A SISTER WATCHED THE SOCCER GAME
例の副島美穂編続編です。
感想や評価のほうよろしく御願いします。
ー翌日。私の曜日感覚が間違ってなければ日曜日。
ていうか、いろいろあった昨日が土曜日なのだから、曜日感覚が狂う方がおかしいですね、はい。
そんなことを思いながらソファーの上で目を覚ます。
ソファーの向こうのキッチンからは誰かが作業している音が聞こえる。あ、冴子お姉ちゃんだ。
「おはよ、美穂ちゃん。よく眠れた?」
「うん、ぐっすり!」
そういえばいま何時だろう?
そう思って時間を確認しようと、自分のスマホがどこにあるかキョロキョロしていたら、冴子お姉ちゃんが察してくれたのか、時間を教えてくれた。
「今はね、八時半よ。」
「ほぉ〜…」
改めて、私、ぐっすり寝たなぁ。
多分昨日眠りについたのは日付が変わる前後だったと思うから、八時間半ですか。健康まっしぐらです。
そこで、私はあることに気づく。
「あれ?お兄ちゃんは?」
そうです。さっきからお兄ちゃんが見当たらないのです。いや、見当たらないのはまだしも、寝室や洗面所の方からお兄ちゃんがいるような音もしてこないのです。
まぁ、まだ寝ているんでしょう。
まったくもう、実家に住んでいるときと変わらないじゃないですか。
と、思ったのですが、
「ケンはね、今日は、大学のサッカーの試合があるから、朝早く家を出て行ったよ。」
なるほど。じゃあもう家にいないのですね。
どうりで音がしないと思いました。納得です。
そういえば、と昨日の夜の記憶を思い出します。
寝る前にお兄ちゃんは部屋を行ったり来たりして何かの準備をしていたと思いましたが、今日の試合のためだったのですね。
寝るのも割と早かった気がするし。ほほー、しっかりしてるじゃないですか。
なんてことを思いながら冴子お姉ちゃんが淹れてくれたコーヒーをズズズと飲んでいると、朝食の準備をしているお姉ちゃんが私に声をかけます。
「美穂ちゃん、今日ってなんか予定ある?」
「んー、何もないかなー。」
…悲しいほど何も無いです。遊ぶ予定も無いし。
そう答えると、冴子お姉ちゃんは私の方を向き、笑顔でこういいました。
「じゃあ、ケンのサッカーの試合、観に行かない?」
というわけではるばる隣の県までやってきました。目の前にはサッカーのグラウンドです。あ、ピッチっていうのか。
冴子お姉ちゃんの提案を承諾した私は、朝ご飯を食べて、身支度をして、お姉ちゃんと2人で1時間ちょっと電車に揺られてやってきました。
今日は大学サッカーのリーグ戦の試合なのだそう。
サイドライン沿いに座っている私から見て右側にはお兄ちゃんの大学の応援団、左側には相手の学校の応援団がいます。まだ試合前なのにドンチャンやってますね。感心です。
その他の観客と言えば、正直そんないないです。私たちみたいなのが数組と、暇そうなおじさんがちょっといます。でも冴子お姉ちゃん曰く、その暇そうなおじさんのうちのどこかにスカウトがいるそうです。
「じゃあ、お兄ちゃんって、スカウトとかから話があるの?」
「私も詳しくは知らないけど、何チームからは誘われているらしいよ。」
ほほー。やるじゃないですか。
もう大学4年の秋ということで、そろそろ卒業も見えてくる時期ですから、次のステップに進むということですね。
ということは、お兄ちゃんはプロサッカー選手となる訳ですか。妹として鼻が高いです。
「そういえば美穂ちゃんって、ケンの試合見たことあるの?」
「…ないかも。」
ちょっと思い出してみます。
…記憶にございません、はい。
そう言われると、お兄ちゃんの試合を見たことが無かった。
私たちは年が3つ離れているので、私が中学生ならお兄ちゃんは高校生といったように、同じ学校にいることが無い。今だけ、大学1年と4年ということで、同じ区分にいるのです。
まぁそういうことで、お兄ちゃんの試合に行くことはなかったし、来いとも言われなかったし、それで今まで来たような感じです。
じゃあ、今日、初めて、お兄ちゃんがサッカーしているところを見る訳ですね。
「あ、出てきた。」
冴子お姉ちゃんに言われてピッチを見ると、向こう側から選手が入場してきます。
お兄ちゃんを探します…いた。えんじ色のユニフォームの方の、一番後ろから出てきた人ですね。
遠くて良く見える訳じゃないけど、私が知っているお兄ちゃんとは違って、ピシッとしてます。
と思って隣を見ると、冴子お姉ちゃんは温かい目でお兄ちゃんを見守っています。そんな光景が微笑ましくて、私は、ふふ、と1人で笑うのです。
そうこうしているうちに、試合が始まりました。
サッカー観戦初心者なので、とりあえずお兄ちゃんの動きを目で追ってみます。
………
……
…
とりあえず、お兄ちゃんがちょこまかといろんなところに動いているのは分かった。
で、パスされたり、パスしたりして、攻撃している。ドリブルしたり、たまにシュートしたりもしている。
私に分かったのはそのくらいでした。とほほ。
…と思ってたら、お兄ちゃんのチームが、点を入れられた。
あーあ、なんて思っていたら、お兄ちゃんがいろんなチームメートのところに行って、何かを言っている。
いや、言っているというか、激励しているというか、叫んでいるというか。
それで、手を叩いて、大声出して、皆を鼓舞しているみたい。
そのまま試合が再開した後も、ボールが外に出るたびに、何かを指示したり叫んだり、プレー中も血相変えてボールを追いかけたり、パスよこせっていうジェスチャーしたり。
こんな熱くなっているなんて、なんか、あんまり見たことが無い、お兄ちゃんだ。
私が知っている、いつもの家にいるときの、ダラッとグダッとしているお兄ちゃんじゃない。
そう言えば、お兄ちゃんが大声出したり怒ったりしているの、見たこと無いかも。
きっと、大学4年間で、お兄ちゃんなりに何か変わったのだろう。
その後、お兄ちゃんの檄が効いたのか、チームは2点を入れて、逆転勝利した。
試合を見た後、冴子お姉ちゃんと近くのファミレスでご飯を食べて、ついでだからといって途中にある駅で下車してちょっとショッピングして、帰宅。
ふと、さっきの試合でみたお兄ちゃんのことを思い出して、冴子お姉ちゃんに聞いてみたら、お姉ちゃんもそう思っていたそうだ。
「だってケン、高校のときは、冷静というか飄々というか、そんな風にプレーしてたけど、ここ1年ぐらいでだんだんあんな感じになってきたんだよ。」
冴子お姉ちゃんも認める、はっきりとしたお兄ちゃんの変化。
サッカーのルールはよくわからないけど、私が知らないお兄ちゃんを見れたということだけでも、今日は面白かったと思うのです。
「ふふふ〜!」
「なんだよお前、気持ち悪いな。」
家に帰ってきたお兄ちゃんを見るなり、今日みたいな感じのお兄ちゃんもいたんですねぇとニヤニヤしてみたら、そう言われた。どいひーだ。
今日の晩ご飯のカレーのルーをお兄ちゃんだけ少なくしてやる。




