2人が見守る、2人。(前編)
時間軸は高校2年の冬です。
感想等お待ちしております。
なんだか、私、おかしいっ!
2月14日のバレンタインデーから、何故だか緑を意識しちゃってる!
このとき私には彼氏がいなかったので冴っちと交換しただけだったんだけど、放課後に緑が女の子からチョコを貰うシーンを目撃してしまって…
何故だろ、その時から、ずっと緑を目で追っちゃう!すんごい意識してる!
『緑、あの娘と付き合ったのかな~…』なんて、無意識で考えちゃうなんて、ホント重症だ。
冴っちにも『真理っち、なんかポワーンとしてるよ?』なんて言われちゃったし。
んん~っ、まさか、緑に恋なんて、ないないないっ!バカ騒ぎする友達だって!
…と必死に否定してみるけど、緑のことを考えちゃうのも事実。もしかしたら、そうなのかも…
どうした、俺、落ち着け!
2月14日のバレンタイン以降、坂上を目で追う回数が多くなった俺に気づいたのはつい最近。
どうしてだ、どうしてだ、どうしてだ!
バレンタインはありがたいことに(副島ほどではないが)チョコレートなるものを10個前後いただいたのだが、肝心の坂上からはもらってない。
『坂上からもらってない』という時点で俺は心がモヤモヤして、坂上には誰かあげるような男がいたのかとリサーチしたけれども、そんな影もないようだし…
坂上とは一緒にワイワイ騒げる気が合うクラスメイトじゃないのか!?ってか、まさか、俺は坂上に恋してしまったのか!?
…
少し考えたが、否定する要素が見つからない。そうなのか、そうなんだな…
「え?俺に相談?」
「そ、そうよ、悪い!?」
「いや、別にですけど…」
3月の中旬ごろ。放課後の教室で部活に行こうとしていた副島を呼び止めて、2月14日以来のこの変な感情について相談しようと私は意を決した。
冴っちに相談しようかとも考えたんだけども、緑のことをよりよく知ってそうなのは副島だと思ってコイツに相談することにしたのだ。
「んで、どうしたわけ?坂上が俺に相談なんてどういう風の吹き回し?」
部活バッグを机の上に置いた副島は、その辺から勝手に椅子を取って私の前に座った。
「う、うん、実は…」
私も椅子を取って語り始める。バレンタイン以来、緑に恋しているのかもしれないっていうことを長々と。
「…でさ、私だって、アイツのことは一緒にバカ騒ぎできるヤツぐらいにしか思ってなかったんだけど、あの日、チョコもらってるのを見て、緑に対してそれ以外の感情が芽生えちゃったんだよね…」
んー、と副島は唸ってから、ようやく言葉を発する。
「緑のことが好きなんだろ?」
ただそれだけ。
しかし、『緑のことが好きなんだろ?』というその問いかけは、いろいろとごちゃごちゃしていた私の心を一瞬で整理してくれた。
緑のことが、好き…
「そっか、好きなんだ…」
私がそうつぶやくと、副島はニコッと笑って「そうか、良かったな。」と言葉をかけてくれる。
そうか、こんな単純なことだったんだ。これまでの緑がバカ騒ぎできる友達とか今の緑はちょっと気になるとかヤツがチョコもらってたとか、そんなの関係ないんだ。
私は、緑のことが、好きなんだ。
「副島、ありがと!」
この後、副島が応援してくれると言ってくれたのでお願いし、2人で『緑を振り向かせよう!』なんて意気込んで第1回緑会議は解散した。
「え?私に?相談?」
「あー、んー、まぁ、ちょっとなー。」
「へぇ、珍しいこともあるんだねー。」
3月中旬。副島に『先部活行っててくれ!』とお願いし、放課後の教室で真壁に相談。
もちろん、あのバレンタイン以来の、坂上に対する感情についてだ。
「…なんか、分からないっつーか、これまではただ単に一緒に遊んで楽しい気が合うヤツぐらいにしか思ってなかったんだけど、今は勝手に目が追っちゃうというか、気になるというか…」
そうなんだー、と、つぶやいて真剣に考え込む真壁。少しして、やっと口を開いた。
「で、緑君は、真理っちのこと、好きなんでしょ?」
あっさりと、それだけ。
しかしその言葉は俺のモヤモヤを払拭させるに十分だった。全てぶっとばして、一番大事なとこだけ教えてくれた。
俺は、坂上が、好きなのか…
「そうか、坂上のことが好きなのか…」
俺がポツリと漏らすと、「そうだよ!そうなんだよ!」と、真壁は言ってくれる。
単純なことだった。坂上に彼氏がいるとかいないとかチョコあげたヤツはいるのかいないのかとかそんなことどうでもいいんだ。
俺、坂上のことが、好きなんだ。
「サンキューな、真壁!」
この後、真壁が「2人の仲応援するよ!」と言ってくれたのでお願いし、『坂上を振り向かせてみせる!』なんて意気投合して第1回坂上会議は閉幕した。
私の男性遍歴について、ちょっと話しておこっかな。
私には今までに何人か彼氏がいた。今はフリーだけどね。もちろん、初経験も済ませている。
自分は男にそれなりの人気があるということを(冴っちとは違って)認識しているので、男を落とす時に色気とかを武器として使ってきた。
だけど、落ちなかったのが1人だけいる。
それが、副島だ。
中1のとき、冴っちと仲良くなった私は冴っちの幼馴染ということで副島に引き合わせてもらった。
当時から副島は中1、いや、中学全体の女の子の注目を集めていて、1番人気みたいな感じ。
副島の隣にいた緑は『明るくて結構イケメンなヤツ』ぐらいにしか思ってなかったかも。
で、イケメンでサッカー一筋のクールな副島を『ちょっといいかも』なんて思った私は、冴っちと仲がいいということを最大限に利用して中1の終わりから中3の初めまで、それも彼氏がいるときにも関わらずアプローチを繰り返したのだが、副島は全然気づかないまま。
そして私も、副島と冴っちが2人でいるところを見ると、『あぁ、敵わない。』なんて冴っちに思ったものだ。
そのうちに私の副島に対する情熱が冷めて、ほかの彼氏を作ったり別れたりして、今に至るわけ。
彼氏が先輩だったこともあれば後輩だったこともあり、他校の人だったこともあれば、短いながら、大学生ってのもあった。
しかし私は、遊び人ではないが、いろんな人と付き合ってきたと思ってるけど、いつも変わらず緑とは仲が良かったし一緒にいた気がする。
何というんだろうか、気が合うというか、一緒にいて楽しかったの。
彼氏に『アイツと俺、どっちが大事なんだよ!』なんて詰め寄られて、答えられなかったりなんてこともしばしば。
そのくらい、緑と一緒にいるのは自然な流れだったというか、だから逆に今更緑に恋心を自覚するなんてのがおかしく感じられたのだけど…
もともと気になってた副島に背中を押されるなんて、ね?思ってもみなかったことだった。
んー、じゃ、俺の女性遍歴をちょっと紹介しておこう。
俺には彼女が何人かいた。今はフリーだけども。というわけなので初体験の方も済ませてある。
俺は性格も社交的だと自認しているし、容姿だって女性には困らない程度には持ち合わせているつもりだ。(重ね重ねいうが、副島は別格である。マジで。)
だからナンパだって大概成功したし、学校内での人気も(やはり副島ほどではないが)それなりにあったと思っている。
だけども、俺が狙った女性で、唯一俺に興味を示さなかったヤツがいる。
それが、真壁だ。
中学までは色恋沙汰など分からなかったのだが、サッカー部に入ったりしてだんだんと自分が人気があるということが分かると、可愛い女の子に興味が出てくるのは当然で、
その中でも学年1可愛い、いや、学校1と言われた真壁にちょっと惹かれた。
真壁の隣にいた坂上は、『気が強そうな、なかなかの美人』ぐらいにしか思ってなかったはずだ。
で、いつぐらいだったかなー、中2後半と中3前半ぐらいかなー、真壁にアプローチしたんだけども、真壁は俺がアプローチしていることに気づかなかった。
そして副島と真壁が仲良さげに一緒にいるところを見ると、『あ、ダメだ、副島に勝てない。』なんて思ったものだ。
そのうち真壁への(彼女にしたいとかそういう意味での)異性としての興味がなくなり、ほかの彼女を手当たり次第に作って別れて作って別れて、今こんな感じ。
彼女とした人物は結構幅広く、先輩後輩は勿論、部活のマネージャーやまさかの他校マネージャーなんてのもあったりしたし、高1の時には女子大生に声をかけられて付き合ったりもした。
こんな感じで自他ともに認める『遊び人』な俺だが、中1のころからずーっと坂上とは仲が良かった。
ウン、単純に気が合うんだよな。
俺がボケてアイツがツッコむみたいな、よく友達からは『夫婦漫才』なんて言われたりもした。
その当時は『何言ってんだよっ!』と笑いながら流していたが、今なら悪くないかも…
で、そんなこんなで彼女がいるときもよく坂上とは一緒にいたので、彼女から『あの女と私とどっちが大事なの!?』とすごい形相で言われ、
『あー、うーん、どっちなんだろ?』とか本当にわからなくてとぼけてみるとビンタされて別れる、ってパターンが何回かあった。それを目撃された副島には2週間ぐらいそのネタで引きずられて大爆笑されたので鮮明に覚えている。
要するに、坂上といるのは自然なことであったから、今更『好き』とか気づいても、なんかアレだよな、って話。
そしてそんな恋路を、真壁に助けてもらうっていうことも、なんか面白い。