二人の影
はじめまして、きゃどんです。
この作品は、「もし大切な人が何度も死んでしまったら」というテーマから生まれた、百合×タイムリープ作品です。
明るく人気者だけど、たった一人にだけ重すぎる感情を向ける少女・みお。
人付き合いが苦手で、少しずつ世界を広げていく少女・ゆう。
これは、“主人公「ゆう」が死ぬたび時間を巻き戻す少女”の物語です。
最初は普通の青春だったはずなのに、繰り返すたび少しずつ壊れていく関係を楽しんでもらえたら嬉しいです。
朝比奈みおは、昔から「一人でいる」という感覚がよく分からなかった。
教室に入れば誰かが声をかけてくるし、自分から話しかければ大抵の人は笑って返してくれる。放課後になれば自然と誰かと寄り道する流れになるし、休日だってスマホは通知で埋まる。
それが普通だった。
だから最初、窓際でいつも一人のゆうを見た時も、「変な子だな」くらいにしか思っていなかった。
昼休み。
周りが騒いでいても、ゆうだけは別の世界にいるみたいだった。
イヤホンを片耳だけつけて、本を読んでいる。
誰かが話しかければ応じる。でも会話を広げようとはしない。
愛想が悪いわけじゃないのに、近寄りづらい。
なのに妙に目を引いた。
多分、顔のせいだと思う。
女子にしては背が高くて、肌が白くて、伏せた睫毛がやけに長い。ぼんやり窓の外を見ているだけなのに、なぜか視線を奪われる。
本人は絶対、自覚してないけど。
「ね、ゆうっていつも一人だよね」
ある日、私は何となくそう声をかけた。
ゆうは本から目を上げて、少し間を空けてから答える。
「別に、一人が好きなだけ」
「ふーん」
そこで会話は終わった。
普通なら。
でも私は、そのまま勝手に隣へ座った。
「みお、ここで食べよーっと」
「……なんで」
「なんとなく?」
ゆうは露骨に嫌そうな顔をした。
けれど、本気で追い払う気はなさそうだった。
そこからだった。
私が勝手に話しかけて、ゆうが適当に返す。
その繰り返し。
最初の頃のゆうは、本当にそっけなかった。
「今日暑くない?」
「そうだね」
「反応うっす」
「みおが元気すぎるだけ」
とか。
「ゆうって絶対モテるでしょ」
「興味ない」
「なにそれかっこいい」
「別にかっこつけてないし……」
とか。
会話が続いてるのか終わってるのか分からない感じだった。
でも、私はそれが妙に楽しかった。
クラスの友達といる時は、自然と“盛り上げる側”になることが多い。
沈黙ができれば話題を探すし、場が静かになれば笑わせようとしてしまう。
けれど、ゆうの隣では無理に喋らなくてよかった。
ぼーっとジュースを飲みながら、一緒にスマホを見てるだけの時間すら妙に落ち着いた。
ある日の放課後。
みおは机に突っ伏したまま、大きくため息をついた。
「つっかれた……」
「寝不足?」
「昨日さ、深夜まで通話してた」
「また?」
呆れた声。
その言い方が少しおかしくて、みおは顔を上げた。
「なにその反応。彼女みたい」
「は?」
ゆうが眉を寄せる。
みおはけらけら笑った。
「冗談だって」
「……そういうの、軽々しく言わないで」
少し低い声。
その瞬間だけ、空気が変わった気がした。
みおは一瞬きょとんとして、それから「ごめん」と小さく笑う。
ゆうは気まずそうに視線を逸らした。
その横顔が、夕陽に照らされて赤く見えた。
変に綺麗で、みおは少しだけ息を止める。
——あ、やばいかも。
理由は分からない。
でも今、自分はたぶん、思っていたよりずっとゆうのことが好きだった。
「……帰ろ、アイス奢って」
誤魔化すみたいに立ち上がる。
「なんでみおが奢られる側なの」
「後輩思いだから?」
「同級生でしょ」
そんなくだらないやり取りをしながら、二人で校門を出る。
夕方の風は少しぬるくて、遠くで運動部の声が聞こえていた。
コンビニまでの道を並んで歩く。
沈黙。
でも、不思議と気まずくない。
みおは隣を歩くゆうをちらりと見た。
夕陽が横顔を赤く染めている。
綺麗だな、とまた思った。
その時。
交差点の向こうで、誰かの叫び声が響く。
反射的に顔を上げた。
赤信号。
曲がってくる車。
近すぎるタイヤの音。
一瞬だった。
「ゆう!」
叫ぶ。
次の瞬間。
視界から、ゆうの姿が消えた。




