おさんぽジグロ
ジグロはぴょこぴょこ歩く。
ぴょこぴょこと音がするわけではないが、大きな後ろ足で飛び跳ねるように歩く姿は、ぴょこぴょこという擬音がぴったりだった。
目の前を行くジャックの足は長い。ジグロの背丈の倍はある。その長い足で大股に歩くから、ジグロは追いかけるのに一生懸命で、一生懸命歩くと、ぴょこぴょこになるのだ。
ぴょこぴょこ。
昼休みに、食後の散歩でもするか。と、言い出したのはジャックだった。ジグロは喜んで彼のあとについて来た。磨きあげられた廊下に、ジグロの緑色の顔が形なくぼんやりと写っている。それはジグロが歩く度に、くっついたり離れたりした。
ジャックはしょっちゅうジグロを置いて、エースと二人で外回りに出かけてしまう。エースの守護竜は一緒に連れて行ってもらえるのに、ジグロはポケットに入らないからと、いつも留守番なのだ。
――つまんない。
基地の外で、誰かにジグロの姿を見られたら騒ぎになるからだ。と、ジャックは言うが、ジグロだってぬいぐるみのフリくらい出来るのだ。
ニャントロ星人なんかに、負けないのだ。
ジグロだってジャックの守護竜なのに。
「ゥッキャ」
待って、と呼んで、角を曲がったジャックを追いかける。
ジグロの言葉はマスターの彼にしかわからない。
急いで曲がった先で、思い切りジャックの膝裏に体当たりした。
「痛っ!」
ジャックが膝カックンで転けるのと同時に、ジグロは後ろにころん、と転がった。
「何してんだ、ジグロ」
「ウッキャ、ウキャゥキャ」
仰向けに転がったジグロを覗き込むジャックは呆れた顔が少しだけ笑っている。
ジグロは必死に手足をじたばたさせた。
早く起きないと、また置いてきぼりになるかも知れない。
しかし、ジャックはしょうがねぇな。と、呟きながら、ジグロを抱き上げた。
ジャックの肩に顎を乗せ、ホッと一息つく。
「そろそろ戻るか?」
ジグロがゥキャ。と、返事をすると、彼は踵を返して歩き出した。
「ウーキュ?」
だが遠ざかる景色におかしなものを感じて、ジグロは首を傾げる。
「なんだ?」
ジャックは聞き返し、はたと立ち止まった。
右を見て、左を見て、前を見て、後ろを見る。どちらを見ても、同じように両の壁に等間隔にドアが並んでいた。もう一度前を見て、ばつが悪そうに呟く。
「迷った」
「ゥキャ」
基地は意外と広いのだ。
「ま、いっか。適当に行きゃ」
そう言って、左に曲がる。
そっちじゃないと思ったが、ジグロは言わなかった。
もう少し、こうしていたいから。
散歩はつづく。
〔おわり〕