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バレンタイン特別小説

1日遅れなのは気にしない(笑)


ケンとサエが高2のときのバレンタインです。

つまり、2人はまだ付き合ってません。そんな2人のバレンタインをどうぞ★

「…ン、ケン、早く起きて!」

「う、う〜ん、寒い…」

うっすらと聞こえた声に反応すると、次の瞬間、俺の布団がふっとんだ。

いや、ダジャレじゃなくてさ、マジで。正確にはふっとばされたと言うべきか。

「ケン!起きなさい!」

「え〜、もう朝?寝た気がしないなぁ…」

眠い目を擦ると目の前にはサエの顔。今日も起こされたみたいだ。毎朝ご苦労様。

「ってアンタ、さり気にもう一回寝ようとしない!」「うぐっ!」

バレた。ふっとばされた掛け布団を再び掴んだところでバレた。

流石サエ、俺の数手先を読んでいるな…

「そんなバカなこと言わないで、さっさと起きた起きた!」

「え?口に出てた?」

「うん、完全に。そーゆー訳だからさっさと着替えて降りてきなさいよ!」

サエはそう言って俺の部屋を出ていく。

下から、「健人は起きた?」「ええ、起こしました!」なんていう母とサエのやり取りが聞こえる。

しょーがねぇ、起きますか。

よっ、と掛け声を掛けながらベットから降り、カーテンを一気に開ける。

瞬間、太陽の光が部屋の中を満たす。今日も無事に朝がやって来たようだ。

しかし、それにしても、

「…眩しい。」

薄いレースのカーテンまで一気に開けたから眩しいわけで、俺はそれを再び閉じてから、制服に着替え始める。

ネクタイを緩く結びながら机上の携帯で時計を見ると、

「ん?いつもより早い?」

いつもより30分ぐらい早い。何でだろう?

まぁ普段が遅刻ギリギリのラインという誉められるものではないが、それにしても、早い。

何だよ、あと20分は寝れたじゃないか…

欠伸をしながらブレザーを着て、携帯を取り、筆記用具以外なにも入っていないカバンと部活用具が入ったスポーツバッグを持って俺も部屋を出る。

ちなみに筆記用具以外なにも入っていないのはほぼ毎日だ。

俺はサッカーするために高校行ってるようなものだからな。ハッハッハ。

…お陰で常に赤点スレスレなのには触れないでくれ。








今日はなんだかおかしい。

起きて、飯食ったらサエに洗面所まで引っ張られて、俺が歯を磨いている間、

サエが俺の髪を何故だかセットする。

いつもは自分で適当にワックスつけたりつけなかったりセットしたりしなかったり、

要するに髪のことなんて気にはしないのだが…

「なぁ、なんで?」

「何が?」

「いや、サエが俺の髪をセットしてるこの状況。」

鏡越しに目を合わせサエに聞いてみる。

「んー、なんていうかな、強いて言えば『女の子の為』かな?」

「はぁ?」

「まーいーのいーの。ケンは世間とは違って今日が何の日か全く興味がないんだから。」

それだけ言うと、サエは再び俺の髪をいじりはじめる。

ちなみに俺だって今日が何日だか分かってるはずだ。2月14日だろ?

…うん、それだけ。14日ですけど。何かある?

今日はなんだったかと頭をひねりつつ、いつものようにサエを自転車の後ろに乗せて学校へ向かう。










異変に気付いたのは下駄箱からだった。

30分も早い校内というのは新鮮なもので、人が多い気がする。

…というか、いつも遅刻ギリギリで他に人がいないだけなんですけど。

フツーに学校に到着して、自転車を止めてサエと他愛もない話をしながら革靴を校内履きに履き替えようと、自分の靴入れのドアを開けた途端、

「うわっ!」

何かがいっぱい落ちてきた。よくよく見ると、ピンク色の箱?ハートマークなんてのもあるし…

「あらー、今年も相変わらず多いわねー…」

隣でその光景を見ていたサエがつぶやく。

「え?コレなに?なんかのドッキリですか?」

「ケン、まだ分かってないの…?」

はぁ、とため息をつくサエ。なんかよく知らんが呆れられたようだ。

「今日は!バレンタインデーでしょ!」

…ばれんたいん?

あぁ、あのバレンタインデーか。はいはい。なるほどね。

となると、この箱がなんだかも分かった。

「あー、そういうことかー。チョコもらったってことね。」

「そっ。いっつもケンはそういうことに無頓着なんだから…」

「なるほどねー。ぶっちゃけ、今日はプレミアの注目クラブ同士の対決の日ぐらいにしか思ってなかった。」

「相変わらずのサッカーバカだわ…」

で、この箱をどうしようか、なんて思ったけど、幸いにも学校のバッグが弁当しか収納していないことを思い出し、そこに詰める。

数としては5個ぐらいか?ていうか、よく5個も下駄箱に入っていたな…

そんな感じでチョコを収納し終えた俺は待たせていたサエの元へ行き、2年の教室へ歩きはじめる。

で、またまた異変。

歩いているとなんだか各方面から視線を感じるんだが…

も、もしや、刺客とか…?

ハァっ!と後ろを振り返ってみると、数人の女の子たち(下級生だろうか)がキャッと声を上げる。

んー、なんなんだ?

で、教室に入り、クラス全員との『副島が早く来るなんて今日は天変地異が起こる』『ふざけんなテメーら』というやりとりを終え、席に座って何の気もなしに机を揺らしてみた瞬間。

ガタゴト、ガタゴト。

昨日空にしたはずの机からなぜか音がする。しかもちょっと机が重い。

教科書とかは廊下にある個人ロッカーにぶち込んどいたから入っているはずはないのに…

と、手を伸ばして机の中を確認した瞬間、またまた箱が出てきた。それも今度は10個近くあるだろうか?

とりあえず全部出してみようと机の上に並べていくと…

「副島ぁ!それは俺らへのあてつけなのか!?」

「テメェ自分のモテ具合を俺らに見せつけようとしているんだな!?」

「とりあえず飛び降りろ!」

「ていうか1個ぐらい寄越せ!」

急に罵声が俺に向けられる。

「い、いや、ただ机の中に入ってたからしまうために一時おいてあるだけだって!」

「それでもお前は多いんだよぉぉぉぉ!やっちまえ諸君!」

「「「「「おぉぉぉぉぉぉ!」」」」」

と、男子が襲いかかってきた。なんか知らないけど隣のクラスのやつもいる。

「お、落ち着こうじゃないか諸君、話せばわかる…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

マジでこいつら襲いかかってきたよ。男に襲いかかられるとかすんごい嬉しくないんだが。

で、この混戦で辛うじて保つ意識のなか、最後に聞いた声は、「何なに!?俺も参加する!」と、この騒動に参加し始めた緑の声だった。










意識が戻ったのは1時間目の授業中。っていうか教師に起こされた。

あのゴタゴタのなか寝ていたらしい。サエにすげー呆れられたんだが…

で、バレンタインだが、なんだかんだあって、昼休みにもチョコをもらって、部活前にももらって、部活後にももらった。

同学年の子もいれば、先輩後輩もいて、ただ『受け取ってください!』と言った子もいれば『付き合ってください!』と言ってくれた子もいる。

ありがたくチョコはいただいたが、付き合うことに関しては俺は今部活を一生懸命やりたいわけでそっち方面には興味がなく、やんわりとお断りさせてもらった。

これも登校中に、サエに『断るときは優しく断るのよ!』なんてレクチャーされたおかげだ。

ちなみに緑はと言えば相変わらずのモテっぷりでチョコをゲットしまくっていた。(『すげぇな』といったところ『嫌味か!?』とサッカーボールをぶつけられかけたのは何故だろうか?)

そんな今は帰宅中。ありがたいことなのか、行きに何も入っていなかったカバンはパンパンになっていた。ぶっちゃけてしまうと、これは家族の胃の中に消えるんだけどね。

だけど、そんな俺だが、唯一自分一人で全部食べるチョコがある。

それは…

「ケン!」

家に帰ると、リビングで母や美穂と談笑していたサエが作ってくれたチョコだ。

毎年こうして俺にくれる。そしてそれがまたウマいのだ!

「ただいまー。いやー部活疲れたー…」

ドスン、と部活用バッグと普通のカバンを置く。なんか普通のカバンの方が重い気がするのだが…

「うわっ、お兄ちゃん、相変わらず尋常じゃないチョコの量だね…」

「あぁ、またみんなで消費しような。」

美穂と俺の、毎年恒例な副島家の会話。ちなみにサエもこの事実を知っているので特に口出しはしない。

「そうそう健人、冴子ちゃんが作ってきてくれたわよ。」

「おっ、待ってました!」

食卓の上に置いてある、可愛いピンク色の箱を見つける俺。

「そうよ、腕によりをかけて作ったんだからね!味わいなさい!」

ビシィッ、と俺を指差すサエ。

「ははーっ、ありがたく頂戴いたしますー!」

なんてとぼけながら手洗いうがいを済ませ、さっそくサエのチョコをいただく。

もぐもぐもぐ…

「うん、うまいっ!」

「ホント!?ありがとっ!」

「あぁ、やっぱりサエのが一番だな!」

あまりのうまさにチョコに伸びる手が止まらない。気づけば今年も速攻で完食した。

俺らは単なる幼馴染でこれが本命チョコとかではないけれども、やっぱり、サエからもらうと嬉しいものだ。

サエも笑顔だしね。俺はそれが、嬉しかったりして。






「もうこの2人、さっさと付き合っちゃえばいいのに…」

そしてこんな美穂の言葉が、1年後、実現しているとは夢にも思わなかった。

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