第八幕 ―少女の正体―
トーヤとルナは、相変わらずコウハを探しながら、隠し通路を歩いていた。
「結構歩くけど、コウハいないねえ。」
もう少しで外に着くんじゃない?と言うトーヤに対しルナは少し不安そうだ。
「コウハ、大丈夫かしら?」
不安気にささやき、トーヤの手をぎゅっと握るルナにトーヤはルナを安心させるように優しく言った。
「大丈夫だよ。 コウハはアレで強いしさ。 きっと大丈夫だよ!」
「うん。」
元気付けようにもまだ少しルナの顔には不安の色が濃かった。
早くコウハを見つけようと前方に目を向けると見慣れた後姿
「……あ、あれ!」
コウハは一人の少女と対峙していた。
パーティ会場で見たあの少女だ。
「あの女!」
トーヤは少女に向かって走った。
「琳さん!」
トーヤはそういって少女に抱きついた。
少女との力の差を見せられ、コウハは動けずにいた。
どろりと赤い血が頬をぬらす。
少女はじっとこちらを見て動かない。
だが、少しでも動いたら今にものどを噛み切るであろうことは、彼女の気配でわかった。
静かに、ただじっと立っているだけに思えるが、その手にはいつでも攻撃できるようナイフが握られ、彼女のまとう雰囲気は、まるで獲物を逃がさない猛禽類のそれに近かった。
さしずめ少女が鷲なら、コウハは捕食される子鼠といったところか。
ぴりりと張り詰めた緊張感。まるで薄暗く肌寒い地下道が、ジャングルの熱帯雨林に変わったような気がした。
やらなければやられる。 だが、しかし……コウハは動けなかった。
どうすべきか。
そう考えたそのとき!
「琳さん!」
どこからとも無く現れたトーヤが少女に抱きついた。
「ええ!!!??」
コウハはじっと少女を見た。
どうみたって、女にしか見えない。
確か琳はれっきとした男の気がしたのだが……。
そう考えているコウハをよそにトーヤは少女―――いや、琳に質問責めをしていた。
曰く、
「何で女の子の格好しているの?」
「ココに倒れている兵士は何なの?」
など、今の状況に関することから
「最近どう?」
「元気」
「ねえいつから修行してくれるの?」
など、今の状況にあまり関係ない質問までごちゃ混ぜだ。
いい加減、頭が痛くなったと、琳はトーヤを引き剥がし、一つずつ質問しろ、と言った。
「とりあえず、何で女の子の格好しているの?」
その言葉に琳はあまり答えたくなさそうに視線を彷徨わせてから重々しく口を開いた。
「敵を欺く為の作戦らしい。」
何でも、同じラメドメンバーの人間に無理矢理女装させられたらしい。
チームで最年少ということもあって上司には逆らいづらいとか……
そう話した琳の顔は羞恥にか、赤く染まっていた
「じゃあ、ここの兵士は……」
コウハの言葉にああ、と琳はつぶやいてから答えた。
「敵方のスパイだ。 どこからか制服を調達してきて、紛れ込んでいたらしい。」
「な、何だ……。」
コウハは、一気に体の力が抜けた気がした。
今更だが、自分は勘違いをしていたというのか。
「それにしても最初、本当に驚いたな。 前にあったときはまだこれくらいの背丈だった子どもがココまで大きくなって、自分の前に現れたんだから。」
にやにやという言葉が良く似合う、意地の悪い笑みを浮かべながら、琳は胸の前に手を持っていき、ひらひらと揺らして見せた。
「え? つまり、貴方は最初っから、俺の正体を……。」
「知っていたし、分かったさ。」
けろりと琳は答えた。
「ココの修行は生半可なものじゃあ、ない。 付いてこれるかどうか、テストしていたんだ。」
「……結果は?」
恐る恐る聞いたコウハにしかし、琳は……
「さあな、」
とはぐらかした。
「ああ、それとこの町にいる間、僕のことはセフィルと呼べ。」
「え?なんで?」
「どうしてだ?」
ルナとコウハが首をかしげる。
「此処で僕はある事情があって、セフィル=アスターという名前を名乗っている。わかったな。」
有無を言わせない視線に三人は同時に頷いた
それから、敵方の大将を捕縛したフィアールと合流し、一同は解散となった。
とても疲れた一日だったのだろう。
3人は馬車の中ですぐに眠ってしまった