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特別な存在

秀と七海編はいったん小脇においといて…


本編主人公の2人のショートストーリーです。

時間軸としては、2人が社会にでて2年目のこと。結婚する前です。

ケンの2年目のシーズンが終わったときにプロポーズされるんですけど、その辺のお話は、『2人はきっと。』という別の小説の終盤で詳しく語られてあるので、よければそちらもご覧ください。

「ただいまー!」

玄関からケンの声が聞こえてくる。

平日の午後六時。今日は、定時で上がった私が先に帰ってきており、練習と取材があったケンが帰ってくるのを迎えることができた。

「おかえり、ケン。」

「おぅ、サエ、ただいま。」

靴を脱ぎ終えたケンはニコッと微笑むと、近寄った私に軽くキスをする。

「…んもうっ!早く手洗ってきてよね!ご飯食べるわよ!」

私はちょっと怒った口調をするけど、やっぱり、うれしい。






副島健人。

今を時めくサッカー選手であり、この名前を知らない人はいないであろう。

とあるJリーグのクラブに所属しているが、2年目ながらもスタメンに定着し、日本代表においても欠かせない存在となり始め、おまけにイケメン。

世の女性たちを虜にしている。

それは私の職場(女性下着メーカーなので社員は基本女性だ)も例外ではない。

『誰と付き合いたいか』なんていう話をすると、有名俳優やアイドルの名前が出てくるように、ケンの名前も出てくる。

ちなみに私がケンと付き合っているということはトップシークレットだ。職場の誰にも話していない。

合コンのお誘いが激しかったため、『お付き合いしている人はいる』と言っており、合コンに呼ばれないようにはしたが、誰とはまでは話していない。

知ってるのは、私とケンの家族と、緑夫妻と、ホントにそれくらいだ。

なので、『誰と付き合いたいか』なんていう話題になると、なんて答えていいか困る。

「私は○○かな~!!」「俳優の○○ね!あの映画面白かったよ!」

「○○もいいね~…」「でもやっぱり、私は●●!ダンスもできて歌も歌えるし、演技もうまいしカッコいいし!」

「あのグループの中ではやっぱり●●かなぁ~?」「えー、△△でしょー!?明るそうなところが惹かれるわ!!!」

で、お昼休み、食堂でその話題真っ最中である。

私は適当に相槌をうったりしてやり過ごしている。

「えー、でも私は副島健人かなー?」

友達の一人がこういうと、一斉に「「あ~、わかるー!」」と声が上がる。

「日本代表で活躍してるし、カッコいいしね!」

「私あんまりスポーツとか興味ないけど、副島がスポーツニュース出てたら観ちゃうわ」なんて友達もいる。

ちなみに、本人に『自分がイケメンとして騒がれている』ことを婉曲な言葉づかいでどう思ってるのか聞いたところ、『サッカーを好きになってくれる人のきっかけの一つとなればいい』らしい。

「あ、サエちゃんはどうなのよ?」「そうよ、聞いてるだけじゃだめよ~!!」

気づけば自分に回ってきていた。私は当たり障りなく答える。

「うん、私も副島選手カッコいいと思うよ。」

だよね~!と、周りが盛り上がる中、私しか知らないケンがあることに、ちょっとだけ優越感を覚えると同時に、ちょっとだけ胸が痛くもなった。

何故だろう?







今日は金曜日。定時で仕事は終わったので、そのまま帰ることにした。

みんなは金曜日ということで飲み会等の用事があるようだし、実際私も誘われたが、家でケンと2人でいるほうがいいので、お断りしたのだ。

そんなケンだが、先週の水曜日にあったカップ戦の試合で左足を負傷してしまった。幸い、そんなに重傷ではなく、1週間程度様子を見るだけで十分だそうなのだが、念のため明日土曜日の試合は回避ということになっている。

でも、昨日今日とクラブハウスに顔を出して足の検査やマッサージをして回復を早めようとしているみたい。ケン曰く、「俺はもう大丈夫なんだけど、監督やドクターが心配性でさ」、だそうな。

まぁ、監督やドクターの気持ちも分からないでもない。

あと1年を切ったワールドカップに向けた日本代表の主力として期待されているのだから、慎重にならざるを得ないだろう。

気づけば、私のスマホがカバンの中で振動している。ケンからのメールのようだ。

ふむふむ…

内容は、今日はマッサージだけの予定で午後早く終わるはずだったんだけど、取材があったことを忘れてて、私より帰りが遅くなりそうだ、ってことだった。

なら、そんなに急いで帰らなくてもいいみたいね。

普段はいつも2人でご飯を作って2人で食べている。どっちかが遅くなるって分かってる日は片方が作って待っているときもあるけど、今日は金曜日だし、明日2人ともお休みだし、一緒に料理しよう。

そう思った私は、会社の近くの駅の本屋に寄って、なにか面白そうなレシピがないか料理本を立ち読みすることにした。

…が、特にいいのはなさそうだ。家にある材料で何か考えようっと。

ついでなので、雑誌もチェックする。私が読んでいるファッション雑誌の新刊が出てたので手にとり、ついでにケン用に男性もののファッション雑誌を適当に手に取った。

ケンは、ファッションに無頓着だから、服は一緒に買い物に行ったときに私が選んだりしている。それが楽しみでもあるから全然いいのだけれども。

ま、今日の夜は、この雑誌を一緒に見て、今度出かけたときに買う服の目星でもつけとこうかな。

雑誌二冊を持った私はレジに向かおうとする。そのとき、週刊誌コーナーの表紙に「副島」という文字が小さく載ってたのに気づいた。

気になった私は、その雑誌をとり、どんな記事かチェックする。

…!!!

その記事は、『女子アナが狙うスポーツ選手』特集みたいなもので、野球や水泳など、いろんなスポーツ界からのイケメンと呼ばれる選手たちが話題にされ、女子アナの誰々がこの選手を狙ってるだとか、この2人はもしかしたらいい関係なんじゃないか、とかそういうことが書いてあった。

もちろん、ケンもその中に話題にされている。

彼女として、少しやきもちを焼きつつケンの部分の記事を読む。


「…一方、サッカー日本代表の副島健人(23、横浜)であるが、浮いた噂というのは全く聞こえてこない。我々編集部が総力を挙げ調べたにも関わらず、数多くの女子アナやレポーターが取材の際に彼と連絡先を交換しようとしたのだが、それに一回も応じていないことが分かった。副島はその端正なルックスから女性人気が高く、彼目当てにスタジアムに来る女性もいるという。ということは女性をとっかえひっかえしているのではないかと疑ったのだが、その様子はないようだ。彼を良く知るスポーツ記者によると、『副島君にはもう長い付き合いの彼女がいるか、それかゲイのどちらかだと思うよ』とのことであった。それほど、女性っ気がないということである。ともかく、日本代表が誇る新世代の司令塔には、女性関係(ゲイということならば男性関係?)でサッカーへの集中を削がれることはあってほしくない。それは我々編集部も同じ気持ちである。」


…なんか、ゲイ疑惑かけられてましたけど。

でも、ケンの人気があるとは知ってたけど、女子アナとかが狙っていたとは考えてもみなかった…

はぁ、こんなに人気なのか、私の彼氏は。

そう思うと、ケンがどこか遠い所にいるような感じがしてしまう。

そんなときに決まって、ケンはこう言ってくれるのだ。

「俺は、ずーっと、サエと一緒にいるよ。」

その言葉を思い出しただけで、私はにやけてしまう。

選ぼうと思えば女子アナだっていろんな女性を選び放題なのに、ケンはその中から私を選んでくれた。

私は、ケンの『特別』って思っても、いいのかな?











家に帰ると、そのすぐ後にケンが帰ってきた。

けがをしたとはいえども軽傷で、松葉杖などは使用しておらず、普通に歩いている。

そんな訳で、私たちはいつものようにご飯を作り(今日の夕食はベタにカレーだった)、食べて、片付けとかを終えた今、ソファーでコーヒーを飲みつつ2人でまったりしている。

今日買ってきたファッション雑誌を読みながらケンの服のことを考えたりしている。

「こんなファッションどうなの?私、コレいいと思うけどなー。」

「んー、よく分かんないけど、サエがいいって言うなら俺もそれでいいよ。」

こんな調子であるが。

日本代表ということで、必然的にメディアに注目される機会は多くなり、代表の際はスーツや代表のジャージだが、それ以外の取材のときは私服なので、下手な姿をさらす訳にはいかないと、私なりに気をつけているのだが、ケンはそんなことどうでもいいようだ。

…あ、『取材』で思いだした。

帰り道に読んだ雑誌のこと。

「ん、どうしたサエ?」

そんなことを考えていたら、ちょっとぼーっとしているように見えたのか、ケンがそう聞いてきた。

「ううん、なんでもないよ。」

そんな風に答えて、またファッション雑誌をめくる。

でも、やっぱり、気になった。

「…ねぇケン、私は、ケンにとって、『特別』?」

急にこんなことを聞いてきた私にケンは一瞬驚いたようだったが、すぐに微笑んで、私の身体をぎゅっと抱きしめる。

「あったり前だろ。サエは、俺の、『特別』だよ。」

「…ふふ。」

そうして、いつものように、キスをする。

私たちにとっては、こんな普通の時間が、お互いの存在で、特別となっているのだ。







「ねぇケン、明日ってお休みだったよね?」

「うん、お休みっていうか、療養ってことにはなってるけど、実質はお休みだな。」

「じゃあさ、…」

その後、『特別』であることを、ベッドの上で確かめ合ったのは、言うまでもない。

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