第十九幕―MAGI―
翌日。
トーヤはルナの姿が見えず、彼女の行先をラメドのメンバーに聞いた。
「ああ、あの子ならサラと一緒に裏庭に行ったぞい」
ジーモンは親切に教えてくれた
「ありがとうございます!」
御礼を言ってさっそく裏庭へ行くトーヤの後姿を見ながら、ジーモンはカラカラと笑った。
「若い奴らはいいのう」
青春じゃのう!
そう言って、彼は今日の訓練のメニューを考えた。
「あ、ルナ!」
サラの前で目を閉じ集中している様子のルナを見つけてトーヤは彼女の名を呼んだ
「しっ」
サラはトーヤに黙ってというように、自分の口元に人差し指を当てた
「……ちょっと上級の魔術を教えて今試しているところなの。」
小声でトーヤに説明すると、トーヤもうなずいた。
魔力が安定し、ルナは地に描かれた魔方陣に自分の魔力を流した。
力が湧いてくるのがわかる。
……今だ!!
そう思うが早いかルナは魔力を解放した
「はぁ!!」
雷が目の前の地面をえぐった
ぽかんとした表情でサラはルナを見た。
「……ごい」
「え?」
サラのつぶやいた言葉をルナが聞き返した。
サラはルナを見ると満面の笑みを向ける。
「すごいわ!まさか初めてで、あの魔術を扱えるなんて!」
「ええ!?」
どういうことですか?
そう聞き返すとサラはばつが悪そうに言った。
「実はいうと、さっきの魔法陣。 少し無理があるんじゃないかなって魔法だったのよね」
「そうだったんですか!?」
ルナは心底驚いたように言った。
その様子にサラは目を丸くする。
「まさかとは思うけど、もう覚えちゃったってことは……」
「はい」
こくりとうなずくルナにサラは「予想以上ね」と呟いた
「あの、覚えたって、どういうことですか?」
トーヤの言葉にサラは簡潔に説明した。
「魔術を覚えるときは基本的に魔力を放出するものと何か条件を満たして発動するものと二つあるの。 ルナの場合は後者で、その中の魔法陣と相性がいいみたいなの。 魔方陣は最初地面に描いた魔方陣に沿って魔力を注ぎ、自分の魔力に覚えさせるものなのだけれど、魔法が強力になればなるほど魔方陣は複雑になるの。 ……さっき地面に描いた魔方陣は結構複雑なものだから覚えるなんてことないと思っていたのに……」
サラはルナを見て微笑む。
「これは伸ばし甲斐がありそうね」
ルナは相変わらずきょとんとしていた。
「えっと、あの魔方陣はふつう一回じゃ覚えられないモノなんですか?」
「そうね。 強力で複雑。 そう言ったものだから。」
「あまり実感がわきません」
「それほどあなたに才能があるってことなのかしら」
サラは苦笑交じりに言った。
「とりあえず、あなたの場合魔方陣の魔術中心でいいかしら?」
「はい。 ……といってもそれ以外よく知りませんけど」
一から説明したほうがいいかしら?
そう言うサラにルナとトーヤは頷いた。
「まず、条件を満たして発動する魔術はよく知られているので3種類ね。 一つは魔方陣でさっき説明したとおり。 二つ目は“印”。急場しのぎのためにいくつかは覚えたほうがいいわ」
「印?」
ルナが首をかしげる。
トーヤもあまり聞きなれない単語なためきょとんと頭上に?マークを浮かべていた。
「指の細かな動きで即席の魔方陣を描くの。 なれたら掌に魔力を集中させるだけでできるわ。こんな風に」
ぽん、とサラは拳大の火の玉をつくりだし、一瞬で消滅させた。
「威力は小さいけど、簡単にできるのが特徴。 三つ目は“言霊”。おもにセフィル君がよく使っているものね」
トーヤはああ、と呟き、思い出した。
確かセフィルは魔法を使うとき歌のようなものを口ずさむ。
「言葉に込められた魔力と特殊な呼吸法で紡ぎだす魔術。 これはあまりお勧めしないわ」
「どうしてですか?」
ルナの疑問にサラはすぐに答えた
「危険だからよ。この魔術は本当に上級の術師しかあまり使わない禁忌に近い術なのよ。セフィル君もそれを承知で使っているのよね」
どうしてとは聞けなかった。
そのすぐ後に、サラが話題を切り替えるように魔術の細かな説明を始めたからだ。
言霊とは一体何故危険視されるものなのか?
それはよくわからないが、深い闇があるように見えた。