十秒の嘘
地下研究室。
白いライトの下で装置が静かに光っている。
黒崎は装置を調整しながら言った。
「心配はいりません」
「移動する時間は 十秒ほど です」
隼人が笑う。
「十秒?」
「なんだよ」
「それだけ?」
黒崎はうなずいた。
「適性検査のための微量実験です」
遥が言う。
「本当に安全なの?」
黒崎は短く答えた。
「もちろん」
隼人は肩を回す。
「十秒くらいなら余裕だな」
俺は装置を見る。
嫌な予感が消えない。
「隼人」
俺は言った。
「やっぱりやめよう」
隼人は笑う。
「ビビりすぎ」
「十秒だぞ?」
そして手を装置に置いた。
黒崎が装置を起動する。
低い音。
青い光。
隼人の体が少し震える。
「……お?」
数秒。
光が消えた。
黒崎が言う。
「終了です」
隼人は笑った。
「なんだよ」
「全然余裕——」
その瞬間。
隼人の体が崩れた。
「隼人!」
俺は駆け寄る。
隼人は床に倒れている。
呼吸が荒い。
「……なんだよ」
「これ」
俺は隼人の頭の上を見る。
寿命。
残り12秒。
「……は?」
俺の声が震える。
遥が叫ぶ。
「どういうこと!?」
黒崎の顔が青くなる。
「そんなはずは」
「十秒の移動のはずだ」
隼人が苦笑した。
「十秒って……」
「ほぼ全部じゃねえか」
俺は叫ぶ。
「何したんだ!」
そのとき。
研究室のドアが開いた。
ゆっくりと拍手が響く。
「見事ですね」
スーツの男。
時間管理局の男だ。
隣には数人の職員。
男は静かに言った。
「実験成功」
黒崎が叫ぶ。
「お前……!」
男は微笑んだ。
「少し出力を調整させてもらいました」
俺は理解する。
「……わざとか」
男はうなずく。
「国家のためです」
遥が怒鳴る。
「人殺し!」
男は平然としていた。
「違う」
「合理的な実験です」
俺は隼人を支える。
隼人の数字。
残り8秒
男は凛を見る。
そして言う。
「一人の時間で」
「一人の命が救われる」
「素晴らしい研究でしょう?」
俺は立ち上がる。
怒りで体が震える。
「お前」
男は少し楽しそうだった。
「怒っているのですか?」
「当然でしょう」
「友人ですから」
俺は叫ぶ。
「命だぞ!」
男は冷たい声で言った。
「命は資源です」
研究室が静まり返る。
男は続けた。
「この世界は寿命で価値が決まる」
「ならば」
「時間を管理するのは国家の役目です」
黒崎が言う。
「ふざけるな」
「人の人生だ」
男は笑う。
「だからこそ」
「我々が管理する」
そのとき。
隼人が小さく言った。
「……悠斗」
俺は振り返る。
隼人の数字。
残り3秒
隼人は笑った。
「なんかさ」
「すげえ人生だったな」
「短くなったけど」
俺は叫ぶ。
「しゃべるな!」
隼人は凛を見る。
「この子」
「生きるんだろ?」
俺はうなずく。
隼人は小さく言った。
「じゃあ」
「いいか」
そして最後に言った。
「ちゃんと生きろ」
数字は
0
になった。
研究室は静まり返る。
男は凛を見る。
頭の上の数字。
残り64年。
男は満足そうに言った。
「成功です」
その瞬間。
俺の中で何かが壊れた。




