第六話「特異点」
「どうやら、この世界に“特異点”が現れた。その事を伝えるためさ」
開口一番、学園長であるノエルはいつになく真剣に、かつ、どこか神妙な面持ちでそう告げた。
その場にいる教員達は皆、投げかけられた言葉の意味を飲み込めないためか、もしくは、言葉自体は理解出来てもそれが腑に落ちないためなのか、表情を強張らせたまま口をつぐみ、黙りこくっている。
“特異点”。要約すれば、“例外”。言葉の意味そのものは多義的だが、少なくともレヴリにおいては、古来よりこの地に存在しているとされる常識や法則から逸脱した事象を指すことが多い。それが“現れた”とは、一体どういう事なのだろうか。
「数週間前から、突如として各所に凶暴化した書物喰らいが出現し始めたことは……無論、君達も知っているね?」
学園長はそう続けると、背後のスクリーンに一つの資料を映し出す。それはこの世界――レヴリ全土のおおまかな地図と、その地図内に無数に書き込まれた、凶暴化した書物喰らいの目撃情報だった。
この学園の位置するところは中央部。東西南北、いずれの地方へ赴くにも地理的な労力や所要時間に大差が無いため、奇しくも、今回の事象を一望するには好都合な立地条件であった。
「――っ! こ、こんなに……!?」
思わず、驚いたナツメが声を上げる。それから、彼はハッとしたように、慌てて自身の口元を片手で覆った。
「……うむ。至極真っ当な反応だよ。これは前代未聞の異常事態だ」
ノエルは難しそうな顔色を崩さず、演台に備えたノートパソコンを操作する。薄暗い部屋の中でカチカチという無機質なクリックの音が響き、画面を見つめる瞳は、電子機器特有の青白い光に照らされ、その碧色をぼんやりと反射させていた。
「大体二週間前くらいから先週にかけて……かな。天陽君とマイ君には、この件で各地の視察を頼んだんだ。少しでも手がかりになるような情報を掴めないものかと、土壌や水源の調査を中心にね」
彼女の説明に、リツカとマイが短く頷く。他の教員の中には、そもそも二人がそのような任務を引き受けていた事自体を知らない者もいたため、驚いた反応も散見された。
「し、視察……って、こ、この広範囲を……ですか……!?」
「いやあ〜、さすがにリツカ君と分担はしたよ? ねっ?」
ふんわりとした純白の髪の毛と、額から生えた長い角が印象的な一人の教員がマイに尋ねる。そして、彼女から話を振られたリツカも苦笑いを浮かべつつ、それに答えた。
「ええ。しかし、なかなかに骨が折れましたけどね……ははは……」
なるほど、特に収穫の無かった調査ってこれの事か――と、話を聞いたヒトキは人知れず納得する。改めて映し出されている地図を注意深く見てみると、確かに、今日調査を行ったばかりのあの“立入禁止区域”には何の記載も無かった。
「あわわ……知っていたら、私も何かお手伝いをさせていただきたかったです……!」
「ふふっ、ありがと、ユノちゃん。その気持ちが嬉しいよ」
無垢な彼女――ユノの労りの言葉に、マイは優しく微笑んだ。緊迫した雰囲気の中で、少しだけ場の空気が和む。
「ただ……この資料を見てもらえれば分かる通り、持ち帰ることの出来た情報は凶暴化した書物喰らいの亡骸ばかりで、土壌や水源といった環境に関するものは皆無。驚くほどに、何の異常も検出されなかった」
依然として深刻そうな口振りでノエルが状況を報告すると、再び、その場の一同の視線は演台に立つ彼女へと向けられる。困惑のためか、今度は先ほどのものとは異なる、別のどよめきが小さく上がった。
魔物を取り巻く環境に異常は無い。されど、実際に事は起きている――もはや何らかの超常現象とでも言われない限り、この事象への納得は困難である。
「はぁい、ノエちゃん学長。それって、周りの状態はいつも通りなのに、何故か書物喰らいだけがおかしくなっちゃってる〜ってことですか?」
「いかにも」
控えめなどよめきの中、顔よりも少し低い位置で軽く挙手をしながら、薄く明るい金髪に澄んだ青色の瞳をした教員――オサキが普段通りの、なんとも緊張感の無い脱力した口調で問う。対する学園長は、これが平常と言わんばかりに物ともせず、至って普通に、真剣なままで返答をした。
「わお、確かにそれは妙ですねぇ」
「な、何が起きているんでしょう……」
相変わらず自身のペースを保ったままの彼女と、その二つ隣の席で不安そうに怯えるナツメ。二者の間に挟まれているリツカが、大丈夫ですよ、と彼を安心させるべく穏やかな言葉をかけた。
「回収した亡骸から分かる範囲だけでも、これらの書物喰らいの性質は明らかに普通ではない。……それはもう、我々の知っているものとは酷くかけ離れていてね」
そう言いながらフラリと演台を離れ、映し出した資料の前をゆっくりと横切るノエルの靴音が、静かな室内でいやに響く。黒いリボンで束ねられた長くしなやかな生成色の髪が、コツコツと床を鳴らす音に合わせて僅かに波打った。
「にもかかわらず、“どうしてその状態になったのか”を突き止めるまでには至らなかったんだよ」
彼女は会議室の隅――演台の真横に設置していた自身の座席へと歩み寄ると、そこに置いてあったタブレット端末を静かに手に取る。それから、教員一同が見守る中、重々しく口を開いた。
「――さて……前置きが長くなってしまったが、ここからが本題だ」
凛と細められた碧色の瞳が、一寸の迷いもなく虚空を射抜く。
そのただならぬ雰囲気と、これから話されるであろう内容に身構えたその場の全員が、思わず固唾を呑んだ。
「今日、あの微睡の森にも書物喰らいの変異個体が現れた。数ある事象の中でも、これは特に由々しき事態であり、早急に手を打たねばならない」
――微睡の森。そこは平和を絵に描いたような穏やかな場所であり、本来であれば書物喰らいはおろか、気性の荒い生物すら生息していないはずの地だ。
その安全性から、専ら駆け出し冒険者や討伐者達が最初の任務を行う場としても広く知られている。ここ、セントーレア学園の生徒達も度々、授業で扱う素材の採取や魔術の訓練のために足を運ぶ機会が多い。
「だが…………これがまた曲者でね。現れたのは、その書物喰らいだけではなかったんだ」
ノエルは手元の端末へ視線を落とすと、それをそのままゆっくりと、かつ、縦横無尽に駆け巡らせた。その間にも一同は話に聞き入り、次の言葉を待つ。
「そこに居合わせたのは、“シロエ”と名乗る記憶喪失の、謎の青年。調査に向かってくれた埋火君と凍瀧君によると、彼はそんな魔物を目の前に、しばらく眠ったまま目を覚まさなかったらしい」
先ほど――正午よりほんの少し前に天狐族の二人から受けた調査報告を彼女が淡々と読み上げる。不可解な点は多い。彼女自身もあの場で告げた通り、あれからどれだけ頭を捻ろうが、決定的な何かは掴めずじまいだった。
……が、そんな思考の渦の中、不確かで確かな違和感が一つ。
「彼を見つけた埋火君が咄嗟の判断で助けに入り、どうにか事なきを得たそうだが――」
液晶の上を滑らせていた指先をそっと止め、向けた視線はそのままに、少し目を細めた学園長が呟く。
「私には、これが単なる偶然とは思えなかった。そんな、自ら死にに行くような無防備を晒しておいて、命に別状は無し――それどころか無傷だなんて、現実離れも甚だしい」
口をついて出た言葉は、この会議のためにと、予め用意をしていたそれとは酷くかけ離れたものだった。
端的に言ってしまえば、私情。けれど、ひた隠しにしていたはずの得体の知れない不安感は堰を切ったように溢れ出し、止めどなく流れてゆく。
「もし、これら一連の書物喰らい凶暴化騒動が、彼と密接に関わっているとしたら? まだそれを決定づけるものなど何も無い、あくまでも憶測の域を出ないが――どうも何かが引っかかる、胸騒ぎがするんだよ」
ひとしきり心情の吐露を終えると、些か胸のつかえは和らいだ気がした。一方で、それと同時に、如何ともし難い情けなさが湧き上がるのも否めない。
この学園を統べるリーダーたるもの、もっと毅然とした態度で何事にも臨まねばならないというのに――などと軽い自己嫌悪の念に苛まれる。
フゥ、と小さく溜息をつくと、しばし続いた静寂を破り、とある質問が投げかけられた。
「すみません。その、“彼”なのですが……ただ単に、何らかの事故などによって記憶を失ったというわけではないのですか……?」
そんなリツカの言葉を受け、少し重たそうに顔を上げたノエルが僅かに目を見張る。碧と深緋の瞳が宙で交わる中、それを聞いた他の教員達も、確かに、とでも言うように、互いに目を見合わせたり、頷いたりしている。
「……そうだ、言い忘れていたね。もし、本当にそれだけなら私も特に気には留めなかったと思うよ。この“彼”なのだが――」
「――――どうやら、グリモワを体内に宿していないようなんだ」
「えっ…………」
「ええええ!?」
「うそぉ!?」
学園長が発した衝撃の一言に、重苦しい雰囲気から一変、会議室内は瞬く間に騒然とする。質問者であるリツカは言わずもがな、その左右に座るナツメとオサキも同様に驚愕の声を上げた。
「ちょっとちょっと!? それ、一番重要な事じゃないですか!」
喧騒を引き裂くが如く、三者とは向かいの席から、マイの威勢の良い発言が飛ぶ。机の上で腕を組むようにして身を乗り出し、今にも立ち上がりそうな勢いだ。
「す、すまない。私もかなり気が動転していたようだ。あははは……」
それまでの威厳はどこへやら――彼女からの指摘に、周囲の声に掻き消されそうな、弱々しく脱力した声色でノエルが答えた。心做しか、いつもはピンと弧を描いている頭上のハネ毛も元気が無いように見える。
「グリモワが無い……って、彼、幽霊か何かなんですか……?」
「ひ……っ!」
冷静に問いかけたヒトキの言葉に、彼とマイの間に挟まれ座る、淡い桃色の長髪を束ねた小柄な教員――モモネが小さく悲鳴を上げる。その横では、乗り出した身体を元に戻し、再び座席に深く腰掛けたマイも話に耳を傾けていた。
「いや? ごく普通の人間だよ。見たところはね」
「はあ……」
こちらへ向き直り、ゆったりとした足取りで目の前へ来たノエルの返答に、釈然としない様子のヒトキ。それもそのはず、この世界に生きる者達は例外なく、皆、体内に“グリモワ”と呼ばれる魔導書を宿している。
人間を含む“生物”に限って言えば、グリモワは心臓同然であり、すなわち、生きる上で無くてはならない存在といっても過言ではない。生物としての核にあたる部位が無いのに生きている――などという事象は本来、絶対に成立しないと断言して然るべきものだった。
「しかし、グリモワが無いのに存在していられて、怪我をした形跡も無い――やはり幽霊や怪異の類いなのでは……」
そうでなければ説明が付きませんよ、と続ける彼に対し、学園長は何やら得意げにほくそ笑む。
「ふふ、だから言っただろう? “特異点”だと……ね!」
「…………なるほど?」
やや強引な気もしたが、実際問題、彼の存在はこの世界の法則から著しく逸脱している。現時点では仮説とはいえ、その部分に嘘偽りは無いだろう。
そうなると、残された疑問――解決すべき事態は、ただ一つ。
「あの子が現れたことで、この世界の何らかのバランスが崩れ、今回のような事象が起きたのではないかと私は踏んでいるのだが――仮にそうだとすると、書物喰らい達を狂わせた異常な魔力の所在については説明がつかない……どうしたものかな」
再度考え込み、独り言のようにそう呟いたノエルの表情が少し陰る。ヒトキはそんな彼女の様子をちらと見やると、そのまま自身が用意したと思しき資料の束へ視線を落とし、静かに口を開いた。
「正確な因果関係までは分かりかねますが、今回の書物喰らい達の暴走に、その方は関係無いような気がしますよ」
「……? それはまた、どうしてだい?」
彼女の問いに、パラパラと手元の紙面をめくっていた指先がピタリと止まる。伏し目がちな横顔の、元から切れ長の目が、より一層細められた。
「そもそも――彼、本当に襲われていたんですかね?」
「…………というと?」
今更何を――と言いたげな雰囲気がその場に漂うも、彼は特に臆せず、抑揚の無い声色で淡々と続きを述べる。
「だって、体内に“グリモワ”が無いんでしょう?」
「――ッ!」
その一言に、ノエルは思わず息を呑む。そして、何かを確かめるように、そうか、そうだよな、と小声で繰り返し呟いた。
「あ、あまりにも当たり前の事すぎて失念していたよ……可食部の無い相手をわざわざ襲うか、という話か……」
「ええ。書物喰らいが“書物喰らい”たる所以ですよ」
書物喰らい――この世界に生息する、異形の魔物達の呼称。
姿形や危険度は個体によって様々だが、皆一様に、“他の生物の体内に宿るグリモワを喰らう”という習性を持つ。その生態からも窺える通り、常に魔力を渇望しており、魔力そのものに対しても強い反応を示すのが特徴だ。
また、故人となった者のグリモワは“アーカイブ”と呼ばれ、それが魔力と共に書物喰らいの体内に蓄積されてゆく。結果、年月を伴って膨大な力となり、より危険度の高い魔物へと変貌を遂げる――そのため、長年、討伐が果たされていない書物喰らいの及ぼす脅威は計り知れない。
「もし、本当にその方が今回の騒動の元凶であったとして、わざわざ自らを危険に晒すような手段を選ぶでしょうか。もっと他に、やりようはあるはずです。……なんて、私は当事者ではありませんがね」
「ふむ…………」
それから――と、一呼吸を置いて彼が更に続ける。
「異常な魔力の出所でしたら、既に突き止めておりますよ」
ヒトキはそう言うと、資料の束の中から一枚の用紙をひらりと抜き取った。
「――――え、」
……正に“青天の霹靂”、もしくは“灯台下暗し”とでも言うべきか。彼女にとっては、散々己の頭を悩ませていた問題の答えが突然、目の前に現れたのだ。驚くなという方が無理な話だった。
「ほっ……本当かい!? 入相君!」
動揺か興奮か、その勢いのままに彼の座る席の机に両手をつき、やや前のめりに身を乗り出すノエル。そんな学園長の言動に、周囲の視線が二人へと集中する。
「ちょ、声が大きいですって……!」
目前の彼女を慌てた様子で宥めるも、時すでに遅し。またも予期せぬ注目を集めてしまった彼の目は、気まずそうに宙を泳いだ。
「なあんだ! そういう事は早く言ってくれたまえよ!」
「す、すみません……お話の最中に口を挟むのもどうかと思い……」
ノエルは快活に笑いながら、ヒトキの背中を肩を組むように回した片手でペシペシと叩く。長く余った袖も共に背中に打ち付けられる側で、彼はそれに抵抗する気配すら見せず、なすがままにされていた。
「――そうだ、私としたことが、まだ君達からの調査結果報告を受けていなかったね?」
彼女の視線が、くるりと後方のリツカの方へ向けられる。振り向いた学園長と目が合った彼も、その事を今思い出したかのような、ハッとした表情を浮かべた。
「…………そういえば」
「ねっ、すっかり忘れていたよ。ははは!」
申し訳なさそうに目を逸らすリツカに同調するよう、ノエルが朗らかに笑い飛ばす。
「へぇ…………」
そんな彼女の隣には、普段より低い――明確に怒気を含んだ声色で凄むヒトキの姿。座席の配置上、多少の距離はあれど、彼の真正面に座っているリツカがいち早くその様子に気が付き、分かりやすく狼狽した。
「がっ、学長! 後ろ、後ろ……!」
「んー? ……あっ、えっ、入相君?」
慌てふためく彼に言われるまま、ヒトキの方へ向き直ったノエルも、そこでようやく状況を理解する。
「突然、私と天陽先生を立入禁止区域に送り込んだと思えば、緊急の職員会議をするから戻ってこいと急に呼び戻し――挙げ句、それを忘れていた…………ですか」
「い、いや! これはその……別にそんなつもりは無くてだな!?」
彼の、資料を持つ両手に力が込められ、ぐしゃ、と小さな音を立てた。
「ふふっ……面白いご冗談ですね?」
言葉や上辺ではどうにか平静を取り繕っているものの、黄檗色の瞳の奥までは笑っていない。静かに怒りを露わにするヒトキに対し、凄まれたノエルだけでなく、向かい側に座るリツカやナツメまで冷や汗をダラダラと流している。
「ええ〜。ノエちゃん学長〜、それはあんまりですよぉ。トキ君とリツ君に謝った方が良いと思います〜」
「うえ……?」
「葛乃葉先生!?」
その横から、相変わらず動じる気配の無いオサキが頬杖をつきながら口を挟む。思わぬ人物の加勢に、驚いたリツカが勢い良く振り向いた。
「立入禁止区域……って、まさかあの泉ですか? え、じゃあ、その後にイツキ君の件まで……? いやいや、さすがのヒトキ君でも怒りますって!」
「うぐ……」
そんなオサキに便乗するかのように、すかさずマイも会話に加わる。彼女には現場を一部見られているだけに、それまで冷ややかな目を向けていたヒトキの眉が一瞬、ぴくりと動く。
「ちょっ、マイ先生まで……!」
「リツカ君もだよ! こういう時は少しくらい怒ったっていいんだからね?」
「っえ? あ、はい……すみません……?」
「そうだよぉ〜、リツ君ってば、本当に嫌な顔ひとつせず何でも引き受けちゃうんだから〜」
「お、オサキ先生……? その辺にしておきましょう? ねっ?」
白熱した言い合いの外側では、モモネとユノが気まずそうに俯き、口をつぐんでいる。もはや収拾のつかなくなった会議室内――渦中のノエルが縋るようにヒトキの方を見ると、その眼差しからは最初のような威圧感はすっかり消え、むしろ、自分が言い出した手前、引っ込みがつかなくなってしまった現状に申し訳なさと焦りを感じているようだった。
互いに、どうしよう、と視線で会話を交わした後、意を決した彼女が先に動いた。
「ごめん! 本当にごめんよ! いや、申し訳ない! 私が悪かった! 悪かったから!!」
「…………っ、」
机に額をぶつける勢いで、ノエルが深々と頭を下げる。そんな彼女の耳元では、乱雑に置かれた資料がバサバサと音を立てた。
「あ、頭を上げてください……! こちらの方こそ大人気なかったです、すみません……!」
思わず席を立ったヒトキが慌ててそう言うと、周囲のざわめきも次第に落ち着いてゆく。
恐る恐る顔を上げたノエルの瞳が、薄暗い室内の微かな光を反射し揺れる。いつの間にか自身を見下ろす姿勢になっていた彼に少し驚きつつも、困ったように眉を下げ、くしゃっとした笑みを浮かべた。
「――少し、休憩にしようか」
窓の外から射し込む蒼が鮮やかさを増す頃、学園長のその言葉で会議は一時休戦となる。
――長い長い午後の時間は、まだ始まりを告げたばかりだ。




