あなたに出会って 6
急展開パート2です。
感想や評価のほうよろしくお願いいたします。
それから、俺ら、俺と東さんは、いわゆる『セフレ』となっていた。
東さんは、俺に心を許してくれたのか、いつものハキハキさばさばした彼女とは正反対の、弱い彼女を見せてくれるようになった。
彼女的には、『強い女性』と言われることが、嫌なようで、そのようなことがあると、前の彼氏と別れたときのことを思い出してしまうらしい。
そして、俺が、それを忘れさせてあげる、といった感じである。
でも、『セフレ』の域は出なかった。
東さんは他に付き合っていた人がいたのかどうか知らないが、俺は、夏頃、会社の先輩に呼ばれていった合コンで知り合った他の会社の女の子(えりちゃん、という)と親しくなり、付き合うようになった。
その子は、俺が剣道に真剣に向き合っていることに理解を示してくれ、それを尊重もしてくれた。
前のような過ちを犯す心配はない。
剣道に打ち込むときは打ち込み、デートするときはデートを楽しみ、そして、たまに、『セフレ』として、そんな休日の過ごし方をして、俺の社会人一年目は過ぎていった。
社会人二年目を迎え、営業部はやはり俺が一番下のままだったが、仕事も一人である程度はできるようになり、上司や先輩からも次第に重要な案件をまかされ始めていた。
俺はその期待に応えるべく、必死で努力していた。
合間を縫っては剣道もし、もちろん付き合っている女の子とも続いていたが、やはり自由に使える時間は一年目よりは減ってしまい、その分、『セフレ』として東さんと2人で会う時間は減っていった。
東さん、どうしているのだろうか。俺が心配する義理はないのかもしれないけれども、気になる。
最近、真壁君と会う時間が減った。
真壁君の仕事が忙しいそうで、それは同じ社会人としてすごいと思うし頑張ってほしいとも思うが…
弱い自分をさらけ出せる相手である彼に会えないのが、寂しくて、どこか物足りなくて。
なんとも複雑な感情を抱いている。
真壁君と、セフレのような関係になってからは、彼氏はいない。
合コンに何度か誘われて行ってみもしたが、どこかで、相手の男性陣を真壁君と比べてしまい、結局帰宅する、というオチであった。
…会いたい。真壁君に、会いたい。
抱かれたいとかではない。会って、話を聞いてもらう、ただそれだけで、いいのに。
梅雨の時期の、大雨の日だった。
珍しく定時に上がれることになり、久しぶりにデートをしようと、彼女に連絡を取る。
「えり、久しぶりに2人で飯でも食わない?」
「うん、行く!」
彼女からいい反応をもらった俺は、スマホでどこかいい場所はないかを検索し、この辺では一番大きい都市にある、スペインバルをチョイスした。
店に入ると、大雨だというのに、人がたくさんいて、活気にあふれている。
「もっと静かなとこがよかったか?」
「ううん、こういうところの方が楽しいよ。」
「そっか、よかった。」
えりとそんな風に会話をしながら、ワインを飲み、スペイン料理に舌鼓をうつ。
「う〜ん、おいしい!」
「このパエリア、美味いなぁ…」
外は大雨のままだったが、久しぶりに恋人とも会え、楽しい時間を過ごしているということで、俺の心は晴れていた。
…ただし、快晴ではない。
少し雲が太陽を隠している程度の晴れ、とでも言おうか。
まだ、俺の心には、東さんが引っかかっていた。
最近会えていないので、近況はどうなのかとか、気になる。剣道クラブのときも顔を合わせるが、じっくり話している暇はないのだ。
「…どうした、秀?」
「ん、何でもないよ。ただ、外がすごい雨だなーって思って。」
「ね、だから私、梅雨って嫌なんだ〜…」
えりはそう言って、髪の毛のセットが大変だとかいろいろ、梅雨に対する愚痴を言い始める。
俺は笑って相づちを打ちながら、どこかでは、東さんのことを気にしている俺もいた。
そんなときである。
テーブルに置いていた俺のスマホに着信があったようだ。
見ると、『東七海』の文字。
心が跳ね上がる。どうにかそんな心を鎮めつつ電話に出る。
「はい、もしもし?」
『…たい…』
「え?」
『会いたい、あなたに会いたいのっ!』
「あ…」
『抱かれたいとかじゃなくて、真壁君に、ただ会いたいのっ!一緒にお酒飲んで、話聞いてもらいたいだけなの!』
東さんは大声でしゃべっているようだ。
バルの中は活気があるとはいえ、俺とえりの距離は近く、えりも東さんの電話越しの声が聞こえたようで、俺に怪訝そうな目を向ける。
だけど、俺は、迷わなかった。
「えり、ごめん。急用ができた。」
「え、ちょっと、秀!?」
ジャケットを着て、テーブルに一万円札を置き、傘とカバンを持って、バルから急いで出る。
「東さん!?今どこですか!?」
『…』
無言のまま。
どこにいるんだ、と思ったとき、東さんの電話越しに、初めて2人でサシ飲みしたときの居酒屋の特徴ある客引きの声が聞こえた。
どうやら、俺の家の最寄り駅の近くにいるみたいだ。
「東さん!?聞こえます!?」
『…真壁、君?』
「今そっちに向かってますから、どっか、屋根のあるところで待っててください!絶対、行きますから!」
『…うん。』
そういって一回電話を切って、駅へと走る。人ごみをかき分け、近道という近道を使い、駅にたどり着く。
幸運なことに、ちょうど急行電車が来ていたようだ。それに飛び乗って、自分の家の最寄り駅へと急ぐ。
途中駅の停車時間でさえ惜しい。でも、急行のおかげか、15分少々で着くことができた。
「…東さん!」
そう呟きながら、改札を出る。
天気は依然として大雨だ。
とりあえず、先ほど、東さんがいたであろう、居酒屋がたくさん立ち並ぶへと走っていってみる。
居酒屋の客引きの人に聞いたりしてみた結果、東さんらしき女性は確かにここを通ったそうだ。
電話をかけてみているものの、通じない。どこにいるのか、いろんな人に聞きつつ、東さんが行ったであろう方向へと足を走らせる。
どうやら、家とは反対方向の、少し高台になっている公園がある方向へと行ったようだ。
それで俺は確信した。東さんは、その公園にいると。
前に会ったとき言っていた。
『なにか嫌なことがあったり、ちょっと気分転換したりしたいときはね、あの公園に行って、ベンチに座ってぼーっとしているの。そうすると、眺めもいいし、空も綺麗だし、リフレッシュできるのよ。大学生のときからの私のお気に入りスポットなの。』
今日は、夜で、大雨が降っているから、眺めとか空が綺麗とかではないだろうが、きっとそこにいる。
公園へと続く坂を駆け上がり、公園の入り口からさらに高台の方へと道を上っていく。
駅からもう長いこと走っている気がする。息は上がってきたし、足の疲労も感じている。だけれども、俺は行かなくちゃならないんだ。
東さんに、会いにいかなくちゃいけないんだ。
そう思うと、もう動かないと思った身体が動く。あと少し、あと少し、そう言い聞かせながら、必死の形相で走る。すると、少し開けた場所に出た。
ベンチがいくつか並んでおり、傘をさした人影がぽつんとあるのが分かる。
こんな大雨の日に、ここに来て座ってるなんて、よほどの物好きじゃなきゃ、そんな人いない。
「東さんっ!!!」
大声で叫ぶと、人影はゆっくりと俺の方を向いた。
東さんだ。
俺は駆け寄って、傘とカバンを放り投げて、彼女を抱きしめる。
「こんな大雨の日に、外に出るなんて、危ないですよ…」
「真壁君、びしょ濡れになっちゃうよ…」
「俺のことはどうだっていいんです。どれだけ俺を心配させるんですか…」
東さんは、俺の胸に顔をうずめたまま。
「俺からすれば、あなたは弱い女の子なんですから。俺が、守らなくちゃ。」
そういうと、ハッと顔を上げる。
「どうして…私が弱いから、心配だから、守るって…」
ブツブツ何かを言う東さん。違う、俺が言いたいのは、そういうことじゃなくて!
スウッと息を吸って、言う。
「好きだから。」
「えっ…」
「東さんのことが好きだから、あなたの弱い面を見て、心配になって、守りたくなるんです!」
そうだ、俺が言いたかったことはこういうことなんだ。
東さんの近況が気になるとか、心配だとか、そういうのよりもっと深い想い。
いつの間にか、惹かれていたんだ。
腕の中で、俺を見つめる東さん。右手に握られた傘を離し、両手を俺の背中にまわす。
「私も、真壁君が好きで、会えなくて寂しくて、会いたかった…」
「東さん…」
そこから言葉はいらなかった。
雨に濡れることなど気にせずに、俺らは抱きしめ合い、キスを交わす。
これまで幾度かベッドの上で抱きしめ合ってキスをしてきたが、2人の想いがつながっている今回のとは、意味が違う。
そのまま、俺たちは、ずっと、そうしていた…