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俺とあいつ

お久しぶりです。伊倉です。2年ぶりぐらいですかね。

私生活も落ち着いてきましたのでぼちぼち小説更新再開させてもらいます。

読者の皆様の中には『伊倉って誰だコイツ』な方が多いと思うので、よければ自分の過去の作品も見てくださいね。

それでは、お楽しみください。

月曜日4時間目、高校2年B組の授業は世界史。

「よっしゃ、今日はここまで!」

昼休みを告げるチャイムの音を聞いた俺が教卓の上からそう言うと、生徒たちはいろんな反応をする。

疲れた、と伸びをするヤツもいれば、隣の生徒に起こされて目をこするヤツも。

教科書や筆箱をしまうヤツや、気が早いのか弁当を出して箸を手にしているヤツだっている。

「起立!」

そんなヤツら全員がクラス委員長の掛け声で椅子から立つ。

窓側でいまだに夢を見ているヤツにはチョークを投げて起こしてみる。

「い、痛ってぇ!」

クラス中が爆笑の渦に。俺も思えば学生時代はあんな感じだったよな。ちょうどあの辺の席で、あいつと。

「あ、そーだ。今日の6時間目は進路講演会だって言ったよな?覚えとけよー。」

このクラスの担任をしている俺がついでにそう言うと教室中からは「えー」という非難の声が。そりゃそうだ、『進路講演なんてかったるい』と俺だって高校の時はそう思ってた。

だけど、今日の進路講演ゲストはスゲーんだぞ?そいつはな…

っと、気を許したらしゃべっちまいそうだ。俺は口が軽いからな、用心しとかないと。今日の朝も「絶対に言わないでくれよ!」って校長に念を押されたし。

そうそう、今の校長は俺が高3の時の担任の先生なんだよ。だから結構つながりあってさ。

俺がこの学校で世界史を教えているのもその先生の紹介があったようなもんだから、感謝してもしきれないっていうか。まーそんなとこだ。

「礼!」「「「ありがとございましたー!」」」

荷物をまとめて教室から出ようとする俺。腹が減ったのもあるけど、今日は進路講演で久しぶりにあいつに会えるんだ。それが楽しみで。

「先生、質問よろしいでしょうか?」

なんてことを考えながら教室を出る間際に生徒からそう言われた。おおっと、今の俺は教師だからな。

あの俺が教師になるなんて誰もが思ってなかっただろうけどさ。校長にもそう言われたし、高校時代から付き合いがある妻にも言われたし、もちろんあいつからも。

「おぅ、どうした?」

そう言って生徒のほうを振り向いた俺―緑朋樹―は、質問に(それはそれは分かりやすく)答える。

あー、腹減った。











「あー、腹減った。」

職員室に戻って教材を机の上に置きながらそう言うけど、俺の学年の机には誰もいない。

ほかの先生は学食で生徒と一緒に食ってるからだ。弁当族は俺くらい。まーなんたって愛妻弁当だから文句はないんだけどさ。

「緑先生、お疲れ様でーす。」

そんなことを考えていたら弁当を開けようとしていた俺の向かいに、そう言いながら座った同僚の先生。

「おぅ、お疲れーっす。」

いや、別に弁当が待ち遠しいから適当に返事したってわけじゃない。俺はいつもこんな感じ。

おっと、紹介をしておくか。彼女は稲葉先生という。

確か2年前ぐらいに新卒として採用したからまだ24歳。ウチで化学を教えている先生だ。高2全体の副担任でもある。

彼女は黒い長髪が似合う美人で、俺のクラスの男子の奴からは『稲葉先生が白衣を着て実験指導とかしてるのたまらないっす!』っていつも言われている。

その時は『はぁ、そうか…』と答えるしかないけれども、向かいで見ているとやっぱり美人だなぁと改めて認識。

…いやいやいや、妻いるし。そんなやましいことなんてないですから。

ちなみに彼女も弁当族。自分で作ってきているらしい。

なので昼休みになると高2教師陣の机には俺と稲葉先生しかいなくなるのだ。話をする機会が多いので俺とは結構仲がいい。

「そう言えば緑先生、昨日の鹿島アストロズの試合見ました?すごかったですよね!!!」

そう、そして彼女は無類のサッカー好きなのだ!俺と話が合わないわけがない。

「見た見た。アレはすごかったなー。残り15分で3点差逆転だろ?」

「はい!勝ち越しゴールのボレーシュートなんて最高でした!」

ちなみにサッカー部顧問…というわけではない。化学部顧問だ。だけどもサッカー部が試合の時は用事がかぶらない限り見に来てくれる。

そのおかげか知らないが、彼女がウチに赴任してからサッカー部は2年連続で県ベスト4にまで進んだ。俺が現役だったことはそんなの夢のまた夢だったから、彼女を『勝利の女神』と言わずにはいられないだろう。

なんて2人でサッカーの話題で盛り上がってると、俺の後ろからゴホンとひとつ大きな咳払い。

椅子を回転させてその咳払いの主を見てみると、校長がこっちを見て立っていた。

「あ、どーも校長先生、お疲れさまでーす。」

「おぅ緑、お疲れ…じゃないだろ!」

校長は俺の頭をたたく。これも俺が高校生の時から変わらないなぁ。

「いてて、俺が高校生の時より痛いっすよ。…で、なんですか、石川校長?」

石川校長は俺が高3の時の担任で、俺が大学を卒業してここに赴任してから2年目で校長になった人だ。

この先生のおかげで俺はこの母校で教師をすることができているといっても過言ではない。

高3の時の進路指導や、母校への就職など、いろんな面でほんとうにお世話になっている頭の上がらない人物。

だけど石川校長自体が気さくな人なので、いつも俺とは高校時代と変わらないやりとりをしているのだ。

「あー、稲葉先生もついでに聞いといてくれるかな?」

「え、あ、はいっ!なんでしょう!」

「実はね、今日の進路講演会で講演してくれる…コラッ緑、弁当食うのやめて人の話を聞けっ!」

「あ痛っ!」

「お前さんはこういう面では高校生の時から成長しないなー。」

ちくしょー、腹が減ったから隙を見つけて食ってたのに…

校長に大きな声で笑われてるし、稲葉先生にも笑われちゃってるよ。なんか凹むわ。













「ねぇ緑先生、興奮しないんですか、興奮!私もう心臓がバクバクなりっぱなしですよ!」

「あー、まぁー…」

校長から俺らに与えられた仕事、それは『進路講演会の講演者の出迎えand案内』であった。

俺はもう講演者が誰だか知っていたけど、稲葉先生はその時初めて知ったみたいでそれからずっとあの調子。

まぁ、サッカー好きの若い女性である稲葉先生にとってみればそれもそうだろう。

現役サッカー日本代表選手、現在はスペインで活躍、世界的ファンタジスタ、そして端正なルックスの持ち主といえばあの男しかいない。そしておまけにこの高校を母校とする男。

―副島健人。

そう、俺の親友。大学は互いに別の大学に進んだこともあって頻繁には会わなくなったけど、それでもやっぱり会うと話が弾む。気が合うんだよな、単純に。

それは俺が就職し、副島がJリーグの世界に足を踏み入れてからもそう。

それは俺が結婚し、副島も結婚してからもそう。

それは俺がはじめて担任を持ち、副島が海外に行った時からもそう。

ずっと、ずーっと、俺らは親友のままなのだ。

「で、なんで緑先生は驚かないんですか!」

気づけば、稲葉先生に詰め寄られていた。おいおい、そんなに怒んなくても。

あれ?ってか俺、稲葉先生に俺と副島の関係を話したことなかったっけ?ならいい機会だ、この際に。

「実は、俺はな―」

と言いかけた瞬間、待っていた門に一台の赤いスポーツカーが飛び込んできた。いや、猛スピードとかじゃなくて常識的な速度で。

俺ら2人はそのスポーツカーに目を取られる。

スポーツカーはいったん止まった後、駐車スペースを見つけてそこに停車する。

そしてそこから降りてきたのは、そう、ほかでもないあの男。

「久しぶりの母校だなー。変わってないような気がする。」

「副島!」「キャーッ!副島さん!」

進路講演会ということだからか、きっちりとしたスーツに身をつつんだ副島が車から降りてきた。

高校時代からその端正な顔立ちは変わっていないが、海外で活躍している自信からか、その顔には精悍さとたくましさが見て取れる。

体だって高校時代は接触プレーを嫌う男だったのに、イギリスでもまれた成果か、細いながらもガッチリとしていることがスーツの上からでも分かる。

変わった。ヤツは進化してる。今も急激なスピードで。

「おっ!緑!久しぶり!…いや待てよ、おとといも会った気がするのは気のせいか?」

「いやいや違うだろ。俺とお前と真理と副島の愛しのハニーと4人で飯食っただろ。」

「思い出せば確かにそうだった。おーそうだそうだ。」

「ってかお前、『愛しのハニー』のところは否定しないのか…」

「当たり前じゃん。事実なんだから否定したってどうしようもないぜ?」

うわっ、いつも通りのやり取り。こんな瞬間に、『進化した』副島でも変わってないような感じがして、俺は自然と笑みがこぼれる。

ふと気づけば隣でポーッとしてる稲葉先生。

「あ、こちらの女性は稲葉先生って言って、俺と一緒に今回のお前の担当だ。」

「稲葉先生?副島健人です。緑とは中学からの親友です。今日はよろしくお願いしますね。」

副島はそう言って幾多もの女性を虜にしてきたキラースマイル(命名は俺)を稲葉先生に見せ、右手を差し出す。

余談だが、ヤツのキラースマイルで副島の虜になった女性は中高でも数知れず、大学4年間ではそりゃもう恐ろしい数になったらしいが、副島の愛のベクトルはある一方向、彼の幼馴染にしか向いてない。なのにキラースマイルを振りまくなんて自覚がないのか?

「あ、はっ、ハイ!よろしくお願いします!」

その右手をおずおずと握り、深くお辞儀する稲葉先生。緊張した姿なんて普段見ることないから珍しいなぁ。

「で、今日は2人が俺の担当ってわけ?」

一通りあいさつを終えると副島がそういう。

「そー。とりあえず職員室来てもらうぜ。ついてこいよ。」

「オッケー。稲葉先生も行きますよ。」

「は、はいっ!」

こんなやり取りを交わしながら俺らは職員室へと移動する。

ちなみに、生徒たちに今日の講演者が副島だということは極秘だ。なので今は5時間目が始まって10分ほどした、生徒たちの外への警戒が寝てるとか寝てるとか寝てるとかで一番少ないであろう時間帯。念には念を入れて裏門から車を入れてもらった。どこの教室からも見えないはず。

ちょっとした使命感を胸に、俺は職員室へと歩く。


















「よーし、静かにしろー!」

6時間目、進路講演会。体育館に集合した1年生と2年生(3年生は受験のためいない)たちのしゃべり声を静まらせようと、壇上から教務部長がマイクに叫ぶ。

とりあえず俺も教師なんで、自分のクラスのやつらに「黙っとけよー」と声はかけるが、まぁ委員長がしっかりしているから大丈夫だろ。ほら、事実俺より先にミンナを黙らせてるし。

そして生徒たちの話し声はだんだんと静かになり、最後は完全なる沈黙。

「はい、では今年度の進路講演会を始めます。そもそも進路講演会というものは、君たちの将来の進路決定に役立つように現役で活躍していらっしゃる方々をお招きして―」

なげーな、教務部長の話。俺が高校生の時は確か教務部長じゃなかったけど、それでも話がクソ長かった気がする。俺も副島も爆睡していたような…

「…であり、毎年我が校の卒業生で社会の第一線で活躍していらっしゃる方を呼んでこの進路講演会を行っているわけでありますが、今回は少し志向を変えまして、『勝負』の世界で活躍していらっしゃる方をお招きしました。」

あー、副島のことね。確かにサッカーという『勝負』の世界だな。しかも、今はスペインにいるってことから、文字通り『世界』で活躍しているわけでもあるし。

…と、俺が教務部長の話の内容を理解してニヤッとしているときも、生徒たちは『話なげーな、誰が来るのかさっさと教えろよ』って顔をしている。

まー待て待て。あと1分しないうちにスゴイやつが来るって。

「…というわけで今回の進路講演会の講師の方の経歴を紹介してからお呼びしたいと思います。本校を卒業後、早稲山大学経済学部に入学、」

まだこの時点では誰も気づかない。

「卒業後はプロサッカーJ1の横浜エフマリナスに入団し、」

この時点で一部の生徒が『えっ?』という風に顔をあげる。そうだ、アイツだよ。

「それから2年後にはイングランド・プレミアリーグのヴァーメンガムに移籍し、」

体育館中がざわざわとし始める。ここまで言えば今日のゲストがが誰だか分からない、なんてやつがいないであろう。

「現在はスペインのリーガエスパニョーラのヴァレンソアに所属しています、」

『マジかよ!』『うそっ!』『キャーッ!』などといろんな声が聞こえてくる。教務部長が話す経歴など誰も聴いていない。誰もが知っているから。

「サッカー日本代表MFとしてご活躍中の副島健人さんです。盛大な拍手で迎えましょう!」

「「「「ワーッ!!!!」」」」

生徒の歓声・拍手と共に、袖から副島がニコッと生徒に微笑みながら出てきた。途中で軽く手を挙げて歓声に応える。

その仕草だけで、ほら、女の子たちは目がハートになってるじゃないか。

「皆さんこんにちは。ここの卒業生で、皆の10年ぐらい先輩の副島健人です。」

副島が講演台から改めて挨拶をすると、どこからともなく拍手が。またまたヤツは手を挙げてキラースマイル。またまた女の子たちはメロメロ。

「こうして母校でお話しする機会をいただいたのは、校長先生からそのお話をもらったからなのですが、実はその校長先生は俺が高3の時の担任でして…」

副島がそういった瞬間、生徒たちから「マジかよーっ!」「えーっ!」と驚嘆の声が上がる。

体育館の端にいる石川校長もまんざらじゃなさそう。まー、俺と副島とで先生を困らせていたのだが、今となってはいい思い出だな…

それから副島は、俺らが高3の時に教えてもらったことがあり、まだこの学校にいる先生の名を数名あげた。そのたびに生徒たちからは歓声とか驚嘆の声とかいろいろ。

「…で、世界史の緑先生ですが、実は彼とは中学高校と同じ学校のサッカー部で活動していたこともあり、いまでも付き合いがある親友です!」

先生紹介の最後に俺の名前が出てくると、驚嘆の声とともに生徒たちの視線は俺に集まる。

「緑センせ、マジなの!?」「本当なんですか!?」「エッ!そうなの!?どーなのよ?」

仕方ないから俺は、「そーだぞ。」と軽く答えると、オオッと歓声。っておい、俺のこと疑ったな…

なんか思い出ないんすか~、とせびられるので、ホームルームで話してやると言って生徒たちを壇上のほうにむかせる。

「で、えーっと、進路講演会って言っても、正直何話せばいいかわからないんですが… っていうかさ、俺も高校の時の進路講演会ってつまらなかったから!」

自らのことを『自分』などと呼ぶちょっとお堅い副島ではなく、『俺』と呼んだラフな副島。

そしてハハハハッ、と生徒たちから笑い声が。いつもの堅苦しい進路講演会じゃないと気づいたのだろう。

「ま、今日は俺が歩んできた道のりと、その途中途中で大事だなと思ったこととかをありのままに話していくんで、そこから何か得てもらえたら幸いです。」

そこで副島が軽く礼をすると、体育館中が拍手に包まれる。












「で、で、副島さんとの思い出教えてよ!」「うん!私知りたい!」

「ねぇねぇ、あの人ってモテてた?ってかそうだよねー、あんな人が同学年にいたら速攻で惚れるし!」

「やべーな、副島ってスゲーな… なんか俺、今でもあの人のこと見たのが信じられないや…」

「緑センせって俺と同じFWなのかよ!ってかあの副島のパスを受けてたのか!うらましいっ!」

「だーっ!お前ら、俺にまとわりつくな!そしてうるさい!」

教室に帰る途中、俺は高2の生徒に囲まれながら歩いている。

副島が最初に言った、『緑と親友』の一言は生徒たちに衝撃を与えるのに十分で、やつらがひっきりなしに俺のもとへやってくる。

そうそう、進路講演会自体は素晴らしいものだった。

副島のサッカーに熱中していた高校時代や、そのせいで勉強がヤバかったこと(『今から少しずつでもいいからやっといたほうがいいぞ!絶対!』と力説していた)、

サッカーで飯を食っていこうと決めた大学時代や、プロの世界にW杯で体感した世界との差、

そして海外へ飛び出した理由や現地でのエピソードなど、自らのいろんな経験を踏まえて多くの話をしてくれた。

プロの裏側とか、あの世界的選手は実はこうだとか、裏話的なのもたくさんしてくれたし。

プロサッカー選手という、『どんな生活をしてるんだろう?何考えてるんだろう?』などと一般の人からすれば雲の上の存在であった職業のことを詳しく話してくれ、いつもの進路講演会とは違って非常に興味を持たせる内容だった。

最後の質疑応答の部分なんて、手を挙げるヤツが多すぎて時間延長したくらいだからな。俺も一個人として非常に楽しませてもらった。

で、まとわりつく生徒。とりあえずほかのクラスの生徒は各々のクラスに返す。

そしてひと段落してクラスに入り、終礼を始めようと教卓の上に立つと、不気味なほどに静かに全員が着席していて、その中で一人だけ4時間目の世界史に寝ていたヤツがピンと手を挙げている。

まー予想はしていましたが。

「で、どうした?」

「ハイッ!副島健人さんの話、聞かせてくださいっ!」

そいつは大声でそういい、クラスのみんなも目を輝かせて俺を見ている。

「…仕方ねーなぁ。さっき副島が言ってないこと教えてやるよ。」

俺がそういうと、クラス中は歓喜。

「お前ら知ってるか?学園祭の実行委員同士はカップルになりやすいウワサ。」

「知ってる!」「俺も聞いたことあるぞ~。」「ってか、有名じゃね?」

クラスの全員がこのウワサを知っているようだ。で、このウワサには元があるのだが、俺がこの学校に入って独自に調査した結果によると、

「このウワサの元はな~、副島なんだよ。」

ほらほらほら、皆きょとんとしてるぞ。意味が分かんないっていう顔してる。

「あの~、イマイチ意味が分からないんですけど…」

「実はな、アイツは学園祭の実行委員長だったんだけど、紆余曲折あって、打ち上げの時にヤツが告白して、副実行委員長と付き合うことになったんだよ。」

その事実が後輩たちに伝わって伝わってこうなったんだと教えてやると、クラス中からは『キャー!』『かっこいー!』と、主に女子が黄色い声を上げる。

「で、その副実行委員長ってのが、副島の幼馴染で、今のヤツの奥さんでもあるってこと。」

追加情報をまた教えてやると、またまた『ロマンチック!』『素敵!』と、女子から黄色い声が。男子もおぉと驚いているようだ。

「まっ、そういうことだ。じゃ、今日はこれで終わり!」

委員長の号令で全員が起立し、礼。終礼が終わり、各々部活や帰宅など放課後の時間へと向かっていく。

俺はというと、今日はサッカー部の練習があるので、一回職員室に戻って出席簿などを置いてから更衣室へ向かい、ジャージへ着替えサッカーノートなどを持ってからグラウンドへ。

すると、グラウンドにはある人だかりができていた。

高2は勿論、練習準備をする高1までもがその人だかりに入って驚嘆の声を上げている。

「おぅお前ら、どうした?」

俺がそう声をかけると、人の輪がサッと開いて目の前にサッカーボールを自在に操るスーツ姿の副島が現れた。

華麗なリフティングを見せ、そのたびに部員たちは歓声。副島は適当なところでボールを手に取ると、俺に向かって笑顔で言った。

「緑、俺もボール蹴らせてもらっていいか?」

コイツは、本当にサッカーが好きだ。折角のオフ、しかもこんな日ぐらい休めばいいのに…

なんて思いながらも俺の頬には自然と笑みが浮かんでくる。サッカーのことしか考えてなかった高校時代とちっとも変ってない。

無理だといってもやるんだろうな。

「お前、その格好でやるのか?」

「大丈夫、車の中にウェアがある。」

どうやらこいつ、サッカーする気でここに来たみたいだ。確信犯だったのか。

「…しょうがねーな。なら、着替えてこいよ。」

副島は俺の言葉を待ってましたと言わんばかりに車へと走り出し、『更衣室ってどこだっけー?』と叫びながら去っていく。

「その辺のヤツにでも聞いとけー!」と笑顔で俺も叫び返しながら、部員たちにアップをするよう促す。

今日はカラッと晴れた冬空。絶好のサッカー日和だ。

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