A SISTER HAS A PART TIME JOB!
続きです。
感想や評価をよろしくお願いします。
居候生活3日目の今日は月曜日。
私がベッドで寝る番だったのだけれども、前日に試合で頑張っているお兄ちゃんを見て、お兄ちゃんにベッドを使ってもらった。
あんなに走り回っているのを見たんだから、ゆっくり休んでもらわないと!
というわけで、現在8時。皆で朝ご飯なうです。
「2人は今日の予定はー?」
イチゴジャムを塗った食パンを飲み込んで今日の予定を聞く。
「俺は、授業が2限と4限で、練習も無いし、まぁ授業もアレだし、実質暇な日だな。」
「ケン、ちゃんと授業には出るのよ?」
「ギクっ。」
あらららら、お兄ちゃんそれはいけませんねぇ。
学生の本分は勉強じゃないですか。
しかも、いくらサッカー部で試合に出ているといっても、お兄ちゃんは元々スポーツ推薦みたいなので大学に入った訳ではなく、普通に試験を受けて入ったので、普通の学生と同じような扱いをされているそうな。
つまり、ちゃんと授業に出て、レポートとか出して、試験受けて、ゼミやって、ってことです。なので勉強もしっかり頑張らなければ行けないらしいですよ!
「お兄ちゃん、しっかりしてよね。」
「そ、そういうお前はどうなんだ、美穂?今日は授業あるんだろ?」
「もちろん、お兄ちゃんとは違ってちゃんと出てるから!!!」
マジです。
私はしっかり出ています。ていうか出ないと授業についていけません。
あ、言ってませんでしたっけ。私は法学部に入っているのです。
なんか、法学部って、他の学部と比べて厳しめなイメージがありますけど、その通りなんです。
法律の授業が難しくて、でも試験はあるから、しっかり授業に出ないとヤバい、ってことですね。
「まぁ、お兄ちゃんとは違って、私はマジメってこと。」
「うぐー…」
なぜだか悔しそうな目で私を見るお兄ちゃんを尻目に、『ごちそうさま』と言って朝食を終える私。
この家から私の大学までは1時間ちょっとかかるので、同じ2限始まりと言っても、私の方が先に動かなきゃならないのです。
ていうかお兄ちゃん、私を自分と怠け者という同類だと思っていたんですね。なんか腹立つです。
というわけで、大学行って、授業受けて、ランチして、3限もまた授業受けて、友達とちょっとおしゃべりもして。
そしてこれから、バイトに行きます。
そうです、実は私、バイトをしているのです!えへん!どや!
…ちょっとどうでもいいことで調子乗りましたね、すいませんでした。
で、どういうバイトをしているかというと、これまたなんと、カフェのバイトなのです。おしゃれでしょ。
大学の近くではないんですけど、通学途中の駅にある、小さなカフェです。
駅自体もそんなに大きい訳ではないので、超忙しいなんてことはなく、のんびりかつしっかりやっております。
うーん、働いているのは、だいたい週に2〜3日ですかね。そんなにシフトに入らなくても、そんな大きくないとこなので、全然いいのです。
「こんにちはー!」
「おっ、美穂ちゃん、来ましたね。こんにちは。」
カップを拭きながら私を迎えてくれたのは、このお店のマスターである、香坂真治さん。THEダンディという感じの風貌だが、とても優しいのです!ちなみに年齢は…知らない。
「あら、美穂ちゃん、来たのね。」
「こんにちは!」
お客さんにコーヒーを持っていった帰りだろうか、私たちに気づいた香坂さんの奥さん、祐子さんがこちらへやってくる。
祐子さんはやさしそうなおばあさんという感じで、実際超やさしい。
そんなご夫婦がやっているカフェ、『DOOR』で私はバイトしているのです。
…え?なんで『DOOR』かって?
えーとですね、それはですね、はいはい、確か、うーんと、そうだなぁ、思い出せないだけで、…
…すいません、知りませんでした。後で聞いておきます。
そんなことを考えつつ、後ろのスタッフ控え室に行くと、もう既に誰かが到着しているようだった。
「白井先輩、こんにちは!」
「おー、美穂じゃん。ういっす。」
言葉遣いは実に男らしいが、女性です。ていうかウチのバイト、女性限定です。
で、こちらの方は、黒髪のショートが凛々しい白井薫先輩。
なんで私が『先輩』と呼んでいるかというと、実は、白井先輩は、高校の1個上の先輩で、大学も(学部は違うけど)同じなのだ!
高校のとき、特にやりたい部活とかが無かった私は、新入生の部活動見学期間の時に、ふと入った新聞部で、この白井先輩と出会った。
で、そのサバサバした感じにひかれ、そのまま入部したので、今年で4年目の付き合いになるのです。
高校時代のときもそうだけど、大学に入ってからも、ちょくちょく会って相談に乗ってもらったりアドバイスをもらったりしています。
ちなみに、ここのバイトも、白井先輩に紹介してもらいました。
ていうか、ここのバイト、香坂さん曰く『ウチは縁故採用だけだから。』とのことです。
つまり、今働いている人の推薦でしか、新しいバイトを取らないということみたい。なのでここで働いているバイトの人たちは、何らかのつながりがあるみたいだ。
私と白井先輩のような先輩後輩だったり、従姉妹とかだったり、そんな感じなのです。
「おい美穂、早く着替えろや。」
「あ、了解でーす!」
スマホをいじりっていた白井先輩にそう急かされたので、カバンをしまい、今来ている服の上から緑色のエプロンをつけて、はい準備完了!
「終わりました!」
「うーし、んじゃ行くかー。」
どうやら今日のバイトは私と白井先輩含めて2人だけみたいだ。まぁ香坂さんたち含め4人でお店を回すことは余裕なので全然心配ないです。
そんなかんじでバイトに精を出す私。
お給料をもらっているので、その分はしっかり働かねば、と思って頑張ってます。
お客さんの入りも普通だったので、そんなに忙しくもなく、かといって暇でもなく、というような状況が続いていた。
そんなこんなな午後7時。『DOOR』の閉店時間は午後8時なので、あと1時間。
閉店時間早くない?とも思ったが、その時間帯になるとお客さんなんて滅多にこないので、そのくらいで閉めるのがちょうどいい。
それに、香坂さん曰く、このカフェは夫妻の趣味みたいなものだから、あまり根を詰めすぎても…ということもあるらしい。
なんてことを考えながらカップの整理をしていたら、この時間には珍しい、新規のお客さんが来たようだ。
香坂夫妻と白井先輩はお客さんに提供するコーヒーや食事を作っていたので、私が応対に出る。
「いらっしゃいま…せ!?!?!?」
驚きすぎて、声が裏返ってしまった。
なんで、ここに来たんですか。
「おう美穂、働いているか?」
「なんだか、いい感じのカフェね。」
そこには、お兄ちゃんと冴子お姉ちゃんがいた。
「な、な、なんでいるの!?」
勤務中ということもあり、小声でそう聞くと、
「いや、だって、今日暇だったし。」
「そうね。しかもケンが、『そういや美穂のバイトしてるとこ、見たこと無いなぁ』って言ったから、私もそうだなぁと思って、思い立ったら即行動したのよ。」
「…」
いや、別に、来たから怒っているとか、むしろ怒っている訳じゃないんですよ。
ただ、身内にバイト姿見られるのが初めてで、なんか恥ずかしくて、なんとも言えない気持ちなんですよ。
そんな感じで、どうしようか、と私が動けない(ちょっと頭が混乱しているということもあるけれども)状況を、変だと思ったのか、キッチンから香坂さんが出てきた。
「どうしたの、美穂ちゃん?」
お兄ちゃんたちはそんな香坂さんを見ると、笑顔で、こう言ったのです。
「初めまして!妹がこちらでお世話になっています!」
で、午後七時半の現在。お客さんはお兄ちゃんたちだけ。
あの後、香坂さんたちとお兄ちゃんたちでなんだかんだ話が弾み、そこに白井先輩も加わって、お客さんが他にいないことをいいことに5人でおしゃべりしています。
そんな私は、まだバイト姿を見られるのが恥ずかしいので、キッチンの奥に引っ込んで食器を洗ったり、もうお客さんこないだろうということで食材の片付けや後処理をしたり、なるたけ姿を見せないようにしています。
そういえば、と思って、先ほど白井先輩に、『お兄ちゃんたちのこと知ってます?』と聞いたところ、『当たり前だろあんな有名なカップル、当時あの高校にいた全員が知っているわ』とさも当然というように返された。
お兄ちゃんたちが高校3年生のときに白井先輩は1年生だったのだけれども、それでも知っているということは、相当なものだったのだろう。
はぁ、と改めて2人のすごさを実感するとともに、私は思うのです。
早く、8時にならないかな…
「もう!なんで急に来たの!恥ずかしかった!」
というわけで白井先輩含め4人での帰り道、私はちょっと怒ります。
「いーじゃないか、別に。身内が働いているところは気になるだろ?」
白井先輩がそうフォローする。分かります、言ってることは分かるんですけど、でもやっぱり見られるのは恥ずかしいのです!
お兄ちゃんたちはアハハと笑っているだけ。
「そういえば白井さん、俺らこの後どこかで飯食ってくつもりだけど、白井さんも良かったらどう?」
駅が見えてきたところで、お兄ちゃんがそう白井先輩に聞きます。
「あー…」
白井先輩は何故か私の方を見てから、
「ありがたいですけど、ウチに帰ったら母が多分夕食作ってくれてると思うんで。」
「そっか。じゃあ、また機会があったら。」
そのまま改札をくぐり、電車の方向が逆ということで、別れる際にお兄ちゃんは、『妹のこと、よろしくお願いします』なんて言っていた。
そんな姿を見て、なんか、恥ずかしいのです、やっぱり。
すると、冴子お姉ちゃんが、私にだけ聞こえるように、言ってくれました。
「ケンは、美穂ちゃんのことが大事で、心配だから、今日バイト先まで行っちゃったり、白井さんにああいう風にお願いしているのよ。」
「え、そうなの?」
「そうだよ。だって私だって、弟のことは、心配は心配だからね。」
…そうなのか。
恥ずかしいとばかり思っていたけど、それも、お兄ちゃんが、私のこと心配してくれるからなのかな。
考えてみれば、大学生になってからのお兄ちゃんと、あまり関わったことが無かったかもしれない。仲が悪かったとかじゃなくて、単純に機会が無いという意味で。
じゃあ、今回のことも、お兄ちゃんなりに、私のこと、気にかけてくれていたのでしょうか。
そう思うと、確かに恥ずかしい気持ちもあるけど、それよりも、あったかい気持ちになりました。
ふふ、お兄ちゃん、ありがとう。