適正
「適性がある?」
隼人は笑った。
「俺に?」
黒崎は装置の表示を見つめている。
さっきまで冗談みたいな空気だったのに、
急に部屋の空気が重くなった。
「珍しい数値です」
黒崎が静かに言った。
「非常に強い」
「すごいの?」
隼人が聞く。
黒崎はうなずく。
「寿命を見る力は稀です」
「ですが」
「それを扱える人間はさらに少ない」
俺は聞く。
「扱えるって…」
黒崎は装置を持ち上げた。
「寿命を移動させるには」
「媒介が必要です」
「媒介?」
「適性を持つ人間」
隼人は笑った。
「なんか漫画みたいだな」
「俺が能力者?」
俺はなぜか笑えなかった。
凛の頭の上を見る。
残り362日。
その数字が妙に重く感じる。
黒崎は言う。
「もちろんすぐに実験するわけではありません」
「まだ安全性が確認されていない」
隼人は肩をすくめる。
「よかった」
「危ないのは嫌だからな」
そのとき。
コンコン。
ノックの音。
ドアが開いた。
スーツの男。
昨日の 時間管理局の男 だ。
「お邪魔します」
冷たい声。
男は部屋を見回す。
「随分賑やかですね」
黒崎は落ち着いた声で答える。
「学生の見舞いです」
男の目が隼人に向く。
「そうですか」
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
男の視線が鋭くなった。
そして凛を見る。
「……まだ眠ったままですか」
黒崎は言う。
「ええ」
男は静かに言った。
「研究の進捗を確認したい」
「国家としては」
「この研究が危険でないことを証明する必要があります」
黒崎は少し笑う。
「危険?」
「人を救う研究ですよ」
男は答える。
「人の寿命を操作する研究です」
「社会を崩壊させる可能性がある」
沈黙。
隼人が小声で言う。
「なんか怖いな」
俺も同じ気持ちだった。
男は続ける。
「近いうちに」
「実験のデータを提出してください」
「もし成功しているなら」
「国家管理下に置きます」
黒崎は答えない。
男は去っていった。
ドアが閉まる。
しばらく誰も話さない。
隼人が言った。
「なんか」
「とんでもない研究なんじゃないの?」
黒崎は装置を見る。
そして小さく言った。
「時間がない」
「え?」
俺が聞く。
黒崎は真剣な顔だった。
「政府はこの研究を止める」
「もしくは奪う」
「その前に」
黒崎は凛を見る。
「私はこの子を救いたい」
隼人が言う。
「でも実験って危ないんだろ?」
黒崎は正直に答えた。
「可能性はある」
「ただ」
「小さな実験なら」
「安全な範囲でできる」
俺の胸がざわつく。
黒崎が言う。
「隼人君」
「少し協力してもらえませんか」
隼人は俺を見る。
「どうする?」
俺はすぐ答えられなかった。
でも隼人は笑った。
「まあ」
「こいつのためならいいか」
隼人は凛を見る。
「この子助かるかもしれないんだろ?」
黒崎はうなずく。
「理論上は」
隼人は言った。
「じゃあやろう」
「簡単な実験なら」
その言葉を聞いた瞬間、
胸の奥が強く締め付けられた。
なぜか分からない。
でも——
やめた方がいい。
そう思った。
俺はまだ知らない。
この実験が
事故になることを。
そして数日後、
凛の寿命が増え、
隼人の時間が
消えることを。




