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時間を動かす装置

「寿命が……移動する?」


俺は思わず聞き返した。


白衣の男は静かにうなずく。


「理論上は可能です」


「人の寿命は、ただの数字ではない」


「エネルギーのようなものなんです」


俺は凛を見る。


ベッドで眠る少女。


頭の上には数字。


残り363日。


「もし誰かの時間を渡せたら」


医者は言う。


「この子は目を覚ます可能性があります」


俺は黙る。


「……誰かの時間って」


「その人はどうなるんですか」


医者は少し笑った。


「当然、減ります」


「場合によっては」


「死ぬでしょう」


空気が少し重くなる。


そのとき。


廊下から声が聞こえた。


「ここですね」


低い声。


スーツの男たちが病室の前を通り過ぎる。


胸のバッジには小さく文字が書かれていた。


時間管理局


医者はため息をつく。


「面倒な人たちです」


「彼らはこの研究を止めたい」


「なぜ?」


俺が聞く。


医者は凛を見た。


「もし寿命が移動できるとしたら」


「社会がどうなると思います?」


俺は考える。


この世界は寿命で動いている。


短い寿命のものは価値が低い。


長いものは高い。


もし——


寿命を渡せるなら。


「……金持ちが寿命を買う」


俺が言う。


医者はうなずいた。


「そう」


「世界が壊れる」


そのとき。


突然ドアが開いた。


「失礼します」


スーツの男が立っていた。


三十代くらい。


冷たい目。


「研究責任者の 黒崎先生 ですね?」


医者は答える。


「そうですが」


男は部屋を見回した。


そして俺を見る。


「学生ですか?」


「見舞いです」


俺は言う。


男は少しだけ笑った。


「そうですか」


「では長居はしない方がいい」


「ここは近いうちに調査対象になります」


黒崎は肩をすくめた。


「研究を止めるつもりですか?」


男は答えない。


ただ言った。


「人の寿命を扱う研究は」


「国家の管理下に置かれるべきです」


そして去っていった。


部屋が静かになる。


黒崎がつぶやく。


「……もう時間がないですね」


「時間?」


俺が聞く。


黒崎は机の引き出しを開けた。


中から小さな装置を取り出す。


手のひらサイズ。


金属のリングのようなもの。


「これは?」


「試作機です」


黒崎は静かに言う。


「寿命移動装置」


俺の心臓が強く鳴る。


「……本当にできるんですか」


黒崎は凛を見る。


「まだ完全ではありません」


「ですが」


「可能性はある」


俺は言う。


「もし成功したら」


「凛は助かるんですか?」


黒崎は少し黙った。


「……理論上は」


「ただし」


「大きな問題があります」


「何ですか」


黒崎は俺を見た。


「誰の時間を使うか」


俺は言葉を失う。


そのとき。


俺のスマホが震えた。


メッセージ。


隼人


今から病院行くわ

見舞い付き合う


俺は画面を見る。


嫌な予感がした。


黒崎が聞く。


「友達ですか?」


「……はい」


黒崎は少しだけ考えた。


そして言った。


「ちょうどいい」


「君の友達にも」


「寿命が見えるか聞いてみましょう」


その言葉に、


なぜか胸がざわついた。


俺はまだ知らない。


数日後、


この研究の最初の犠牲者が


隼人になることを。

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