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国家の時間

研究室は静まり返っていた。


床には隼人の体。


さっきまで笑っていた友達が、もう動かない。


俺は隼人の肩を揺らす。


「……隼人」


返事はない。


遥が泣きながら言う。


「起きてよ……」


「隼人……」


時間管理局の男は、その光景を静かに見ていた。


「残念ですが」


「実験は成功しました」


俺は振り返る。


「成功?」


男は淡々と続けた。


「この研究は国家管轄の医療研究です」


「もともと政府のプロジェクト」


「君たちも同意書にサインしている」


黒崎が怒鳴る。


「騙しただろ!」


男は首を振る。


「説明はした」


「ただ」


「出力の詳細は言っていないだけです」


遥が叫ぶ。


「そんなの詐欺じゃん!」


男は興味なさそうに言った。


「言葉遊びですね」


俺の拳が震える。


「……命だぞ」


男は凛を見る。


ベッドで眠る少女。


その頭の上。


残り15年


男は言った。


「一年前」


「この少女の寿命は 残り一年 でした」


「だが今は十五年」


黒崎が息を呑む。


「……本当に」


男は続ける。


「寿命移動技術は完成に近い」


「これがあれば」


「国家は寿命を管理できる」


遥が言う。


「管理って……」


男は微笑んだ。


「長く生きる人材」


「短くてもいい人材」


「社会を最適化できる」


研究室の空気が凍る。


俺は理解する。


「……選ぶってことか」


男はうなずく。


「そうです」


「価値のある人間に時間を与える」


「価値の低い人間から時間を回収する」


黒崎が怒鳴る。


「狂ってる!」


男は少しだけ笑った。


「違う」


「合理的です」


そのとき。


機械が小さく音を立てた。


ピッ


ピッ


俺たちは振り向く。


凛の指が動いた。


遥が叫ぶ。


「……え」


「今動いた!」


黒崎が近づく。


「意識が戻る……?」


モニターが反応する。


心拍が上がる。


凛の目が、わずかに開いた。


俺は息を呑む。


凛がかすれた声で言う。


「……ここ」


「どこ……?」


遥が泣きながら言う。


「凛!」


「大丈夫!?」


凛はゆっくり俺を見る。


その目はまだぼんやりしている。


そして小さく言った。


「……隼人?」


俺は答えられない。


時間管理局の男は静かに言った。


「素晴らしい」


「覚醒確認」


黒崎が睨む。


「この子は実験体じゃない」


男は答える。


「違います」


「成功例です」


その瞬間。


俺の中で怒りが爆発した。


「ふざけんな!」


俺は男の胸ぐらを掴む。


「隼人は死んだんだぞ!」


男は全く動じない。


「彼の時間は有効に使われました」


俺は殴ろうとする。


そのとき。


警備員が俺を押さえる。


男は静かに言った。


「彼の死は国家の資産です」


「無駄ではない」


俺は叫ぶ。


「そんなわけあるか!」


男は俺を見て言った。


「君は怒っている」


「だが」


「この研究が完成すれば」


「何万人も救える」


研究室が静まり返る。


男は最後に言った。


「一人の時間で」


「多くの命を救う」


「それが国家です」


俺は隼人を見る。


もう動かない。


俺の中で一つの考えが生まれる。


もし。


寿命を渡せるなら。


もし。


俺の時間で誰かを救えるなら。


俺は凛を見る。


凛の頭の上。


残り64年


その数字を見ながら、俺は思った。


隼人。


お前の時間。


無駄にしない。


絶対に。

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