤにルナはどう声をかければいいかわからなかった。

「トーヤ」

 ルナはそっとトーヤの横に座る

「ねえ、トーヤ。 落ち込まないで。 セフィルさんはきっと私たちの味方になってくれると思うわ。 だから……」

 ルナの言葉にトーヤは首を横に振った。

「ちがうんだ。ルナ。 ……セフィルさんを信用していないわけじゃない。 ただ……」

「ただ?」

「……ただ、セフィルさん、すごくつらそうにしていた。」

「辛そう?」

 トーヤは頷く

「きっと、戦いたくないんだと思う。 あの人とは戦いたく……」

「トーヤ……」

「ねえ、ルナ。 兄さんはどうしたのかな? どんな思いで戦っていたんだろう?」

「え?」

「……兄さんは自分たちの守るもののために闘っていた。 でも、敵にも守るもの、大切なものはあるんだ。……そう考えると、どちらもやっていることは同じなんだね」

「……トーヤ」

 ルナは心配そうにトーヤの顔を覗き込んだ。

 だが、彼にかける言葉は見つからない。

「もし……もしもだよ。 兄さんたちが負けて反逆軍が勝っていたら、どうなっていたのかな?」

 トーヤの言葉に、ルナは答える言葉を持ってはいない。

 戦争というものをよく知らない自分たちにとっては、まるで別次元の話のようだった。

「そりゃ、俺らが悪人になるだろうな」

 答えが返ってきたのは問いかけたルナではなく、いつの間にか部屋に入ってきたコウハだった。

「所詮、歴史っつうのは勝ったもんが綴るものなんだよ。 往々にして敗者は悪、勝者は正義と書かれることが多い。」

「そう、か。 そうなんだね」

「闘う気、無くしたか?」

「え?」

 コウハの言葉にトーヤは顔を上げた。

「闘う気がなくなったのかって聞いているんだ」

「……どういうこと?」

「何かを守るってことは同時に何かを犠牲にするってことでもあるんだ。」

「……」

「あっちだって、自分たちの守るものとか信念のために全力で戦っている。お前はそれを知ってどう思った? 闘いたくなくなったか?」

「それは……」

「敵さんだって全力で闘っている。俺らも全力で返すのが礼儀ってもんだ」

「コウハ……」

 言うだけ言ってから、コウハは部屋をでた。

「……トーヤはコウハの言ったこと、わかった?」

「うん。」

 トーヤは弱弱しくもしっかりとうなずいた。

 その瞳に先刻のような暗い色は見当たらなかった。








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