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八国史〜『新約魔書』世界一のワーストセラー〜  作者: 月詠 夜光
~天の章~

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第3話:アルバス奪還

 ガブリエルは、アルバスを絶対に救う!と決心していた。


 その一方で、ガブリエルはアルバスを何も理解していない事に気付かされた。


 人参が好物の、心優しき子。せいぜいが、その程度だった。


 だが、現在は心優しき子ではあり得ない。そんな子では、『星降る谷』では命取りになる。


 最悪、人の味を覚えていなければ、肉の味を覚えている程度は許容の範囲内だった。


 故に、ガブリエルはヴァイスとシュヴァルツと云う竜人二人の冒険者を雇って、山ほどの人参を背負って『星降る谷』に向かった。


 その際、ルナも「生命の奔流」を感じ取り、アルバスの居場所を探す為に同行したのだが、ルナはアルバスの脱走の際に巻き込まれて軽く負傷していた。


 竜人二人からは、「血の匂いがして他のモンスターを引き寄せる」と同行を拒絶されたのだが、ガブリエルは二人への報酬として危険手当を多めに割り振る事で、その不満を解決した。


「で、アルバスの居る場所が判る?」


「……コッチ。でも、他のモンスターの気配もする」


「──そのモンスターは、キッチリと狩れるのかな?}


「お任せです!」


「任せるのだす!」


 二人の竜人は、確かに頼もしかった。未だ若いように見えるが、充分に冒険者としての腕を磨いていた。


 道中のモンスターは、全て狩った。そして、肝心のアルバスの下へ来た時に、二人に待ったを掛けた。


「アルバス、大丈夫かい?」


「フーッ!」


 性格は凶暴化していそうだったが、ガブリエルを覚えているのか、警戒はするものの襲ってくる気配は無い。


「ホラ、食べるといい」


 人参をアルバスの手許に投げてやる。アルバスはそれを食べ、齧るものの、食べ終えたらまた警戒音を発した。


「どうしよう……兎も角、人参を食べさせよう」


 持って来た人参を一本ずつ投げ与えるガブリエルであったが、アルバスはその尽くを食べ尽くすものの、警戒音は止まない。


「アルバスを……理解……」


 アルバスの理解を試みながらも、その『精神支配の術式』を解くべく、解呪の術を放った。


「フーッ!シャーッ!」


 徐々に呪が放たれつつあったが、ソレはアルバスの全身を包み込むように滞留する。


 ガブリエルは解呪の術を重ね、その滞留する魔力を散らそうとしたが、効果が現れない。


「アルバス、俺に身を委ねろ!」


 そして、ガブリエルは賭けに出た。その身に纏う王気で、滞留する魔力を散らすべく、その身をアルバスの下へ投げ出したのだ。


「グルルゥゥウウウウアアアア!」


 アルバスの叫び声が聞こえた。だが、それが最後だった。


 魔力が散った後、残っていたのは、アルバスとその美しい毛並みを抱きしめるガブリエルだった。


「アルバス……」


「クルルゥ……」


 ガブリエルは理解した。解呪の術を受け入れて、アルバスが自身を成り立たせている術式までをも無効化させることを恐れていた、と。


 それを、ガブリエルがただ線引きしてあげただけだ。どうと云うことは無い。アルバスを成り立たせる術式は、ガブリエルが完璧に理解していたのだから。


「ありがとうな、アルバス。


 さあ、帰ろう!」


「クルルゥ」


 だが、ガブリエルは軽視していた。アルバスがアーチュウの命を奪ったと云う事実を。


 故に後に問題となるのだが、今はただ、アルバスを無事連れ戻せて良かった、良かったと云う話になっていた。


 ヴァイスとシュヴァルツには危険手当を含めた報酬を支払い、それでその件は片付いた。


 ただ、アルバスもいつまでもケージに入れっぱなしと云う訳にはいかない。


 ガブリエルはリルーと相談し、動物園に預けてはどうか、と云う案が提示された。


「それも悪くは無いのかも知れませんね」


 大きな(おり)に入れられるが、充分に動き回れるスペースは確保出来る。


 それに何より、ガブリエルがいつでも様子を見に行ける。


 当然、アルバスがブレスを吐く可能性を考えて、安全な距離を保つ為に客受けは余り良くないかも知れないが。


 そもそも、人気の珍獣にする為に、アルバスを創った訳では無いのだ。


 飼育員に(なつ)きさえすれば、世話を任せても問題ない。


 そして、餌には安価なペットフードで済ませられる。


 多少、多くの餌を喰いはするが、莫迦みたいに沢山食べる訳でも無い。


 それに、研究所と紐付けておけば、錬金術の研究の役に立つ。特に、初期の材料は全て無機物と云うのが、『生命とは何か』の疑問に、ある一定の意味を見出せる。


 救えて良かった……と、ガブリエルは単純に考えていたが、問題はこの先に山積みになっているのである。


 先ず、アルバスに因るアーチュウの殺害の責任の所在。ソレは、アーチュウが『精神支配の術式』を盗み出したことから、アーチュウ自身に責任があるとされ、何とか回避出来た。


 次に、アルバスの扱いについて。コレは、ガブリエルとリルーの発案により、安全マージンを保ちながら、動物園で保護する事で解決出来そうだった。


 最後に、アルバスの餌代について。コレは、複数案が出たものの、来園者の入場料からある程度確保しつつ、研究所と動物園自体からも出資する事で片が付いた。


 序でに、アルバスが存命の間、人工生命に関しては、その創造を一切禁じるとの、厳しい条件が付加された。


 この、序での条件が、錬金術の研究に於いて、とても厳しいものになることは確かだ。


 だからと云って、アルバスを安楽死させるか?否、それでは、アルバスを取り戻した意味が失われる。


 序での条件については、仕方ないものとして、無機物の変質と云う研究に暫く従事する事で研究所の方針も決まった。


 アルバスの軍事転用と云う案が出なくて、本当に良かった!


 だが、アルバスを始めとしたキマイラを、軍事利用することが可能であることは確かなのだ。


 露払いには、適しているのかも知れなかった。


 でも、平和であることに越したことは無いのだ。


 笑う為とは云っても、WARーAってしまっては、全てが台無しだ。


 世界統一、大いに結構。但し、それは『和平交渉』の結果によってであることに意味がある。


 お話にならない?だからと云って殺すのか!


 馬鹿を言うな!例えアルバスのような人工の命でも、尊い事に代わりは無い。


 テロをしそうだから予防しようとした?そんなもの、テロを実行に移す口実になるだけではないか!


 因果関係を良く考えろ。


 現時点で、八ヵ国世界は『~闇の章~』にて破滅エンドになることが決まっている。


 『~闇の章~』が始まる前なら、まだ間に合う。だが、『~闇の章~』が始まってしまえば、その時点で決断は下される。


 序でに世界を破滅に導くことになるが、恐らく、それこそが本望なのだろう。


 ワーストセラーと云う言葉を軽く見るな!ソレは最も売れない本であると同時に、世界最悪の話である運命も背負っている。


 恐らくは、botしか読みに来ていないのだろう。


 元より、覚悟していた事態だ。


 ならば、アルバスもまた、終焉に向けての魁となる獣となろう。


 だが、それは今では無い。


 で、あるが故に、天星王の『上王』からの引退宣言が出された。


 天星王も代替わりし、現八ヵ州の州王から、投票により、次の『上王』は風神王と決まった。


 元より、コレは規定路線である。


 問題は、その次の『上王』がどの州王になるか。


 有力なのは、光朝王、水帝王、そして、現時点では闇夜王でもあった。


 滅びる宿命であれば、闇夜王の『上王』任命も、可能性としてはあるだろう。


 そして、八ヵ州王はその破滅エンドの宿命を覚悟している。


 ならば、『~闇の章~』の序盤にて、闇夜王の『上王』任命となろう。


 そして、闇に滅するのだ。恐らくは、既に定められた宿命なのだ。


 『運命』は回避出来る。『宿命』は回避出来ない。


 アルバスは、最終的に滅びを齎す魔獣となろう。


 それでも、ガブリエルはパンドラの箱の底に眠る『希望』を信じるのだ。


 例えそれが、裏切られる宿命であったとしても。

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